第31話 ロデリックVS悪役令嬢
「バイロニー殿下の話は聞いている。俺は父の使者として来ている」
ロデリックは宰相閣下の手紙を出してきた。
「バイロニー殿下を王都へ連れてくるように仰せだ」
「な、なにを……っ」
クラウディアは歯ぎしりしながらロデリックを睨みつける。
ロデリックの父、宰相閣下と、クラウディアの父、外務大臣閣下はライバル関係にある。政敵といってもいい。
二人の爵位は共に公爵。クラウディアの父の方が筆頭公爵家なので格は高いが、ロデリックの父は臣下の最高位である宰相の役職に就いている。今のところ、二人の立場は同格というところだろう。
「バイロニーをイバキラ王国へ引き渡せば、彼の命はない。クラウディア嬢は、イバキラ王国のヒルダ公爵とはご親戚でしたね? あなたとは叔父と姪の関係にあたるとか?」
「だったらなんなのです?」
クラウディアは警戒するような目つきをしつつ、強がるように扇子を扇いでいる。
「第二王子がイバキラ王国の王太子、いずれ王位を継げば、ヒルダ公爵はもっと力を持つことになる。イバキラ王国の政治、軍事は思いのまま。あなたはそんなイバキラ王国を取りこもうとしている。なんのためにそんなことをしているかと言えば、チャンドラー家の決起の際の援軍のため。チャンドラー公爵領には、イバキラ王国と繋がる橋が――」
それを聞いてハッとした。
王弟ルートでもそうだった。国境を面している場所から敵の軍勢を入れ、圧倒的軍勢で攻め入ってくる。
イバキラ王国とバチ王国では戦力はイバキラ王国の方が上回る。のんべんだらりと平和を謳歌しているバチ王国と異なり、イバキラ王国は周辺諸国を併合し、勢力を拡大中だ。
王弟が筆頭公爵に代わっただけ。この国の危機はまだ去っていない。
そして王弟よりも筆頭公爵家の方が勢力も上だ。彼に味方する貴族も多いだろう。そうなると負けるかもしれない。
「無礼ではありませんか、ロデリック様。この筆頭公爵家であるチャンドラー家がイバキラ王国と組んで、王家に謀反を働こうとしていると?」
「そう疑われても仕方がないのでは?」
「バカなことを。そもそもバイロニーを王都へ逃したところで、第二王子がイバキラ王国の王位を継ぐのは既定路線ですわ。亡命王子などなんの役にも立ちませんもの。彼を王都へ逃してなにをなさるおつもり?」
「なにも。ただ、彼は俺のクラスメートですし。心情的に助けたいと思っただけです。それを父も賛同してくれました。彼を利用して何かを為そうなどと思いません。ただ、第二王子の勢力としては、彼が生きて存在しているだけで脅威なのではないかと。あなたはその勢力に恩を売ろうとしている」
冷静に話すロデリックに俺も加勢する。
「大体、クラスメートなのはクラウディア嬢も同じでしょ? かつて共に学んだ仲間が殺されそうになってるんですよ? 助けたいと思わないんですか? 助けましょうよ!」
そう言うと、クラウディアはふふ、と笑った。
「ダスティン……あなたのそういう性格、わたくし、大好きですの。優しくて可愛くて……甘くて」
甘くて、のところで微妙にトーンを落とした。その目はもう笑っていない。
「話はそれだけですの? わたくしは帰りますわ。ダスティン――みぞうちを押されて苦しむあなたの悲鳴と表情、最高でしたわ。当面のおかずには困りませんわね。オーホッホッホッホッ……」
高笑いをしながら去っていく。これは諦めてくれたといっていいのか。しかし他人の苦しむ様子をおかずにするとは……どんだけサディストなんだ。
「ありがとうございます、助かりました。ロデリック殿」
団長はロデリックに頭を下げる。そして俺のお腹に視線を移した。
「大丈夫? まだおなか痛い?」
なんと。団長は俺のおなかをさすさすとさすり始めた。
「でも、ダスティンがクラウディア嬢のおかずになるの嫌だな。どうして君はそう隙だらけなの?」
少し咎めるように見られるが、そんなの仕方ないじゃないか。
「いや、だって……あの人、強いし」
「ダメだよそんなんじゃ。もう君を彼女の手に届かないところに閉じ込めるしか、守るすべがないじゃないの……」
ヤンデレのようなことを言って、団長は去っていく。
「……彼が統括軍団長の次男? ダスティンが男色家になったと王都では評判になってるけど、確かに可愛いな」
「ち、違うんだ! 違わないけど、違うんだ!」
まだ団長が本当は女の子であることは秘密だ。でも秘密である限り俺は男色家になってしまう。あぁ……でも、団長の愛の前には些末なことだ。いくらでも俺のことを男色家だと思えばいいさ。
「そうだ、俺は男色家だ!」
ムンッと胸を張って宣言した。
「そうなのか。ダスティンだったらぜひ、と王都でも数々の男色家が候補として手をあげているんだ。彼に振られても大丈夫だぞ」
「それは遠慮しとく……」
とりあえず、せっかくロデリックがやってきたのだ。ここは同窓会といこう。
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