第2話 鍵っ子

父は1916年生まれの48才、母は40才、2才上の兄は中学2年生、千恵子は小学校6年生だった。まだ父も母も若く、新天地での新しい暮らしへの希望を抱いていた。何しろこの時代、団地は庶民憧れの最新式の西洋風住宅だったらしい。


父親は27才の時、戦争に招集され海軍の通信兵となり、戦後、小笠和諸島の父島から無事実家のある東京に帰還した。その後、勤めた会社の労働争議に誘い込まれ、そのお陰で東京でパン屋を営む父から「赤」と言われ勘当された。その為、他の兄弟には与えられた支援は受けられなく、母親は経済的な苦労をしながらも夫に従い、二人の子を育てながら仕事もして生きてきた。


千恵子と兄は当時流行った言葉の「鍵っ子」で、学校へ行くときも遊ぶ時も首にアパートの鍵を、ペンダントのようにぶら下げていた。これが一番鍵を失くさなくて良い方法だったのだろう。実際、千恵子も兄も与えられた鍵を紛失したことは一度もなかった。手ぶらで遊びに出掛ける子供には一番の方法だったのだ。

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