宇宙人に身体を改造された俺が対Ω用の殲滅兵器として戦うことになった話。

黒縁 眼鏡

プロローグ:これがアブダクションされる側の気持ちか。

 俺はどこにでもいる普通の社会人だ。


 いつも通りの毎日、平凡な日常、代わり映えのない人生にこんなんで良いのかと悩む20代後半の男。


 深夜まで続いた残業のせいで遅くなり、今日も24時間スーパーで買った半額弁当の入った袋を片手に、人気のない裏道を歩いている。


 街灯がなくいつもは真っ暗なこの道も今日は満月のおかげで明るかった。 


 満月は良い。


 空を見上げて何もせずにぼーっと立っていると不思議なことに気持ちが安らぐからだ。


 今、俺は精神的にも肉体的にも追い詰められているのを自覚している。


 何でこんな思いをして働いているんだろう。

 答えは決まってる。金だ。金がないから働いている。

 金さえあればなんでもできる。とは言わないが少なくとも自由時間は買える。

 子どもの頃は分からなかった。いや、気付けなかったと言った方が正しいかも。

 親の庇護下にあったあの時がどれだけ幸せだったことか。


 学校、勉強、確かに面倒で大変だ。


 どうせ将来には役に立たないんだし、と真面目にやらなかったあの頃の自分を殴りたい。


 社会や理科はともかく、数学・英語・国語はやっておくべきだった。


 数学は考える力や答えを導く力が身につく。英語はこれから時代に必要な瞬間が必ずある。国語は日本人として日常生活に必要だ。

 このクソゲーな人生を生きていく中で大事だと25歳を過ぎたころに気づく。

 それすらもやりたくなかったら資格を取れ。

 持ってるだけで貴重とか、ないとその職業につけないとか、他に誰も持っていなさそうなやつ。

 それすらもない。何もやってこなかったら地獄だぞ。

 アルバイトかパートか、それか俺みたいにブラック企業で働く羽目になる。


 ははは……はぁ、疲れた。


 運動をしなくなって体力が落ちたと実感する。 


 あーくそっ。ヤバい。今、無性に叫びたくなってきた。


 人目を気にせず近所迷惑なんて関係なく大声で不満をぶちまけたい。


 どうする? やるか? 本当にやるのか?


 決めた。やろう。あとで絶対に怒られるし、下手したら警察のお世話になるかもしれないが知ったこっちゃない。


 視線を地面のアスファルトへと移し、目を瞑る。


 深く、深く息を吸い込んで、あの憎たらしいぐらい綺麗な満月に向かって叫ぼうと、再び空を見上げ固まってしまう。


 驚くべき光景に俺は口をあんぐりと開けて呆けてしまった。


「まじかよ。本当にいるんだな――――宇宙人って」


 真っ暗闇な夜なのにいきなり昼間よりも明るくなって、眩しさに目を細めながら見上げると、SF映画に出てきそうな宇宙船がそこにいた。

 

「あーヤバい。まじでヤバい。これもしかしなくても攫われる奴じゃね?」


 残業続きで3日間ほぼ寝てない頭のせいで脳が全然働かない。

 すぐに駆け出せばもしかしたら逃げれたかもしれないのに。ははっ、と乾いた笑いしかでてこない。どうやらサービスタイムは終わったようで、自分の身体が徐々に浮かび始めた。

 

「これがアブダクションされる側の気持ちってやつなのか」


 最後に見た地球の景色はやけに鮮明で美しかった。

 宇宙船に吸い込まれると同時に抗いようのない眠気に襲われた。

 せめて宇宙人の姿は見てやろうと抵抗するも、徹夜の影響もあってか俺はあっけなく意識を失ったのだった。









【貴重な原生生物のサンプルを入手】


【精密検査の結果、全ての検査項目に合致】


【これより対Ω《オメガ》用戦闘体へ換装のため改造手術を行う】


【手術に必要な所要時間はおよそ99999秒】


【今回の手術は実験段階のため成功確率は0.0349%】


【原生生物の個体名:●●●●の意識消失は考えないこととする】


・調査報告書。

『個体名:●●●●。被検体:E43895。手術に成功するも原生生物の意識消失は免れなかった模様。戦闘行為自体には問題なかったため最前線へ配属となる』


『被検体:E43895。敵性生物の破壊に成功。戦闘結果:小型種10000匹、中型種530匹、大型種32匹』


『被検体:E43895。敵性生物の破壊に成功。戦闘結果:小型種33200匹、中型種659匹、大型種54匹』


『被検体:E43895。敵性生物の破壊に成功。戦闘結果:小型種56300匹、中型種769匹、大型種73匹』


『被検体:E43895。敵性生物の破壊に成功。戦闘結果:小型種87302匹、中型種932匹、大型種123匹』


『被検体:E43895。特殊個体ネームドの敵性生物との戦闘により左腕を負傷。特殊個体の破壊には成功』


             ・


『被検体:E43895。新しく開発された対Ω用破壊兵器、通称:破壊粒子砲エクゾブラスターを負傷した左腕に代わり装備させることで、これまでとは比較にならないほどのΩの殲滅に成功』


『被検体:E43895。敵性生物の破壊に成功。戦闘結果:小型種152300匹、中型種1300匹、大型種231匹』


『被検体:E43895。敵性生物の破壊に成功。戦闘結果:小型種163240匹、中型種1434匹、大型種354匹』


             ・

             ・


『被検体:E43895。小規模の部隊によるΩの巣の調査作戦に参加。甚大な被害を出しつつも特殊個体たちの群れを発見するという戦果を叩き出す』


『被検体:E43895。調査作戦の結果に前線の崩壊を危惧した議会は、特殊個体を指定座標へ誘導し、被検体E:43895に対Ω用殲滅兵装外骨格を装備させた上でリミッターを外すことを決定。これにより被検体E:43895を最新鋭の戦闘体へとアップデートさせる』


             ・


『議会議事録:裏。一部の議員は1個体に過剰な戦闘力を持たせるのは危険ではないのかの声があがる。しかし、Ωの脅威を前にその意見は封殺された』


             ・

             ・

             ・

             ・

             ・

             ・


『被検体:E43895。敵性生物特殊個体群を指定座標への誘致に成功。殲滅モードにより全ての敵性生物の破壊』


『被検体:E43895。戦闘による被害と殲滅モードによる影響により身体の9割が喪失、頭部被弾のため演算領域に損傷あり』


『被検体:E43895。数多くの功績により●●●●を使用したさらなる戦闘体へのアップデートが許可される。それにより超高度情報演算処理支援システム【エクスマキナ】を導入』


『被検体:E43895。手術は無事成功。検査やテスト終了後に最前線及び重要基地へと配置予定』


             ・

             ・

             ・


『被検体:E43895。戦闘時不審な挙動を取り始める。緊急検査するも全て異常なし』


『被検体:E43895。下級兵士が未確認言語を発するところを目撃。おそらくは原生生物の住む惑星の言葉だと思われる』


『被検体:E43895。待機時に笑みを浮かべ独り言を呟くようになる。技師によると夢を見ているらしい。危険性はないとのこと』


『被検体:E43895。任務の際に命令とは違う行動を取ったため、緊急停止を実行。検査機関送りとする』


『被検体:E43895。驚くことに元の原生生物の意識が戻り始めていることが分かった。【エクスマキナ】導入による影響の可能性あり』


『被検体:E43895。将来の危険性を鑑みて被検体:E43895の廃棄が議会により決定』


             ・

             ・

             ・


『博士によって秘匿研究室が占拠される事案が発生。

 協力者の手を借りて被検体:E43895に何らかの処置をしたと思われる。

 その後、被検体:E43895は博士と協力者と共に強襲型宇宙船を奪取。

 宇宙船に搭載された長距離航行移動装置ワープを臨界駆動させ逃走する。

 被検体E:43895の力と【エクスマキナ】のサポートも加わった結果、銀河帝国の支配領域の外へ移動したと思われる。

 そのため追跡は困難。被検体:E43895は帝国にとって非常に脅威となる可能性があり、引き続き動向を調査する』

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