連綿と続く楠と榊の呪われた記憶
- ★★★ Excellent!!!
不穏な噂の絶えない鈴哭山。そこへ心霊スポット巡りの若者や人気YouTuberが足を踏みいれ、おぞましい運命をたどる。その意思は鈴哭山の頂にそびえる楠の巨大な御神木のものであった。その古木よりかつて解放された魂を受け継ぐ美しくも妖しい女医は、榊により解放された青い魂の継承者である夫とともに御神木を守り、病んだ御神木への奉血の儀を執り行っている。
YouTube配信者にその元カノ、その友人、美しきVtuber。御神木の霊験を受けた女性看護師たち。御神木の直系の末裔である女医とその妹、それに姉の夫。彼らの愛憎入り混じるふるまいは、どこかしら歪みを感じさせ、たとえ愛に貫かれた情熱的な行為であっても、空恐ろしいものが潜む。
クライマックスの奉血の儀のために密かに貯められていた大量の血液が御神木に捧げられる場面は、くらくらするほど衝撃的で暴力的な色彩と臭いに満ちている。
のぞきからくりのように変化する物語の舞台を貫き連ねていくのは、血だ。体内をどくどくと巡り、ほとばしり、彼岸花へと形を変え、宿痾として体内から漏れ出す、忌まわしき赤い悪夢。それはたとえ目を閉じても瞼の裏の赤い影のように付きまとい、すべてを禍々しく染め上げていく。
楠の赤い魂と榊の青い魂、人間と植物、血と緑。命題は対となり、関わるひとびとを幾重にも包みこみながら、淫靡な物語は果てることなく続いていく。