第23話 イバキラ王国の王太子様、登場

 震える青年達に防寒具を着せて、とりあえず王国軍基地へ急ぐ。そのうちの一人の青年に見覚えがある。


 この人は、イバキラ王国の第一王子、バイロニー・コラム・ベミットだ。乙女ゲームの攻略キャラクターでもあるこの人物は、王立学園時代のクラスメートである。


 淡いミルキーブロンドの髪に、切れ長のオパールの瞳。鼻梁も高く整い、俺のような可愛い系ではなく、美しい系で儚げな美男子だ。


「バイロニーだよ、バイロニー!」


 姉ちゃんも興奮気味だ。


 ていうか、姉ちゃんもこの第八騎士団と一緒に移動しているのすっかり忘れていたぜ。


「腐女子人気ナンバーワンだよ! 彼とユージンのカップリングも人気だったよね」


 その言葉を聞いて、俺の中の警戒心が高まる。


 団長は腐女子である。そして団長は攻めキャラよりも受けキャラを御贔屓にする傾向がある。


 そんな団長が、腐女子たちのハートを釘づけにした受けキャラ・バイロニーが気にならないわけがない。


「へ? 俺? カップリングってなんですか? カレン嬢」


 ユージンが姉ちゃんにすかさず尋ねる。


「えーと、ユージン様は、あのバイロニー様をどう思われます?」


「へ? バイロニー? あれ、イバキラ王国のバイロニーなの?」


 暗いので顔までよく見えないのだろう。馬上から背伸びして見ている。


「なんでカレン嬢は、あの人のこと知ってるんですか? 俺らは元クラスメートだから知ってますけど……」


「それはバイロニールートで知ったのですわ」


 話が噛みあっていない。バカなユージンは設定を忘れていると思うので、とりあえず「この世界は乙女ゲームなんですよ」というところからおさらいをする。


 ユージンは再度「エロい光景が見放題の電脳機器(PC)」に食いつく。その後ようやく乙女ゲームの話に戻り、姉ちゃんが俺の前世での生き別れの姉であること、バイロニールートでは、彼が悪役令嬢の恋のお相手であることまで持っていく。


「けどさぁ、以前お前が言ってた王弟ルートの線は消えただろ? バイロニールートに入ったわけ?」


「ストーリーの中心人物となる悪役令嬢がいないからな。バイロニールートではないだろ」


 バイロニーは俺らの母校に一年留学していた。その時にバイロニーのバロメーターが高ければ、悪役令嬢がユーリヒ辺境伯にやってくるというイベントが発生する。悪役令嬢の母親は、イバキラ王国の公爵家の出身で、その関係でイバキラ王国国境を守るユーリヒ辺境伯とも親しい。


 バイロニールートでは、バイロニーはイバキラ王国の暗殺者に追われていた。それをあの最強チート悪役令嬢が、可愛いうちの騎士団長の助力を借りながら追い払うというストーリーが展開される。


 バイロニールートに入らずとも、ここに悪役令嬢がいなくとも、彼が暗殺者に追われるという事件は起きてしまうのだろうか。確か、イバキラ王国内のお家騒動ということだったが……。


 かなり憔悴しているご様子のバイロニーを見て、これは厄介なことに巻き込まれたかも? と不安に感じ始めていた。



◇◆◇



「本当にご迷惑をおかけして申し訳ございません。私の名はイバキラ王国第一王子のバイロニー・コラム・ベミットです」


 もう知ってたけどね。彼は王国軍基地に着いた後に自己紹介をする。他の二名はバイロニーの護衛騎士のようだ。


 さりげなく団長の様子を伺う。萌えていないだろうか。


「ずぶ濡れだし、とりあえずはお風呂に入られてはいかがでしょうか。顔色も悪いようですし。護衛の皆さまも」


 団長は心配そうにバイロニーを見つめ、俺達に視線を移した。


「ダスティンとユージンは、バイロニー殿下と知り合いでしょ?」


「あ、はぁ……。元クラスメートですから」


 バイロニーが俺達の方へ目を向けた。


「あれ? ダスティン殿下。なぜここに?」


「俺、かくかくしかじかで殿下クビになって、下っ端軍人やってるの。だから単なるダスティンでいいよ」


 もう殿下は卒業したのだ。


「とりあえず、ダスティン達とお風呂入ってきてくださいよ。象さんの見せ合いでもして」


「しませんよ、そんなこと」


 団長の風呂妄想は置いておいて。とりあえず俺達はバイロニーを引き連れて風呂に入ることにした。


 ここの王国軍基地の風呂も広い。ちゃんとサウナまである。


「やったぁ~。サウナ~~」


 バイロニーも誘ってサウナでととのう。相変わらずバイロニーは浮かない表情だったが、サウナでととのって少しは気分転換できたようだ。


「私はどうやら国元では相当嫌われてるみたいで」


 バイロニーは風呂に入りながら嘆息する。


「えぇ~~。バイロニーって、嫌われキャラじゃなくない? 別に好きでもないけどさー」


 ユージンは軽くそう返す。一応クラスメートなので「殿下」という面倒な敬称は抜いて話している。


「お前ね、気を使えよ。『別に好きでもないけど』は余計なひと言だろうが」


「いいんだ、別に。そんなに話したことないのに好きでも変だし」


 俺がユージンに苦言を言うが、バイロニーは気を悪くはしていないようだ。


 こんな関係なので、今のところ、ユージン×バイロニーのカップリング成立はなさそうだ。


「バイロニー殿下はなにも悪くないのです」


「なにも悪くないのに殿下を亡きものにしようと企む勢力が――」


 共にサウナを楽しんだ護衛騎士達も声を揃えて言うのだが。


「この二人まで巻き添えにしてしまい、本当に申し訳ない。私のことはいいから、と何度も言ったのに」


 悲しげにバイロニーが言うと、護衛騎士達は「「とんでもない」」と声を揃えて言う。


「殿下は王太子です。それを剥奪しようとする第二王子と王妃様が――」


 護衛の一人が事情を説明してくれる。


「えぇ~! 王太子って割と絶対的権力っていうか。国王に次ぐ地位じゃん。うちの王太子、十二歳だけど向かうところ敵なしって話なのに」


 ユージンが俺の弟のアレックスをそう言うが、十二歳がナンバーツーになるうちの国ってどうなのよ。俺がだらしないのがいけないんだけどさ。


「それは、アレックス王太子殿下を国王陛下が認めておられるからだよ。うちは、違うんです」


 バイロニーは父親との関係があまりよろしくなさそうだ。


「弱い王太子など、群雄割拠がせめぎ合うこの世に不要です。父や第二王子達の言い分もわかります。私は国に帰って首を差し出そうと思いますが、この二人の事をお願いできないでしょうか」


 悲壮な決意を固めるバイロニーだが、とりあえず長話をすると逆上せそうなので、風呂上がりに団長と一緒に話を聞くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る