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 青のりが入った卵焼きと筑前煮ちくぜんに、それに鮭の切り身と味噌汁のシンプルだけど実に美味しい朝食を食べ終えて、わたしたちは部屋に戻った。


 部屋に着いて何気なしに窓の外を見れば、やはり外では叩きつけるかのような雨と風が吹き荒れている。本来のわたしと菘のプランでは、今日は島をぶらぶら散歩がてら観光ってことになっていたんだけど、これじゃあ無理よね。


 計画がなくなればこの時間は各自自由行動。わたしと菘は椅子に座り、部屋にあったポットで作ったレモンティーを何となくで飲んでいた。


「……雨、強いですわね」


 吹き荒れる窓の外に見て、どこか心配するような口ぶりで菘は言った。


「今ごろ呉須都さんはどこにいるのでしょう?」


 知ったこっちゃない菘のその言葉に、それまで何をするでもなくベッドで横になっていた雉間が反応した。どこか閃いたように言う。


「そういえば昨日、どうして呉須都さんは『英雄刀』を盗まなかったのかな?」


「そんなの盗む前にわたしたちが駆けつけたからに決まってるでしょ」


 冷たく答えたわたしに、雉間は至極真面目な顔をした。


「でも盗むならどう考えても『英雄刀』からだよ。だってほら、大きな『絵』や『象の黄金像』を盗んでから小さな刀を盗みに行くって目立つし変だよ」


 確かに……。そう言われてみれば雉間の言う通りね。


 わたしは眉を撫でる。


 それに『絵』や『象の黄金像』に比べたら、『英雄刀』のセキュリティーはかなり甘い。手こずることなんて何もないのに、どうして『英雄刀』は盗まなかったの?


「呉須都さんは高価な物から盗んだのではないでしょうか? お金にしたときのことを考えて」


「んー、でも菘ちゃん。その考えなら一一二号室は『絵』よりも先に床の絨毯を盗まなきゃだよ。高いんだし。いったい、どうしてだろう……?」


 あごに手をやり真剣な顔をする雉間。


 中々見られないその顔にわたしがしばし目をやっていると、突然むくりと立ち上がった。


「あー、うん。考えても仕方ないから大浴場にでも行こうかな。久良くんを誘って」


 どこか諦めたかのように言った。


 それを聞くなり、

「ね、ね、結衣お姉さま! 雉間さんが大浴場に行くなら私たちも行きましょうよ。ね!」

 腕に抱きつき懸命に提案してくる菘。


 なんで菘がそんなにも興奮気味なのかは知らないけど、

「そうね、温泉は何度も浸かるのが流儀よね」

 わたしは二つ返事で頷いた。


 が、結果としてわたしと菘は温泉には入らなかった。

 喜ばしげに「ふふっ、結衣お姉さまと温泉ですわ」と言う菘を知ってか知らずか雉間が、「あー、ぼくが温泉に入っている間、結衣ちゃんには千花さんの事情聴取をお願いしようかな」と抜かしよったからだ。


 間髪入れずに吠える。

「えーっ、ちょっと何でわたしが! 事情聴取なら探偵のあんたが行きなさいよ!」


 わたしの叫びに雉間は少しも狼狽うろたえる様子もなく、

「だって千花さん、何だかぼくにだけ態度が違うし、ぼくを警戒してるみたいなんだ」

 警戒?


「そういえばカリンさんが言っていましたが、雉間さんって千花さんとお知り合いなのですか?」


「ううん。昨日が初対面」


 一度言葉を切って、考えながら話す。


「それなのに千花さん、ぼくを見る目が何というのか、ぴかぴかというのか、ぎらぎらというのか、笑顔なんだけど緊張しているようなときもあるし、よくわからないんだ」


「そうですか……」


「うん。だからまあ、千花さんはこの時間部屋にいるって聞いたから、結衣ちゃんに行ってもらおうと思ってね。それに可愛い女の子の部屋に男のぼくが入るのも気が引けるしさ」


 こいつ今、純粋無垢むくな顔でもっともらしいことを言ったが……。


 雉間の言葉に菘、承知とばかりにない胸を張る。


「わかりました! では、千花さんのお部屋にはこれから私と結衣お姉さまで行ってまいります! さ、行きますよ、結衣お姉さま!」


 わたしは意気揚々と手を引っ張ってくる菘を、

「ちょっとわたし雉間に用があるから先に部屋の外で待ってて」

 笑顔で優しく部屋から追い出した。


 そして菘が部屋からいなくなった後で、

「何でお前はわたしの部屋には入ってたのよっ!」

 雉間に蹴りをいれた。

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