13話 夢中になれる時
夢中になれる時①
アイマジのキャストは徐々に公開されていった。やはり新人で固められているようなキャスティングだった。ブルームのメンバーでアイマジ新作に参加するのはまあさだけのようだ。
相変わらず、推しである浅舞静流の出演情報はほとんどない。一月から三月までの冬アニメでも二作品にモブで出たいたので配信で見た。四月からのアニメでも出るのだろうか。こういうモブで出ている時の情報はアニメが放送されてから公開されるので全て後追いになってしまう。それがなんだかもどかしい。
「やっぱり推しの声を毎週聞けるっていうのは幸せなことなんだよね。今期は週に三回も聞けるんだよ。これがどういうことかわかる?」
「全然わかんねえ。どういうことだよ。喧嘩売ってんのか」
「ああ、ごめんごめん。ほら、しずるんはこれからの声優だから。あと一、二年したらきっとこの気持ちもわかるって」
笑いながら謝る幼馴染だが悪気はないのだろう。こういう笑顔で知らないところで男を好きにさせているんだろうなと思うとイラッとする気持ちもあれば、ちょっとした優越感もある。この笑顔を浴びられるのは一応彼氏でいる俺だけなのだからな。
「ブルームの活動も今は毎週放送のラジオと月一の生放送くらいだし、だいぶ落ち着いてるよね。3rdシングルの情報とか次のイベントの情報早く出ないかなー」
「ライブから二ヶ月、何の動きもないもんな。逆にここまでくると心配になるよな。本当に3rdシングル出るんだよな」
「まあ、次のシングル出すって言っておいて出せなくなったっていう話も聞いたことあるし、そこはなんとも言えないや。まあ、この時代にあの箱を埋めたんだから次の展開も期待したくなるのはわかるよ」
「ネット記事でも『次世代の有望声優ユニット』って書いてる記事見つけた。色んな人が言ってるけどユナイトに続くユニットとして期待している気持ちが大きいみたいだよな」
ユニットについての会話が白熱していく。商業施設のフードコートの会話だ。色んな会話が飛び交っている中で俺達の会話を一々聞こうなんて輩はいないだろう。大きな声にならない程度に話を続ける。
花林とは月に一、二回こうして遊びに行くようになった。お母さんからも俺の事をよく聞かれるようになったらしい。どこに遊びに行ったのか、何をしたのか、細かいところまで聞かれるので毎回大変なんだとか。
お母さん的には二週間に一回程度会うのが丁度いいらしく、三週間空けようとしたら「どうして?」としつこく問いただされたらしい。なので、今日会うことも昨日になって決まったのだ。
色んなお店が入っている大きめの商業施設に来て、ウインドウショッピングをした後に少し遅めのお昼ご飯を食べていた。とは言ってもアニメショップも本屋もほとんど別行動だったけどな。
「そういえば、一翔は『アイマジ』の新作やるの?」
「ナマガルさんもサスもやるみたいだから俺もやろうと思ってる。二人は詳しいみたいだけど、やってた方が話も合うからな」
「へー、やるんだ。あたしも少しだけ触ってみようかな」
花林は少し興味なさそうにそう言って、紙コップの水を飲み干した。もう食べ終わったことだし、席を離れたいのだろうか。俺も残っていた水を飲み干し片づける準備をする。今までのパターンだとこの後はカフェでコーヒーだな。
眠いと運転ができないので、花林はいつも食後に運転する時はコーヒーを飲むのだ。俺が運転すると言っても保険の関係があるからと言って助手席にしか乗せてもらえないのだ。なので、その代わりと言ってはなんだがご飯や飲み物代はこちらが全額出している。
予想通り混んでいない喫茶店に入りコーヒーを一杯飲んだ後、帰宅することになった。花林の軽自動車に乗り、エンジンが始動し、アクセルが一気に踏み抜かれ、思わず「おわっ」と声を出してしまった。
こいつの運転は荒いのだ。アクセルは一気に踏み、ブレーキは急に踏む。前方の車とぶつかりそうになったらブレーキがかかるシステムが車にあるが、俺が乗っている時に毎回それを作動させてくれている。社会人になってから毎日車で通勤をしているのにこの運転技術、そしてゴールド免許なのだから驚きだ。
頼むから運転席、せめて後部座席に乗せてくれ。
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