アニメイベント③

 四人の歌声が会場に響く。ダンスの振り自体はそれほど激しくはないが、それぞれがそれぞれの魅力で観客を惹き付けている。

 カナンは背こそ低いが、一つ一つの動きにキレがある。四人の中では群を抜いている。

 

 さららはカナン程ダンスが上手いわけではないが、動きや表情に目を惹かれるものがある。歌も上手いし、花林が惹かれるのもなんとなくわかる気がする。


 まあさはメンバーの中で一番歌が上手いと言われている。ダンスはそれほどうまくはないが、歌はCDで聞いた時よりも上手いんじゃないだろうか。


 しずるんは他の三人に比べて飛びぬけて歌が上手いわけでも、ダンスが上手いわけでもなければ、目を惹くような物はない。だが、メンバーのバランスを保っているのは彼女だ。

 目立っているわけではないが、彼女がいないと歌声も踊りもまとまらない。影のまとめ役のようなものだ。1stライブの時には気づかなかったが、先月の2ndシングルのリリースイベントでその一面が垣間見えた。目立ちはしない存在だが、そんな役割をこなしている彼女が好きだ。


 曲が終わると歓声が上がる。それぞれの色のペンライトが振られる。客席全体を見回してみると黄色が多い。会場の半分以上は黄色を振っているんじゃないだろうか。次に多いのが紫、赤と青は同じくらいかな。人気順なんて気にしても仕方ない。

「みなさん、こんにちはー。私達、せーの「「「「ブルームです」」」」」

 カナンの掛け声で四人が声を揃えてユニット名を言った。


「改めて自己紹介します。江戸川果南えどがわかなです。よろしくお願いします」

市川沙羅いちかわさらです。みなさん、これからの時間も楽しんでいってください」

松島浅見まつしまあさみです。改めてですけど、こんなにたくさんの人がいるんですね。私達の名前だけでも覚えていってください」

浅舞静流あさまいしずるです。一緒に楽しみましょう!」


 それぞれの自己紹介が終わる度に拍手があり、演者の声を叫ぶ観客もいた。

「いやー、声優ユニットとして活動しているんですけど、さっき歌わせていただいた『出会いの始まり』をこうして公の場で歌うのが初めてだったので、皆さんの反応がすごく気になっていました」

「そうだよね。私達、ユニットとして活動し始めてまだ一年経ってないんですが、全然ライブイベントやっていないんですよ」

 さららの言葉で愛情から笑いが起きる。やはり場数を踏んでいる人間は違うな。


「でもですね。そんな私達のライブが来週日曜日に行われます。昼夜二部公演となっています。詳細はネットで調べていただければと思います。まだチケットも販売中です」

「偉い人が、もう少しで完売、と言っていたので今日で興味を持ってくれた方々はお早めに購入をお願いします」

「浅見ちゃん、それは言っちゃダメってマネージャーさんに言われてたよ」

 まあさの一言にしずるんがツッコミを入れるが、しっかりと来週のイベントの宣伝をしていた。イベント会場が1stライブよりも少し大きめのところではある。昨日チケットの情報を見たら残席が残りわずかの状態だった。下手したら今日で売り切れてしまうかもしれないな。


「さて、実はですね。私達、ブルームとしてではなく四人の声優として歌う曲があります。なんだと思いますか?」

 カナンの言葉の後、若干の間ができる。

「そうです。アニメで私達が演じた見習い歌姫が歌ったあの曲です。それでは聞いてください『ハジマリノウタ』」

 アニメで四人が演じたキャラが歌った曲だ。ゆったりとした曲調で激しい踊りはない。声優としてではなく、それぞれのキャラクターとして歌っている。調和が取れて、聞いていて心地が良い。


 この曲のフルバージョンはBlu-ray、DVDの二巻の特典CDとして付いてきていた。すでに聞いているが、今聞いている歌の方が上手い。四人それぞれが上手くなったのだろう。曲を収録するのに良い環境よりも、イベント会場という環境でこれだけのパフォーマンスができるのだ。恐ろしい四人だ。


 歌い終わると、「ありがとうございました」と四人で言った後、拍手に包まれながらステージから捌けていった。その後、女性声優がステージに現れ、エンディングテーマを歌った。


 バラードでこれもいい曲だ。ただ、前に歌った四人に心を掴まれてしまったので、曲を聞くということに身が入らなかった。

 歌い終わると出演者がステージに勢ぞろいした。順番に最後の挨拶をし、拍手に包まれながらステージから捌けていった。

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