第50話 対の存在

『目を開けてみても大丈夫だよ。状況を確認していこうか』


 目を開けると、そこには白亜の姿があった。危険だと判断した白亜が愛理以外の時間を止めてくれたのだろうか。あたりを見渡した愛理だが、目の前の違和感に首をかしげる。


「あなたは、本当に白亜、なの?」


『どうして、そう思うの?どう考えても僕は白亜でしょう。愛理ってばおかしいね』


 白亜と名乗った目の前の少年に愛理は違和感を覚える。白亜とよく似ていたが、決定的に違う点があった。目の前にいる少年は、白亜ではないが白亜に似ている。人間ではない可能性があるため、愛理は警戒したのだが。


「だって、白亜は、白いから白亜なんでしょう!あんたは黒いから、絶対白亜じゃない!」


 警戒するより先に、違和感を指摘することを優先し、さらにはその違和感を叫んでしまった。



『やれやれ、黒曜(こくよう)。久々に会ってみれば、いたずらしおって。愛理が混乱しているだろう』


 白亜と名乗った少年は全体的に黒い印象だった。白亜は白い髪に紅い瞳で、服装も白いシャツにズボンをはいていた。目の前の少年は、それとは反対の真っ黒な髪に紅い瞳の少年だった。服装も黒いシャツに黒いズボンで、声は似ていたが、色が決定的に違っていたのだ。愛理の叫びにもう一つの声が黒い少年にかけられる。


「白亜!」


『僕は愛理には姿を見せていたんだ。だから。お前の姿を見せても、愛理は間違えない』


『ふうん、ずいぶん人間に心を許しているんだ』


『まあね。黒曜はそこの人間を利用しているんだね。僕の言ったことを実行しているというわけか』


 黒と白の少年が言い争いをしている。ただし、二人は人間ではなかった。二人の少年は、地面から50センチほどの高さで宙に浮いていた。


『愛理とか言っていたな。お前はオレ達を楽しませてくれるのか?』


「楽しませる?」


 黒の少年、白亜に黒曜と呼ばれていた少年の問いに愛理は意味がわからず首をかしげる。


『オレ達は人間によって生み出された存在だ。そこで固まっている奴らによって』


 黒い少年が指さした先には、時間が止まって動かない百乃木がいた。


『僕と黒曜は百乃木たちによって生み出された存在なんだよ。時間の歪みから生まれた時間売買を守護する存在だと、百乃木は言っていたな』


『人間から生み出されたとはいえ、オレ達にもこの生を楽しむ権利はあるだろう。白亜の受け売りだが、オレ達は人間を自分たちが楽しむために利用することにした』


「利用するって、どういう意味なの?そもそも、百乃木さんたちが生み出したのは、白亜だけじゃなかったの?白亜とよく似た黒い君も白亜と同じ存在って……」


 二人の話す内容が理解できなくて、愛理は疑問に思ったことを口に出す。


『黒い子言うな。オレは黒曜という名前がついている』


 黒い少年は自分の名前が黒曜だと訂正した。



「うう、頭が痛い。どうして私がここに居るの?」


 白亜と黒曜と名乗る少年と話をしていると、近くで呻き声が聞こえた。妹の美夏だった。先ほどまでの正気を失った状態ではなかったので、愛理はほっとした。今の状況を教えてあげようと口を開く。


「美夏、今、この場所は」


『お姉ちゃん!』


 愛理の言葉に美夏の言葉が重なった。がばりと美夏が愛理に抱き着いた。とっさの機転で頭からの落下は防いだが、愛理は美夏に地面に押し倒されてしまった。


「み、美夏。記憶がもどって」


「どうして私はお姉ちゃんのことを。ごめんね。わたし、わたしは」


 地面に接した背中が痛かったが、美夏の様子が気になり、傷みどころではなかった。美夏は涙を流して、愛理にしがみついている。どうして突然、記憶が戻ったのだろうか。


『黒曜と僕が二人そろったからかもしれんな。僕たちは時間を操ると同時に、人々の記憶にも関与することもできる』


『オレ達がいるだけで、忘れていた記憶が戻ることもあるのかもね』


「うええええええん」


 泣き出した美夏は愛理から離れてくれなかった。いくら妹の記憶が戻ってうれしいとは言え、いつまでもしがみつかれていたままでは困ってしまう。


「いっかい、私から離れなさい、美夏!今がどんな状況かわかっているの?」


 しぶしぶと愛理から離れる美夏だったが、それでも不安なのか、愛理の手はしっかりと握っていた。


『さて、落ち着いたところで、この状況の確認をしていこうか』


 黒曜が先ほど愛理に発したことを今度は本物の白亜が口にした。


『先にオレの話を聞いてよ。白亜と会うためにいろいろ頑張ったんだよ!』


 白亜が代表して、この場の説明を始めようとしたが、黒曜の横やりが入った。




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