第4話 ばーさん激ヤバエピソード①

 お風呂に入りながら、私は今までの「ばーさん激ヤバエピソード」を思い出していた。ばーさんは私が産まれてくる前から、すごかった。

 ママが私を産む際、パパとばーさんが病院に来ていた。ばーさんは、そのとき既に智子と毎日のようにケンカを繰り広げていたらしい。私より五つ年上の従姉も、まだまだ小さかった。それに加えて離婚済みなので、智子も育児の疲れと自分のゴタゴタによる疲れが出ていただろう。そんな状態な智子と万年激ヤバの(まあ、これは智子にも当てはまるだろうが)ばーさんがぶつかれば、もう大問題でしかない。醜い母と祖母の争いを見ていた従姉は、一体どんな気持ちだったのだろうか。不思議なことに、それは想像できない。

 私がいざ産まれる……となったとき、ばーさんは衝撃的な言葉を発したそうだ。


「ねぇ、よしくん……もう帰りたい……」


 まさかのばーさんの発言に、パパも相当驚いたらしい。もうすぐ孫が産まれるというのに、そんなときも「自分!」な、ばーさん。「じーさんが心配でえぇ……」と泣きそうな顔で訴えてきたとのこと。それが嘘かどうかも分からず、大女優となって気の毒な自分を見せてきた義母に負けたパパは、ばーさんを家へ送ることにした。ちなみに、そのとき自宅で留守番していたじいちゃんは結局、別に何もなかったようだ。

 そして、ばーさんを送った後に、もう私は生まれてしまっていたのだ。


「もうポカーンとしちゃったわよ。だって出産したらパパたち、いなかったんだから!」

「いや俺も驚いたよ。あれっ、産まれちゃっていたのかって!」


 そのモヤモヤエピソードを思い出す度に、そう語る私の両親。何か引っかかるので「じゃあ私が空気呼んで、もう少し遅く生まれてくりゃ良かったのかよ」と言ったら「いやいや! それは全然ないから!」と二人は慌てて返した。ママからしてもパパからしても、どうやら私は悪くないらしい。

 元々ばーさんを病院に呼ぶ気はなかった。せっかちで我慢が苦手なばーさんは人の出産を待てないだろう、と誰もが予想できたのだ。それなのに、ばーさんは自分のことも分からずに「付き添うよ!」なんて無理矢理やって来てしまった。さすがに、これは本人に向かってバカって言いたくなる。また、ばーさん本人に私が誕生したときのことを話すとどうなるのかというと……。


「ありゃあ~? そんなことあったっけかあぁ~? そりゃすまんねえぇ~……」


 悪びれもせず、そんな返答。このばばあの鼻の骨をパンチして折りたいと思ってしまった私は鬼だろうか。一方じいちゃんは、その件に関して「悪いことをしてしまった」とショックを受けたらしい。

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