Chapter 4-1
人工惑星が爆発した宙域を離れ、ある程度自己修復が完了したアドヴェンと、人力で修復が完了した強制冷却装置搭載戦艦は、火星宙域付近まで来ていた。
アドヴェンの自己修復機能がこういう形でテストされることになるとは思いもよらなかった。
自己修復で外壁と内壁は完全に戻り、事故が起こる前の状態まで修復されていた。
しかし、被弾したサブユニット左は現在は進入禁止となっている。
事故の後、私は呆然自失気味になっていたため、居住区の私が使っている部屋で横になっていた。
無事な人も、かなり気落ちしているようであった。
リンが時々出てきて心配してくれるが、私は大丈夫とだけ言い、それ以上話をしていない。
心配してくれるのはありがたいが、今は話したい気分ではない。
火星の近くを通る時、火星からコールが入った。
艦長はそれを取り、私に繋いできた。
どうやら、私を指名しているみたいだ。
艦橋からの呼び出しに私は答えたが、火星からのコールと言われると拒否をしたくなった。
しかし、艦長の話を聞いているとどうしても私で無いとダメと言う事だったので、仕方が無く出る事にした。
「……はい」
「やぁ、私だ。久しぶりだね」
何処かで聞いたことがある声だと思い出そうとしたが……そうだ、ルイ・ペレーだと思い出し反射的にコールを切った。
切った後、心拍数が大分上がっているような気がした。
再度艦橋から呼び出しが有った。
「何か、切れたらしいのだがね……」
「ええ、すみません、ちょっと電波が悪いみたいですねー、ははっ」
私は誤魔化した。
火星からのコールに切り替わると同じようにペレーの声がした。
「君、切るとは酷いじゃないか」
「いえ、その、すみません」
「まぁいい。初めからやり直しておくか?久しぶりだね」
「どうも、お久しぶりですと言う程期間は空いていないと思いますけど」
「ははっ、それもそうだね。あまり元気がないようだが大丈夫かい?」
「ええ、まぁおかげさまでなんとかですね」
「そうか。確認したいことが有ってコールしたんだ。話しにくいことかもしれないが」
人工惑星が爆発した際、重力波が火星まで届いていたらしい。
それを観測した火星のテラフォーミングチームは、何事かと調査を始めようとしていたところに私達が現れたという。
ペレーの質問から、十数秒は沈黙していただろうか。
「……やはり、話しにくい事なんだな。良いよ、言わなくても」
「ま、待ってください」
私は気力を振り絞り、起きたことを説明した。
人工惑星の爆発、軍やチームへの被害、艦への被害等、必要な所のみを話した。
今度はあちらが十数秒無言になった後、通話を再開した。
「それは、少しばかり大変だったな。失敗することもある。科学者なら受け入れるしかないだろう。被害が出たのは痛ましい事ではあるがね」
科学者なら、失敗を糧に次へと進めればいい。
恐らくそういう事を言いたいのだろうが、今の私では、無理な話である。
私は正直にそれを話そうとした。
「私には……む……」
「爆発の規模小さくて良かったじゃないか。君ももしかしたら巻き込まれていたのかもしれないからね。今生きていて良かったと考えていたまえ」
「それは確かにそうかもしれませんが、私は……続けても良いのでしょうか?」
「続けるか辞めるかは自分で決める事だ。まだやれるという根拠が何もない状態でも、気力ややる気が有れば何とかなる物さ。今は月基地に着くまで休みなさい」
彼は一応は心配してくれているのだろうか。
物の言い方や言葉からはそう感じ取れる物が有る気がする。
「そうですね。どうするかは月基地に着いてからにします」
「ああ、そうした前。ところで、フレッド君はコールドスリープと言ったな。大丈夫なのか?」
「えっと、顔半分に酷いやけどを負った以外は問題が無かったかと。何故彼のことを?」
「ん?彼は話していないのかい?まぁそういう性格だったな。彼は私の義弟だ」
義弟……義弟?確か結婚相手の弟だから義理のって事だったよな。そういえばこの人、指輪をしていたっけ、と初めの会議の事を思い出す。
「義弟ですか。そうだったんですね。初めて知りました」
他のメンバーは割と身の上話をしていたと思うが、フレッドからは最低限しか聞いていないのではなかっただろうか。
ラビが突っかかって言っていたが、話すことは無かったはずだ。
「そうか、生きているか。顔半分だけなら、なんとかなるだろうな」
とても安堵した声が通話先から聞こえてきた。
彼とフレッドの仲は良かったのだろうかと聞こうとしたところで、向こうの後ろが騒がしい。
「ん?ああ、判った。すまないがこれで通話は終わりとする」
「何かあったんですか?」
「ああ、急ぎの案件さ。そちらに行かないといけない。それから最後になるが……」
急ぎ足で、今は音声のみとなるが次回来る頃までには映像通話が出来る様にしておく予定という事だ。
それから、お互いの検討を祈り、通話は終了した。
通話を終えると、私はベッドに横になった。
通話前までの落ち込んでいた気持ちが少しはましになっている気がする。
月基地へ帰ったらやらなくてはならない事が色々とあるため、今は休むしかない。
そう思い、そのまま目を閉じた。
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火星宙域を離れると、ワープを行い、月基地へは直ぐ到着となった。
私は目を閉じていただけで寝れなかったが、少しだけ体と頭が軽くなった気がした。
身だしなみを整え、艦橋に移動した。
艦長と最後の会話を行うためだ。
次回からはリンが艦の制御を全て行うため、軍人による操縦は不要となり、彼らが乗る事は無くなるためだ。
艦長は、不慮の事故はあったものの、こちらの演習としては申し分なかったと言い、私と握手を交わした。
艦長と会話している間に私の横にリンが立っていた。
艦長はリンに向き直り、握手しようとしたがホログラムであることを思い出し、敬礼とお礼の言葉を述べた。
リンは少し恥ずかしそうにしていたが、AIって言われなければ人間と思ってしまう様な仕草で返事をした。
アドヴェンと強制冷却装置搭載戦艦は月基地内に停泊した。
負傷者は下ろされた。
フレッドとキャサリンはコールドスリープ装置のまま移動し、これから手術を行う手はずとなった。
軍人が全員降りた後、リンに一時的な別れをし、私達は艦を降りた。
艦から降りると、グラマー三姉妹が出迎えてくれた。
3人共、何か言いたそうな顔をしているが、私は2人は「きっと大丈夫よ」と励ましの言葉を言った。
そして、3人とハグをし、お帰りと言われた。
移動しようとした時、空気を読まないラビは「俺は?」と言ったのだが、その辺にあった工具で一発ずつお腹に綺麗に決められていた。
ラビはその場でしゃがみお腹を押さえていたが、私達は放置して中へ進んでいった。
移動先は、初めに入ったブリーフィングルームだった。
今回は私達だけとなる。
全員が席に着いたところで、遅れていたラビが入って来た。
ラビが着席するのを見て、グラマー三姉妹の1人――マリア・メイヤー――が司会をすることになった。
マリアは、自分達の仕事であるアドヴェンの状態についてから説明を始めた。
状態と言っても、停泊してリンから受け取ったデータを簡単に見たのみとなるようだが。
艦の損傷具合は完全に治っており、自己修復機能は問題ない様である。
艦全体の動作も想定内であり、軽く見た程度では問題が無い様だ。
搭載しているAI用PCは、スペックが不足していると出ているらしい。
リンに色々と教えていて、今回の事故でフルまで使ったためか、一部、焦げが付いているような感じになっているみたいだ。
次回からはリンが全ての制御をするようになるので、AI用PCの性能アップを行う予定となる。
ついでに、ホログラムも触れるように改造予定らしい。
「……って、リンって名前なのか?ついでに識別も?」
マリアが見ていたデータはリンが纏めたデータであり、今の全てのデータを渡している。
「ええ、本人も気に入ってるみたいよ」
「ほーん。名付け親がラビってのが気に入らないが良い名前だな」
ラビは少しむっとした顔をした。
私は「まぁね。フレッドとの合作ね」
「そうかー。あいつは、顔半分の怪我だけだから、まぁ大丈夫だろうな。問題はキャサリンか。腕、くっつけばいいけどな」
「そうね……」
少し重苦しい空気が流れた。
2人の事故は痛ましいが、それでもここならなんとかなるだろうとは期待はしている。
「ま、手術はなんとかなるだろう。さて続きだけど」
マリアはアドヴェンのデータを見ながら話を進めた。
サブユニット左だけ交換予定だったが自己修復の流れが悪いので見直して両方交換する。
また、次回は追加で前に2個搭載し、格納庫ももう1つ付ける。
次回からは100%サイズの人工惑星を作製するが、それに伴い必要な資材も増える。
その上、期間も延びてくる為、それ相応に準備が必要になってくるということだ。
追加のサブユニットにはテスト用に積んでいた生体研究装置とコールドスリープ装置の本番用が積まれる。
食料供給システム、改良型酸素精製装置等も搭載するという事だ。
私は、テストだけど本当にそこまで必要なのかと聞くと、超長期運用を考慮すると何事にも対処できるようにするため、という事らしい。
エンジンは、今回アップデートをしていたが、追加で行う。
太陽系外に向けて、連続ワープを行えるようにするという――あの気持ち悪い感覚が連続で来るのかと考えると少し吐き気がするが――。
それ以外は、今回の事故から、バリア機能を搭載するかどうか検討が必要になる。
バリアが有れば今回みたいな事故にも対応できたのではないか、という事で連合組織側に確認をする予定だ。
アドヴェンや強制冷却装置搭載戦艦は兵器を搭載していない。
そのため、エンジンのエネルギーに余裕が有り、エネルギーをバリアに転用しても問題無いだろうとは考えているらしい。
ただ、予算次第という事になるが、そこはなんとか説得してみるという事らしい。
アドヴェンの話は以上となる。
次の案件は人工惑星作製データの検証へ移る。
1%、2%のデータは問題が無かったので、そのまま地球へデータを回すこととした。
問題は今回爆発した3%となる。
データ採取はリンが行っており、それを見ながらどういう状況なのか確認したかったのだが、人工惑星作製チームはこの場に全員いない。
一応、私とラビもある程度は頭に入れているが、地球に残っているチームに確認してみた方が良いという事で連絡をし、この場に通話を繋ぐ事になった。
私がコールするつもりだったが、まだ話すのはしんどいだろうからと、マリアが代わりにコールした。
私達がテスト航海に出た後ぐらいで、地球と月基地の通話は映像で行えるようになっているらしい。
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コールすると、イリヤの顔がブリーフィングルームの前のモニターが表示された。
イリヤとマリアは少し話した後、今回のデータを送ったから今すぐ見て欲しいと言った。
軽く目を通したのを確認した後、驚いた顔でこちらを見ていた。
「ば、爆発?!?3%で?それって被害状況どうなの?!大丈夫だったの!!」
イリヤが慌ただしく聞いてくるのをマリアはたしなめ、状況を伝えた。
マリアの説明を聞いているイリヤは慌てている顔から無表情に変わり、説明が終わるまで表情が変わらなかった。
説明を聞き終え、イリヤは私とラビに「大変だったね、元気だして」と励ましの言葉を投げかけた。
しかし、その言葉と表情には感情という物を感じられず、ただ機能的に話しかけてきている様にしか見えなかった。
マリアが3%が爆発したことについて質問をする前に、フレッドについて話しだした。
「そういえば、お前とフレッドって付き合ってたんだよな」
私とラビはそうだったのかと驚いた。
親密になったりカップリングが出来ている様ではあったのだが、誰と誰がまでは確認していなかった。
「え、ええ。そうよ。付き合ってるわよ」
「……まぁなんだ。フレッドは顔半分以外は無事だから安心しな。形成外科手術すれば元通りだからさ」
「それはそうだけど…」
「気丈に振舞おうとするのは結構だ。けど、お前だけじゃなく私達皆、心配しているんだからさ」
「それもそうね。ごめん……ありがとう」
イリヤは頭を下げた。
頭を上げたところで、マリアは本題に入った。
本題、3%の人工惑星が何故爆発したかについてだ。
イリヤは顎に手を当てて考えるポーズをしながら、データを見直していた。
手を下ろし「これ、おかしい」と説明をし始めた。
今回のテストは、すべてのサイズで新規で人工内核コアを作成する予定となっていた。
というのも、人工内核コア流用は早く作れるがシミュレーション上では挙動が安定しない事が判明していたので、案としては却下していた。
何故そんなことをしたのか、当事者であるフレッドに確認をするしかないのだが、彼は今は話せない。
話せるようになるにしても、3日はかかる見込みとなっている。
私達ブリーフィングルームにいるメンバーも顔を見合わせたが、やはり誰も判らない状況であった。
この件はフレッドの快復を待ってから確認する事にし、通話を終了した。
通話後、少しの間沈黙が流れていたが、ラビが初めに声を上げた。
「おいおい……本当、どういう事なんだよあいつはよぉ!」
その叫びのような内容には誰も何も答える事は出来ず、遠吠えの様にブリーフィングルームに響いた。
ラビの叫びの後、また少しの沈黙が流れたが、マリアからは今日は全員休むようにと提案してきた。
2人の手術自体はまだ掛かる上、帰って来た私達は特にやる事が無い。
色々と積もる所もあるかもしれないが、手術後は忙しくなるだろうからという事であった。
私達は、マリアに案内された個別の部屋で休むこととした。
火星から月基地に着くまでの間、私はそれなりに休んでいたが、ラビは艦の中で寝付けなかったような顔をしている。
目が血走っている感じになっているのをマリアは見逃していなかったという事だろう。
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翌日、マリアに起こされた。
フレッドとキャサリンの手術は成功したそうだ。
起きて、身だしなみを整え、食事を取った私達は、ブリーフィングルームへ入った。
昨日と同様に、マリアから説明を受ける事になった。
フレッドとキャサリンの手術は成功したが、明日まで面会謝絶となっているようである。
今後についてどうするかという話し合いをしようとした所、軍人が数名入って来た。
マリアは何事かと聞いていたのだが、真ん中に居た軍人――肩の階級章は中佐だったか――が通達事項を伝えに来たようであった。
「残念なお知らせですが、フレッド・ホイルを逮捕する事になりました。」
フレッドが逮捕。私達は口々に驚きの声を上げていた。
中佐は両手を前に出し、静かにするように言い、私達は口を閉じた。
私はマリアを見てからどうぞと手でジェスチャーをされたので「なぜ逮捕なんですか?」と質問した。
中佐から受けた説明では、今回のテストは予定にない事を単独で勝手に行い、軍や艦、それに私達にまで被害を出したためという事であった。
それ以外の余罪はあるかは判らないが、逮捕の前に身柄を拘束することになった。
「そんな……」
私は何かを言いたかったが言葉が続かなかった。
そんな状態を見かねたマリアは私の肩を掴み、自分が前へ出て行き中佐と交渉を開始した。
「拘束するのは良いが、連れて行く前に人工惑星作製について私達で話を聞きたいんだが?」
中佐は少し悩んだ後「ま、それもいいでしょう」と渋々ではあるが許可を出してくれた。
中佐も確認したいが、一緒にいると話をしないかもしれないので、マリアに隠しマイクを付けて行ってもらう事になった。
翌日、フレッドと面会が出来るようになったため、私とマリアは面会をしに行くことになった。
他のメンバーはキャサリンの面会に行ってもらう事にした。
病室に入ると、フレッドの顔半分は包帯で覆われていた。
片目は見え、口も動かせるが、動かすと少し話しづらいらしい。
私達はフレッドに近づき、「大丈夫?」と聞くと、「痛いけど問題ないよ」と返って来た。
「……それで、2人しかいないのは、僕に何か聞きたいからじゃないのか?」
「ええ、そうよ。何を聞かれるかは、分かっているでしょうけど」
私はフレッドの顔を見た。
顔には諦めた表情が出ているような気がした。
「昨日、地球のメンバーと話したんだけど、人工内核コアについてね。失敗するかもしれないのに何であんなことしたの?」
1分ぐらい沈黙が続いたが、話す内容をまとめていたのか、話し始めた。
人工惑星作製を成功させたという手柄が欲しかった。自分1人で。
簡単にまとめるとこういう事になる。
手柄を立て、ルイ・ペレーに認めて貰い、いずれは彼の研究所に入って一緒に研究をしたかった。
彼のとの関係は、と話そうとしたが私は帰ってくる時に彼と話していた事、義弟と言う事、心配していることを伝えた。
それを聞いたフレッドは、少しむなしく笑っているような顔をし、話を続けた。
義兄とは、家に来るたび色々と話し込んで楽しい時間を過ごしていた。
僕の姉は美人で、義兄は美男子。お似合いの2人だと思っていた。
そして2人は結婚した。
僕が研究者を目指すきっかけとなった人でもあり、憧れの人でもある。
義兄の出身地は3地区だけど、僕とは違い優秀であり、研究所は1地区の一番上に所属していた。
一緒の研究所で働きたかったが、そこ頃の僕では到底無理な話だったんだ。
出自とかではなく、単に成績だけの話だけど。
だから、一緒の研究所で働くことが目標になっていた。
そんな時、連合組織が結成され、テラフォーミングと人工惑星作製の計画が出たんだ。
僕たちが会議場に残される前日に義兄から電話が有ったんだ。
「私はテラフォーミングチームを指揮する。
が、君はこちらには今のところ呼べない。
終わったら人工惑星作製チームを指揮する予定になっている。
だから、そっちで頑張って一緒にやろう」と言う内容だった。
初めは喜んださ。
でも、日が立つにつれ、彼はこっちにはこれないだろうと悟ったんだ。
はっきりわかったのは月基地に行った時だ。
あの時にメッセージが来てたんだ。
「火星に行って指揮をとらなくてはならない。そっちのチームは恐らく指揮を執る事は無い」って。
このチームでも一緒にできない、と。
それなら自分が上を目指すしかないじゃないか。
人工惑星作製チームで手柄を上げることが出来れば、義兄と同じところにいけるかもしれないと考えた。
それからは必死さ。
勿論、君たちも必死にやっていたのはよくわかるよ。
そこでフレッドは一旦話を止めた。
私とマリアは黙ったまま聞いていたが、マリアは声を上げた。
「そうか。兄貴と一緒にやる。良い夢じゃないか…。とりあえずそこは良いからなんで人工内核コアを流用したんだ?」
フレッド話はまだ長引きそうなので先を促した。
フレッドは深呼吸を数回行い、話を再開した。
人工内核コアの流用は、シミュレーションで安定はしない結果となっていた。
けど、一番早く作れるというのは判っていたんだ。リスクを取ればいいだけだろうと思っていた。
それに成功したら、3%サイズ分は既にできているのでそれを持って行って、100%サイズのテストに流用すればいい。
また、テストで作った100%サイズは次回のテストにも使えるだろうと思っていたんだ。
2%作製時にエミリオに止められたんだが、説得をして無理やり言う事を聞かせる様にやったんだ。
2%の次は3%。
問題無いだろうと思った……けど、結果は失敗。
作業室の内壁まで岩盤が飛んできて穴が開いた衝撃で、僕は飛ばされた。
飛ばされても意識はあったんだけど、ふと見るとエミリオが必死に捕まっているのが見えたんだ。
でも、僕は動くことはできなかった。
話はここで終わった。
「この後、僕はどうなるんだ?」
フレッドが聞いてきたが、その瞳には涙が溢れていた。
私は苦い顔をし、今回の件で逮捕される事を話した。
フレッドは天井を見上げ
「天罰だな」と言い、ベッドに埋もれる様に横になった。
少ししてから昨日の軍人が入って来た。
私はまだ話している最中ですと止めようとしたが、中佐は既に終わったものかと言い、私の静止を振り切ってフレッドの横まで移動した。
フレッドに、今回の事故についての話を聞く――隠しマイクを通して聞いていたが――ためと被害を出してしまったため、身柄を拘束すると言い、車椅子に乗せて連れて行った。
私とマリアはそれを見送る事しかできないでいた。
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私とマリアはキャサリンに会いに行った。
他のメンバーはまだ話し合っていた。
キャサリンから顔が暗いぞと言われたが、事情をまだ話していないらしい。
左腕は包帯で巻かれて固定されており、通常の2倍ぐらいの太さになっていた。
私だけでなく、マリアも暗い顔をしていたためか、何が有ったのかと説明を求められた。
私は、フレッドの件を話した。
キャサリンは目を瞑って考えだしたが、目を開き「そうか」とだけつまらなさそうな顔で一言だけ言った。
部屋の空気は、重くなっていた。
私は、キャサリンに「早く元通りになるといいね」と言い、病室を後にした。
昨日休んだ部屋に戻り、ベッドに上を向いて横になった。
何もする気力が湧かない。
ベッドの上でウダウダと30分ぐらいしていると、タブレット端末にメールが来た。
確認がめんどくさいと思いながらも、タブレット端末を取りメールを確認した。
マリアからだった。
今日は色々とあった。誰も話し合い等はしたくないだろうから明日にするという内容だった。
今のうちに協議する議題が有ると書いてあり、最後に皆元気がないが飯食べて寝れば多少は戻るだろう、と書かれていてそれもそうかと思い始める。
何もしたくはないと思ったが流石にそういう訳には行かない。
どうやって気持ちを切り替えたものか…。
ベッドの上で考えても拉致が明かないので考えるのを止めて寝る事にした。
-----
ブリーフィングルームに、チーム全員が揃っているが、軍人3名も参加していた。
先に話をしておきたいという事であった。
話の内容は、人工惑星作製チームの解散についてとなる。
解散理由は、連合組織側に被害を出したためとなる。
これ以上、このチームに任せる事が出来ない可能性もあるため、解散し、後は連合組織で引き継ぐという事であった。
聞いていた私達は唖然としていた。
横に居たマリアは小声で先に動かれたかと言った。
私は立ち上がり反論をし始めた。
「ちょっと待ってください。いきなりそんなこと言われても……」
焦る様子の私をしり目に、中佐は更にまくし立ててきた。
「しかしねぇ、君の管理問題などもあるんじゃないかね?ホイル氏が単独であんなことを行ったっていうのはさ」
「確かにそういう意味合いでは、私の責任でもあります。けど、私の責任だけでチーム解散というのは納得いきません」
「ほぅ……」
私は強い眼差しで中佐を見つめた。
連合組織側に被害を出し、自分のチームにも損害を出した。
そう言う事で言うのなら、リーダー失格である。
しかし、失敗は成功の母とも言うため、ここで止めてはだめだと考えている。
中佐は「では、今後どうされますか?」と聞かれ、
私はとっさに「今回のテストは最後は失敗に終わりましたが、今後の対応・本番にご期待ください」と答えた。
中佐は後ろの2人は鳩が豆鉄砲と食ったような顔になり、やがて冷静な顔に戻った。
「そうですか……」と言い、席を立ち出口へと足を進めた。
出口で振り返り「では、引き続きお願いしますね」と言い、そのまま出て行こうとした。
今度は私が意外な回答に驚いた顔になった。
「え?」
中佐は柔らかい顔をしながら私の前まで戻って来た。
「はは、流石に説明が必要ですね」
中佐の説明では、連合組織からは特に何も言われていないそうだ。
だが、もし私に引き続きやる気が無いと判断した場合は、連合組織側に引き継いでもらう様に打診する予定であった。
また、火星からの通信の際、ルイ・ペレーより「失敗はしたものの、やる気が有るのなら継続させてほしい」と要望を出されていたのだ。
私は、彼がどれだけ権力を持ってるんだろうかと気になったが、今はそれはいい。
中佐の説明を受け、私は即答で続けさせてくださいと頭を下げた。
続行の意思を確認した中佐は「了解しました」と言い、今度こそ退出した。
私は椅子に座り、深いため息をついた。
本来なら私が前で話を進めるべきではあるが、状況を見たマリアが代わりに話を進めてくれるようだった。
マリアも解散させられると思っており、先手を打つつもりが先に話を出されどうするか考えていた。
けど、私の回答でその必要は無くなった。
他のメンバーも私にやるなーとか労ってくれたがマリアは話を進めたいからと一旦辞めさせた。
人工惑星作製の今後についてだ。
解散は無くなったが、安堵するにはまだまだ先が長いため、そんなに休んではいられない。
しかし、アドヴェンと強制冷却装置搭載戦艦のアップデートを行う必要が有る。
自己修復用の資材を搭載した補給艦の用意も考えていて概算、半年は掛かると言う。
ラビは「そんなに資材が入らないのか?」と聞くと、次は100%サイズの作製テストを行うので、サブユニット(格納庫)はそれだけで埋まる予定となっているという事らしい。
続けてラビは「3%の次が100%って大丈夫なのかよ?」と聞いたがマリアから「お前は何を聞いてたんだ」と怒られていた。
3%の次は100%サイズ。確かに皆疑問に思っているが、これは連合組織側からの要望であった。
要望は早くやってほしいという事だったが、理由を聞いていると単純で、資金の問題が出てきているらしい。
詳細には言ってくれないが、資金が底をつくか先に出来るかのチキンレースだ、等と言っているみたいだ。
100%サイズの場合は、作製するだけなら1つあたり最低でも10年は要するが、大気や水分等人が住めるかの検証もすると三倍は時間を要する。
が、そこは強制冷却装置の出力も上げて人工的に大気と水分を作り対応するという話でまとまっているらしい。
いつの間に決めたのかと聞くと、昨日私が寝ている間に連合組織側の人から連絡が有り、色々と話しあったと言う訳みたいだ。
半年あるため、私とラビは一旦地球へ戻り、今回のテストデータの検証と100%サイズの検証を詰める作業を行う。
次に月基地に来るときは、地球の施設は破棄し、人工惑星作製チーム全員、月基地に移動する。
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