【問4】家宝はどこに消えたのか?
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【問4】家宝はどこに消えたのか?
雉間の部屋の一〇三号室は一〇一号室と同じ間取りだった。雉間は二つあるベッドのうち一つに仰向けで寝転び、今は仰向けで呉須都さんからの予告状を食い入るように読んでいる。
わたしは荷物をクローゼットの中に入れ、同じ部屋に居る以上は釘を刺すことにした。
声に力を持たせる。
「わかっていると思うけど、あんた絶対に変な真似しないでよね!」
すると、
「はぁい……。わかりましたよ結衣お姉さまぁ」
どういうわけか菘が反応した。
菘に言ったつもりはないんだけど……。わたしはなんとなく敵は意外と近くにいるものだということを理解した。
独り言のような声が聞こえてくる。
「うーん。それにしてもあの密室を呉須都さんはどうやって作ったんだろう……」
雉間だ。
菘は雉間の横に座った。
「鍵を掛けた後でドアの下から鍵を投げ入れたんじゃないでしょうか?」
「それはないわ」
わたしが断言する。
「あの部屋のドアに鍵を入れられる隙間なんてなかったわ。絶対に」
「うん、そうだね結衣ちゃん。それに鍵は床じゃなくて机の上にあった。だからあれは『二重の密室』なんだ」
「二重? 二重って何が二重なの? ただ鍵が部屋の中にあっただけでしょ?」
「あと千花さんの存在だよ」
千花さん?
どうもわからないわたしに菘がアシストする。
「ほら結衣お姉さま、食堂で掃除をしていた千花さんは一〇一号室に入る人など見ていないと言っていたではありませんか」
「ああ、確かにそうだったわね」
「そう。だからあの部屋はそもそも千花さんの監視下にあったんだ。それなのに千花さんに気付かれず呉須都さんが部屋を出入りしたとなると、これはかなり不思議なんだ」
いつになく真面目な顔の雉間。いつもそんな顔していればいいのに。
「あっ! ではですよ、雉間さん!」
突然、名案閃いたとばかりに菘が言う。
「呉須都さんの部屋を開けてから雉間さんが机の上の鍵を見つけるまでの間に、あの場の誰かが机の上に鍵を置いた、というのはどうでしょうか?」
即座に笑って却下する。
「あー、それは無理だね」
「うー、どうしてですか」
納得ができないとばかりに唇を尖らせる菘。なんともお嬢様らしく可愛い様だが、わたしは気にしない。
「菘、いい? あの部屋には雉間と、年中恐い顔をしていそうな久良さんの二人以外誰も入ってなかったのよ。それに部屋の外から机に向かって鍵を投げるような人もいなかったし、仕舞いには久良さんだって机の方には一切近付いてなかったの」
「あー、うん。結衣ちゃんの言う通り、そういうことだね」
そういうこと――。
つまり、あのとき部屋の中にいた雉間も、部屋には誰も入らず久良さんが机に近付いていないことを認めている。
と、そのとき。
「さて。お昼ご飯まで時間もあるし、そろそろ行こうかな」
思い出したかのように時計を見て、雉間はベッドから身体を起こした。
「行くってどちらにです?」
「どちらって、菘ちゃんはおかしなことを言うね。事情聴取だよ。探偵は足で稼ぐんだから」
雉間は当前のように言ったけど三年も依頼のない探偵はもう探偵ではないと思う。
続けて笑顔で、
「それに結衣ちゃんと菘ちゃんも行くんだよ」
「おかしなことを言うんじゃない!」
わたしは本音を叫んだ。
しかし雉間はいつもと変わらない調子で、
「えー、結衣ちゃんそれは困るよ。菘ちゃんはともかく、結衣ちゃんはぼくの助手なんだからちゃんと言うこと聞いてもらわないと」
クルミのような目がわたしを見る。
「結衣ちゃん、住むところがなくなってもいいの?」
「……」
それを言われるとわたしはとても弱い。
だからわたしは黙って従った。
ああ……。
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