第2章 異世界:五王帝国ガレプレ前半編
グーラ大樹海&グーラ大砂漠
→15_step!_SURVIVAL「序章 冒険の始まり!!」
時間にして数十分、シドの膝の上でシャルドは起きる事なく気絶していた。だが唐突にシャルドの意識は『夢』から覚醒する。
「──あれ?私は……、シャルドは……一体何を……?」
「お、起きた!!シャルドぉ〜っ!!」
シドは嬉しさのあまり、シャルドを抱きしめた。唐突にまるで幼い子供の様な気持ちが湧き出て、シドを急速に幼児化させる。
「あ、あれぇ!?マスターのシャルドへの好感度が……いつの間にかに、ば、ばば、爆増している?!……もしかして夢、ですかぁ?いや夢ですよねぇ、『記憶』のあるマスターならまだしも……」
「『現実』だよぉっ!!」
シャルドは大好きな
「痛い……ッ!! 全身が痛いっ、なんで?!」
「まぁ、『暴走』っぽかったし、その時の事はあんまり覚えてないのはお約束だよね……」
「?? ……って……マスターのツノ、と……ぁぁ、っ……左、腕が、ぁ……」
シャルドはシドのハグによって違和感を思い出す。それはハグされた時に、触れられた感触が片方だけ無かった事だった。
「……ああコレ、アビゲイルに千切られちゃった……でも全然気にしてないよ!僕、右利きだし!死ななければ大丈夫!あ……あとツノも全然気にしてないからさ!……どうせ僕、何にもできないくろーん、だし……ッ」
シドは必死に強がるが、目には涙があった。明らかに無理している事に気付き、シャルドは全身に走って
いる痛みを堪え、今度は逆にシドを抱き締めた。
「自分を責めないで下さい!いくらループを乗り越えたとはいえっ、マスターを守りきれなかったシャルドのせいですっ!!……挙句の果てには、マスターを傷つけてしまった……!!」
「……シャルドのせいじゃない、僕のせいだよ!……だから僕の事は気にしなくていい。あとシャルドの身体、全身折れてるでしょ?」
『折れている』という事が明確に分かるハグの感触は気持ちが悪い。しかしシャルドの気持ちは十分に伝わった。
「マスターは心配しなくても、シャルドが心配です!今すぐ『回復魔術』で治します!!」
「『回復魔術』?? 何その魔術……?! 聞いた事ない……」
シドは聞いた事のない単語に頭を傾げる。『魔術』の技術自体はNOAHにもあるが、それは飽くまでも『魔法陣』という特殊な図式と、計算式を使って脳内で演算し『火』『土』『風』『水』『電気』の新五大元素を
「
「もしかして詠唱!? か、かっこいい……!!」
「……──『エル・リライフ』!!」
しかしシャルドはまるで
シャルドは、聞いた事のない言語での長い詠唱を終えて、少し自慢げな顔をした。
「えっへん!! どうですか?!」
「す、すごい……すごいよシャルド!!」
「そ、そんなにマスターに喜ばれるのは……ちょっと、恥ずかしいです……」
「──ってことは……!!ここは異世界だあ!!」
「いせかい……?」
NOAHとは根本的に異なる魔術の技術に『ここは異世界だ!』と確信し、厨二病のシドははしゃぐ。
殺されかける様な事が起こって尚も喜べるのは全世界……いや全次元でもシドしかいないだろう。
シドにとって異世界は『自身がクローンで、今までの大切な思い出は全部ウソでした〜』なんて言う事に比べれば、あまり問題ではなかった。
しかしそれにしても気になる事がある。止血はできるのにシャルドは何故、シドの左腕をくっつけようとしなかったのか?という疑問だ。
「ねえシャルド!僕の左腕って治せないの?!」
「…………一度切断されてしまった身体を治すのは、非常に高度な技術が要るんです……。──本当に申し訳ありませんマスター!!……シャルドが無能なばかりに……」
「だーかーらー!!シャルドは悪くないって!!注意が浅かった僕が悪いの〜!!気にしすぎてたら木になっちゃって、これからの一歩を踏み出せないよ!?」
「ああ……なんて寛大なお言葉……シャルドの人生の教訓にします!!今すぐ結婚しましょう!!」
「うぇ!?どういう理屈!?──あ、ちょっ、シャルドぉっ!?」
シャルドからの3度目のハグで、シドは地面覆いかぶされる様にに倒れる。傍から見ればただ2人の少し変わったカップルがイチャイチャしているだけの光景だろう。……いや『だろう』ではなく現にそうである。
「マスターは可愛いです!!可愛すぎます!!」
「あ、待って!今、いい事思いついたから!!一旦、離れてよ!!」
シャルドはハグをしながら、頬と頬をぬいぐるみの様に擦り付ける。そんな子供の様なシャルドにシドは呆れながら「いい事を思いついたから!」と必死に離れようとする。
それに引っかかり、興味津々のシャルドは素直に離れてくれた。
「はあっはあっ……み、みててね!……ほらッ、カッコよくない!?」
シドがシャルドにかなり興奮気味に披露したのは、無くなった左腕を自身の『
しかしどこか……何と言うか、惨い。
「……余計、罪悪感が……ああ、シャルドはなんてことを……」
本来護るべき
「もう!シャルドは一人で背負い込んじゃうクセが付いてるんじゃないの!?『死のループ』から抜け出せたんだからいいじゃん!!」
「ええ、そうですよね……──え?『死のループ』?……って言いましたか?」
シドの不意の発言に、シャルドは思わず驚きで凍りついた。
シャルドは死罰による忘却で自身のループを知らないはずのシドに『何回も死に戻りをしている』なんて事を伝えた憶えは無い。だが今、確実にシドは『死のループ』と言った。
「……え、その反応から見るにホントにループしてたんだ……」
どうやら冗談で言っていた事が偶然当たってしまったらしい。そんな様子のシドにシャルドは思わず目を丸くした。
「冗談にしても不自然です……なんでマスターがその事を知って……」
「聞きたい?」とシドが変に勿体づける。
「聞きたいです!!」とシャルドがかなり食いつく。
「えー、どうしよっかな〜」とさらにシドが勿体づける。
「聞きたいです!!!!」とシャルド。
「やっぱり止──」「──いくらマスターでもやって良い事と悪い事があります」とシャルドが冷徹とした声と真顔でシドを圧倒した。
「ご、ごめんなさい……」
「もうっ、はやく教えて下さい!なんでマスターがループについて知っているんですか!?」
シドは反省した様子で語った。
「……僕があの小屋で目が覚めた時、『あれ、なんか何回も来た気がするな』っていうデジャブみたいなものを感じちゃってさ、あとシャルドが度々『ループ』って言ってるのが気になって……もしや!?と思って言ってみたら……ね? ていうか僕何回死んでるんだろ……?」
A.約一万回死亡している。
「──ウッ……グゥ!……やはり罪悪感で、心が痛いです……!」
その事実に、真っ白な程に純粋な問いに、シャルドは心筋梗塞一歩手前くらいの痛みを患う。
「え?僕何回死んでるの……?」
「教えたくないです……!! というよりマスターに詳細を教えてしまったら、非常に悪い事が起こりそうな気がするんです……!!」
「そっか……『
シド自身も漫画やアニメなどで培った知識から、自身が死に戻っている事を明かすと発動するパラドックス的な『何らかのペナルティが起こる』と察知した。
「……って!!もう夕方じゃん!!早く人が居るとこに行かないと、夜になっちゃうよ!? 僕、サバイバルはいーやーだー!!」
シドは訳の分からない異世界で、一体どんな生物がいるのか分からない恐怖から『野宿は嫌だ』と駄々をこねる。
「確かにそうですね!マスター、シャルドの背中に乗って下さい!先を急ぎましょう!」
シャルドはそう言って、シドを背中に担ぎ、そして走り出した。焼き尽くされた村を中心に、後ろには『何にも無いだだっ広い平原』と目の前には『明らかに危ない樹海』がある。そしてシャルドが走り出した方向は──。
「わわっ、ちょっ、シャルドは街がどこにあるか知ってるの!?」
「全く分かりません!シャルドは産まれてずっと教会の地下の同じ部屋で過ごして来たので!! しかしまっすぐ進んでいれば、いずれは人と出会うものです!」
「……は!?え、ちょっ、待って、絶対森の方じゃないって!!後ろの平原の方を行った方がまだ人が……シャルド!?目がキマってるよ!? 待って!ストップストップストッ───プぅ〜〜!!?」
太陽が落ち月が上りかけている橙色の空。先の見えない森の中を、その橙色の木漏れ日が時速40kmで駆け抜けている
シドの計算では平原の方が「虫もいないし、人も居そうだし、街も見つけやすそう!……あと、夕焼けがキレイだし?」みたいなあわよくばイチャイチャしたいのがスケスケの甘い考えだったが、見事に失敗してしまった。
◇
道中、シドはシャルドの聖剣に、どうやらある程度の測量機能とコンパス機能などの便利機能がある事に気づき「た、助かったぁ」と一安心したが…………やはり自然は厳しかった。
「……さ、最悪だぁ……暗いよ、怖いよ、ラト姉ぇ~~!!」
「はぁはぁ──申し訳、っぐ……ありません、マスターぁっ!!」
──これが結果である。
自然の前では何もかもが無力。そして『外』を体験して間もない少女と、恵まれた環境で育ち、全てが機械頼りのアホな少年である
既に周囲は暗闇に落ち、動物かは定かではない奇怪かつ不気味な鳴き声らしき声が辺りの森を響かせる。
「や、ヤバいよ……こういう時、どうすればいいの~!?」
NOAHでは至る所に監視カメラが設置されており、アメリカのCIAやFBI並の捜査力を持つ風紀委員が存在する。さらに学生一人一人に住民IDが割り振られて学生証に記載されており、アクシデントがあったとしても簡単に特定出来る。
つまりNOAHで遭難する事などは絶対にありえない。(だがシドはしょっちゅう迷子届けを出されていたが……)
そしてNOAHではEDEN各国からの輸入で、ある程度の食事はほぼ全員に保証されている。NOAHにおいて自給自足なんて
しかし辛うじて著名な科学者であった
「と、とりあえず火です!火を付けましょう!」
「なんで!?」
「明かりを付ける為です!」
「あ、そうか。それじゃあシャルド!聖剣出して!」
シドよりも先に『外を体験して間もない少女』ことシャルドが、サバイバルでの圧倒的初歩。『火をつける』ことを閃く。
──これは人類の進化。クロマニョン人が現代人へと進化した歴史的瞬間である。
そうしてシャルドは、シドに言われるがままに片方の聖剣を出し、近くの岩に向けて聖剣を叩いた。
一方でシドはそこら辺にあった木の葉の束を近づける。
聖剣から火花が散り、木の葉に触れた。
すると少しばかり、希望の光が見えてきた。
(……飽くまでも『希望』が見えてきただけで、『火』が見える事は無かった。)
──そして約15分後……。
シドがある事に気づく。
「……測量機能とかコンパスとか聖剣に着いてるなら、もしかしてライターとかも付いてるんじゃ……?」
お互いの顔が暗闇で見えない中で、少し不穏そうなシドの『まさか……』という疑念の声に、聖剣の持ち主であるシャルドが擁護する様に反応した。
「シャルドの聖剣は世界に8つしかない『神器』の一つでとても神聖なモノなんです!(多分……) だから流石ににそんな便利な機能まで付いてる訳……──あ、本当です」
「ふざっ……!! なんなんだよこの便利過ぎる聖剣!!?」
この聖剣とやらは十徳ナイフか何かなのか?こんなモノはあまりにシドの『ロマン』からはかけ離れている。だが、今はそんな事を言っている暇は無い。
『時間を返せ』とシドは内心で怒りながら2人は気味悪い暗闇に包まれているこの状況から脱する為、火を付けた。
しかし、シドが見たのは想像を絶する光景だった。
「ウギャァァアアァァアァアァァァアア!!!!」
それは至る所に虫だらけ、最早多すぎて虫が蟲に昇華している。そして火の光によって更に蟲が大量に湧き出て、飛んだ。
「ギャアアアッ!!!!シャルドォッ、助けてぇっ!!!!」
「? ……マスター!……どこに居るんですか?」
「──ウギャァァアアァァアァアァァァアア!!!!」
シドはシャルドを見るとたちまち発狂した。突如、某SFパニック映画に良く出てくる
「どうしたんですかマスター!?」
「しゃ、シャルドの顔に……何かが、張り付いて……!!」
「……? ああ、だから火を付けても明かりが見えな
いなと、──え?何かが張り付いている?」
シャルドはシドに言われて、初めて違和感に気付き白い顔に張り付いていた何かを剥がした。
白い何かはシャルドの持ち上げた手の中でジタバタと暴れている。
「……なんなんですか、コレ……?」
「ひいいっ、早く聖剣でトドメ刺してっ!!」
シャルドは持っている聖剣で、シドに言われるがまま白い何かを貫き刺した。
それは気味悪く金切り声に似た断末魔を上げてジタバタしていた動きが止まった。絶命したのだろうか?
「──もぉ〜!!怖いよ、暗いよ、気持ち悪いよ、助けてシャルドぉ〜!!もうやだよ〜!!」
シドの心身は疲れ果てていた。次々と起こる困難に加え、シドは虫が苦手な為だ。NOAHにおいて虫は絶滅しかけていて、NOAHの人々は皆身近ではない『虫』という生き物が苦手だ。
「虫が苦手なマスターは可愛いです! ……しかし、困りました。コレでは夜中、寝ている時に這い寄られ、寄生されてしまう危険性があります……」
「ええっ!!?」
シャルドは少し考えた後、顔を上げて微笑んだ。何か考えがある様だ。
「あ、そうです!マスターは"私の胸の中で"寝て下さい!!」
「──え!?!?!? いいの!?!?!?……でも悪いよ……」
しかし、
「ふふ、おやすみなさい可愛いマスター……!!」
「ヒヒ……おやすみぃ、シャルドぉ……zzZ」
そうしてニヤニヤしながらシャルドの柔らかな胸の中で、シドの意識は闇へと落ちた。
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