押しかけ聖女と添い遂げるために魔王♂も勇者♂も血祭に上げる、悪魔♀らしく

イヴァン零式

第1話

「どうした、先程までの鋭さはどこへいった?」


 剣先を掴んだ手を振りかぶり、持ち主ごと投げ飛ばす。

 先程は妾の身体を切り裂いた斬撃も素手で止められる程に鈍くなった。

 ならもはや攻撃すらする必要すらない。


「まだだ、勇者様のためにも……ここで貴様を!」


 男はそう言いながら立ち上がる。

 だが。


「剣を杖にして立ち上がっているようではな、それに後ろを見てみろ」

「なにを……」

「貴様の仲間達はもう立ち上がるチカラすら残っておらずこと切れる寸前だ、それでもまだ立ち向かうと?」

「その通りだ、ついに勇者様が決戦のためにこの魔界へ突入してこられた。 その負担を少しでも減らすため!」


 再び剣を構えようとするが。


「なんだ、さっきから不自然なくらいチカラがどんどん抜けて……」


 1歩も進めずそのまま崩れ落ちた。


「魔界ではチカラが減衰し本領を発揮できない人間では、妾には勝てぬよ」


 この魔界では人間は常時チカラを減退させられる、その上で妾の固有能力。

 この二重苦を背負った人間に妾の討伐など、できはしない。


「と言っても、もう聴こえておらぬか」


 息絶えたのを確認し、影を伸ばす。

 伸びた影が4人を捕らえ、飲み込む。


「ごちそうさま」


 そして、静寂が戻った。


「しかし、今回は結構な傷を負ったな……」


 この二重苦の中でここまで奮闘するとは、さぞ名のある人間だったのであろう。


「この剣も、簡単に魔装障壁を切り裂きおって」


 リーダーが持っていた剣、これも魔王や上位の魔族を討伐するための逸品か。


「全く、妾は魔王の軍門ではないというに人間共は……」


 懲りずに何度でも何度でも攻め来る。

 魔王軍と人間の間で勝手にやってほしいものだ。


「まあ、この剣は頂いていくとしよう」


 何かの拍子にまた人間の手に戻っても困る。

 それか妾自身が使うのもアリかもしれぬ。

 剣など1度も振るったことはないが。


「休むか、全員喰らい尽くしたのだからひと眠りすれば傷も塞がろう」


 屋敷の部屋へ戻り、ベッドに倒れ込む。

 いつまでこんなことが続くのか。

 人間には敵視され、魔王の一派には加われない。

 代々仕えていた者も、皆去ってしまった。


「いっそこんな能力など無ければな……」


 少なくとも1人になることはなかったかもしれない。

 勇者が魔界に乗り込んできたそうだから、目が覚めた時にはもう魔王との決着が着いていればいい。


「このままずっと1人でいるくらいなら、いっそのこと人間に討たれた方が楽になれるかもしれんな」


 獲物を喰らって満腹になっても、心は少しも満たされなかった。



「あ、目が覚めました?」


 眠りから覚めて目を開けると。

 そこには人間がいた。

 ……え、人間?


「!?」


 飛びのく。

 どういうことだ、なぜ人間がいる?

 いや、答えはひとつだろう。


「性懲りも無くまた来たか……まあいい、すぐに仲間の下へ送ってやろう」


 固有能力を展開する。


「きゃあ!?」

「何!?」


 目の前の人間が淡い光に包まれる。

 まさか、妾の固有能力を防いでいるのか?


「待ってください、私は敵ではありません!」

「何を言っている、ここに来る人間など敵以外であるものか!」

「もし敵だったら、起きるのを待たず寝てる間に攻撃しています」

「む……」


 確かにその通りだ、だがこの人間はわざわざ妾が起きるまで待っていた。

 しかも1人、こんなことは初めてだ。

 だが本当に敵ではないというのならなんなのか、それがわからぬ。


「いいだろう、話を聴いてやる」

「わあ、ありがとうございます!」


 落ち着いて見てみれば美しい娘だ。

 笑顔もずっと見ていたくなるような、いや待て妾は今何を考えた?


「まずは自己紹介しますね、私はルシアといいます。 家名を持てる身分ではないので名前だけですが」

「ならば妾も名乗ろう、ラピアだ。 家名など、落ちぶれた今は無いも同然だな」

「お揃いですね、なんだか嬉しいです」


 よくわからぬが何やら喜んでいる。

 しかしなんだろう、この娘の笑顔を見ているとこっちまで笑みがこぼれそうになる。

 いや待て、さっきから何かおかしくないか。

 まるで妾が人間の笑顔に絆されているみたいではないか。

 落ち着け、落ち着け。

 話を進めよう。


「ルシアといったな、妾に一体何用だ?」

「はい、ラピア様と添い遂げるために来ました♪」

「……は?」

「だって噂通りの愛らしさなんですもの、やっぱり男より小さい女の子よ」


 添い遂げる?

 この娘が妾と共に生きるというのか。

 いや、妾の固有能力を防いだあの光。

 確かにあのようなことができるのなら、それも不可能ではないのか。


「嘘は言っていないようだな」

「ふふ、当たり前じゃないですか」


 真偽看破の魔法を使ってみるも結果は「真」。

 間違いなく本気で言っている。


「あまりにも滅茶苦茶な話だが、不思議と悪い気分ではない。 相手が人間だというのにな」

「愛の前ではそんなの些細なことですよ、ラピア様」

「愛か、悪魔である妾がそれに応えられるかわからぬが」

「自分で言うのもなんですけど現時点でラピア様LOVEな私の方がおかしいんですから、今はそれでいいんですよ」


 おかしい自覚はあったのか。

 しかし、これが誰かと共にいられる最初で最後のチャンスかもしれない。

 いつの間にか、追い返せなくなっていた。


「不思議な娘よ」

「ええー、そんなことないですよ!」

「だが心地よい、妾の隣にいることを許す。 ルシア」

「はい、貴女の傍にいます。 ラピア様」

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