20
「ごめんなさい。」
言葉は、意識するまでもなく自然と口からこぼれ出ていた。それを聞いた慎一郎さんは、首を傾けて俺の顔を覗き込んだ。
「どうして謝るの?」
「……。」
上手く言葉が紡げなかった。俺がゲイじゃなければ、と思った。しょっちゅう思っていることではあった。俺がゲイじゃなければ、母親は俺を愛してくれただろうか、とか、友人を作ることができただろうか、とか、屈託なく恋人と笑いあえただろうか、とか。でも今の、俺がゲイじゃなければ、は、その先に続く言葉が不確定だった。俺がゲイじゃなければ、慎一郎さんにこんなことをさせずに済んだのだろうか? それとも、もっとあっさり抱きあうことができただろうか? よく、分からない。
「難しいことを考えてるね。」
慎一郎さんが、俺の手を取って、彼の白いシャツの一番上のボタンに導いた。
「いつも、亮輔くんは、難しいことを考えてる。」
それが俺には、もどかしいような気がする。
そう言った慎一郎さんに促されるまま、俺は指に触れたボタンを外した。もどかしい。慎一郎さんの言うことは、俺にはよく分からなかった。
「脱いでよ。」
慎一郎さんが、軽い冗談でもいうみたいに、俺のシャツを引っ張って脱がせる。本当にこのひとは俺とセックスするつもりなのだ、と、改めて思って、身体が震えた。そんな情けない俺を、慎一郎さんは正面から両腕で抱きしめてくれた。
「こんな若い子捕まえて、なんか悪いことしてる気分になるね。」
やっぱり冗談みたいな慎一郎さんの言いようは、緊張をほぐそうとしてくれているからだと分かっていた。慎一郎さんだって、隠しきれないくらい緊張しているはずなのに。だから俺は、やっぱりどうしようもなくこのひとが好きだ、と、ようやく自分の中で認めた。認めることは怖かったし、認めてはいけないと理解もしていた。それでも認めざるを得ないくらい、慎一郎さんの肌に触れて、俺を思いやってくれる言葉を聞いて、恋情がつのっていた。
今夜だけは、と、念じるように思う。
今夜だけは、このひとといたい。その後を求めたりはしないから。俺の幸福はこの一晩で使い果たすから、今夜だけはこのひとといたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます