第26話 団長&俺VS熊

「バイロニー様、栗を取りにいきません?」


「いいですね、行きましょう」


 二人は今日も仲良くデートをするようである。だが、バイロニーは暗殺者に狙われる身。正直なところ大人しく基地内で閉じこもっていてほしいものだが、それだと気が滅入ると姉ちゃんは言う。


 いや、姉ちゃんは理想的な受けキャラと恋仲になって、ちょっとはしゃいでいるんだ。前世では喪女だったからな。


 仕方ないので団長始めとする第八騎士団で少し離れて護衛する。


 基地は山の麓に建てられている。そこから山道を抜けると栗の木の密集地がある。ちなみにこの山は王国軍の持ちモノだ。栗を拾っても泥棒ではない。


 一応西洋風ファンタジーなので、栗をとっても栗ごはんにするのではなく、モンブランを作るんだそうだ。それを聞いた団長もウキウキしている。


「いいなぁ~。美男美女のカップルで」


「長期休暇が出ない限り、男所帯からは逃れられないからな。見合いの話も来ないし」


 ジョニーさんとジン先輩は、仲睦まじい二人を妬みたっぷりで見つめている。それはユージンも同じのようだ。


「そうなんだよ。王国軍は強ぇヤツがいて楽しいけど、唯一つらいのが女の子がいないってところなんだよな。男色家のダスティンが羨ましいよ」


「……そ、そうだな」


 団長の身の安全とライバルが増えないためにも、団長の真の性別は絶対に秘密にしておかなければ!


 基地から離れた山道に差しかかった時だった。


「止まれ!」


 団長が小声で呼び掛け、腰の剣に手を伸ばした。物陰からがさがさと音がする。


 大きな影が登場し、そいつは獰猛な目つきで俺達を見渡した。熊である。大人の熊で二メートルほどの大きさだ。のっしりとこちらに近寄ってくる。


「君達、そーっと、ゆっくり後退しろ」


 団長が指示を出し、騎士達がバイロニーと姉ちゃんを守るようにそーっと後退する。


 その時、熊が機敏にこちらに襲いかかってきた。すかさず団長が鋭い声で「全速力で逃げろッ!」と叫び、自分は熊の進路上に立った。団長からも熊に向かう。


「無茶ですって! 団長ッ!」


 俺は立ち去ることもできず、団長の背を追う。その時、もう一頭の熊が現れた。団長に向かおうとするから俺が立ちふさがった。


 不思議と怖さはなかった。俺も団長のように熊に立ち向かう。図体がでかい割には機敏だった。するどい爪で襲いかかってくるが、すばやく避ける。木に伝って駆けあがってから、上段から斬り込んだ。熊の肩に食い込み、すばやく剣を抜く。


 手負いとなった熊は、無我夢中で俺に襲いかかってきた。一旦後退してから、助走をつけて飛び上がり、目を突いた。断末魔の悲鳴をあげる熊にトドメを刺す。


 熊が動かなくなってから、急に足がガクガクと震えてきた。熊と格闘したのなんて初めてだ。


「団長」


 後ろを振り返ると、団長と格闘していた熊が絶命している。しかし団長がいない。


「団長~!」


 呼びかけてふと気付いた。足場が崩れ落ちている箇所がある。下は急斜面で、何かが滑り落ちたような痕がある。


 もしかして戦闘中、足場が崩れて落ちちゃったとか?


 熊との戦闘よりも団長を失う方が怖かった。さっきとは違う足の震えを押さえながら慎重に急斜面を降りる。


「団長~、団長~~!」


 倒れている人がいないか慎重に慎重に探すが、誰もいない。どんどんと下り、鬱蒼とした深い木々に囲まれ、陽の光も届かなくなってきた。


 ドクドクと不安で苦しくなる。その時だった。


 何かの水音がする。ゆっくりとその場へ行き、信じがたい光景を目にする。



 これは……あの……奇跡のスチルゲットの瞬間だ。



 団長が、野湯やとうに入っている。白い肌を惜しげもなく晒し、ふぅ~という表情だ。


 こちらを振り返る。団長が目を見開いた。


「あれ?」


 きょとんとした顔で俺を見た。


 その時、くらっと激しい目眩がした。裸の団長がそこに――――。


「ダスティンッ!」


 地面に頭をぶつけるかと思った瞬間、団長の腕が俺の頭を支えた。


「頭ぶつけると危険だよ」


 団長の白い肌も、胸の膨らみも、無駄な贅肉がない美しい裸体がすぐそこにある。


「だ、団長、は、鼻血がッ! は、は、離れてください~~!!!」


 慌てて団長が離れる。


「うわっ! 僕ってばほんと恥じらいがないなぁ」


 団長がばたばたと駆けて、服を着替えて戻ってくる。


「ご入浴中すみませんでした」


「あ、大丈夫。そろそろ出ようかなって思ってたから。ダスティンも入ってきなよ。腕、擦り傷できてるよ。ここの温泉はね、傷にいいんだって」


 なぜか俺は団長と交代で温泉に入ることになってしまった。


「み、見ないでくださいねっ!」


「見ないよ、もぅ。ちょっと見たいけどね」


「団長!」


 団長はクスクスと笑ってる。


「嘘……バレちゃった。ごめん、僕、男じゃないんだ」


 どこか悲しそうに団長は言った。


「実は知ってました」


 そう言うと、団長はギョッとしたように振り返る。

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