女装しているけれど、僕は男の子

 そして時は現在へと戻る。ガラス越しに移る僕の姿を見つめる。

 女性の服には疎いが、なんだかフワフワしてフリフリしたやつだ。靴もなんか可愛らしいし、何故か小さなハンドバッグまで持たされている。髪にも手を加えられ、少し化粧もされた。


 僕は男の子だ。

 けれど、だめだ。これは女の子だ。

 どこの誰が見ても、女の子にしか見えない。


 元の格好に戻りたいけれど、さっきまで来ていたジャージは問答無用で洗濯機にぶち込まれ、グルグルと回っている。

 オンナノコ、コワイ。


 いや、力づくで抗っても女の子に脱がされる、自分の弱さを恥じるべきなのかもしれない。この体はいくら食べても大きくならないし、いくら鍛えても強くなってくれないけれど、そんな言い訳ばかりしているからダメなのかもしれない。


 もう一度自分の姿を確認する。

 だめだ。やはりこの格好はナイ。女装をした僕と一緒に歩いていたら、彼に迷惑がかかるかもしれない。

 そうだ。サークルの男の子に頼もう。誰かしら普通の、男らしい服を持っているはずだ。

 時間が押していたからそのまま来てしまったけれど、冷静になればなるほどコレはナイ。

 約束していた時間には間に合わなくなってしまうけれど、彼には少し待っていてもらおう。


 踵を返し、サークルの更衣室へと向かおうとした時、声を掛けられた。


「ねえ君、今ひま? 学食でお茶でもどうかな?」


 ナンパである。これは完全にナンパだ。二人組の男の子に声を掛けられてしまった。

 声を掛けてくれたのに申し訳ないが、このあと僕には予定があるし、それに僕は男の子だ。

 そう言って断ろうとしたが、それは前半部分で遮られてしまった。


「え、ボクっ娘??」

「なにそれ、いい。可愛い女の子のボクっ娘。いい」


 これは逃げる難易度が高そうだ。話を最後まで聞いてくれない。ていうか、二人目が怖い。なんか目もギラギラしている気がする。

 再度断ろうとしたら、次は後ろからの声に遮られた。


「すんません。そいつ俺のツレなんで、離してもらって良いですか」


 彼だ。そう言えばもうすぐ約束の時間になるのだから、ここに来てもおかしくない。

 これ幸いにと、僕は彼の後ろに隠れる。

 僕に声を掛けてきた二人はポカンとしている。そしてすぐに残念そうな表情になり、二人で話し始めた。


「そうだよな。こんなに可愛い子、彼氏がいて当然だよな」

「残念だが仕方ない。ボクっ娘とお話するのはまた別の機会に……。ボクっ娘……。いいなぁ……。」


 やはり二人目がおかしい。僕が女の子に見えるからではなく、ボクっ娘という属性に強い執着を感じる。

 残念そうな顔をして話し合う男の子たちに僕が困惑していると、彼が口を開いた。


「確かにコイツは可愛い。女神や天使なんかとは比べ物にもならないくらいの可愛さである上に、性格も天使顔負けだ。中学からの付き合いでいつも癒されて、元気をもらっている。しかしながら、何度求婚しても俺には靡いてくれない。そしてボクっ娘だ」


 彼がおかしなことを早口で言うものだから、二人組はまたしてもポカンとした顔を作った。そしてその原因である彼はと言うと、二人組に近づき耳打ちをする。


「だがな、コイツは男だ」


「なん……だと……?」

「最高じゃん。いい。ぜひお近付きになりたい」


 もしかして、二人目にロックオンされてる……?

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