それは、唐突に起きた
倒れてしまった静香を俺は、病院に連れて行く。様々な検査を終え、静香は今も病室のベッドの上で眠っていた。
俺は、検査の結果が来るまでの間、静香の側にいる事にした。
彼女の手を握りながら俺は、静香の事を見つめていた。
──すると。
「……ん? あれ?」
静香が目を覚ました。アイツは、眠たそうに目を擦りながら、俺の方に気づいた。
「……ん? 義経?」
「静香! 大丈夫か?」
彼女は、眠たそうに目を擦りながら告げた。
「……え? うん。……ここは?」
どうやらまだ自分がどういう状況に置かれているか分からない様子だ。
「病院だ」
「病院……」
そこで静香は、ようやくここまでの事を思い出したみたいで、ハッとなった様子になった。
俺は、そんな彼女に告げた。
「……心配したんだぞ。お前がいきなり倒れて……体調はどうだ?」
「うん。大丈夫。心配かけてごめん」
静香は、少し俯きながらそう言う。せっかくのデートを台無しにしてしまったと思ったのだろうか? 彼女は、それからも下を向いたままだった。
「……まぁ、でも大丈夫そうなら良かった。最近、体調悪そうだったし、今はよく休めよ」
「うん……」
静香は、布団を口元まで引っ張る。そんな様子を見ていると、病室のドアが開いて外から医者が俺に声をかけてきた。
医者に連れられ、俺は静香の病室から出て行く。そして、レントゲン写真などがある診察室に連れてかれると俺は、そこで医者から話を聞いた。
「異常は見つかりませんでした。特に体の方に何か特別な病気とかを持っているわけでも無さそうです。ですので、現状はただの夏バテと判断するしかないですね」
「そうですか。……ありがとうございます」
「ひとまず、今日は1日、入院してもらって明日以降、様子を見て帰る感じにしましょう」
「分かりました。お願いします」
医者の言葉に従い、俺は静香に事情を説明した。今日一日の入院を告げられた時は、少し困惑していたがそれでも、それが良いと俺も思った。
面会時間も終わりに近づいた頃、俺は帰り支度を始めていた。すると、ベッドで寝ている静香が俺に告げてきた。
「……ねぇ、義経」
「ん?」
何事かと思い、振り返ってみるとそこには、下を向いている静香の姿がある。
「……」
彼女は、無言のままで俺は、コイツが何を伝えたいのかを待っていた。
しかし、静香は何も言わないまま黙ったままだった。
俺は、この時間がどうしてだか、不穏に感じてしまい、だんだん居ても立っても居られないどうしようもない正体不明の焦りに駆られた。
すると、ようやくそこで静香は少し儚げな作り笑顔を浮かべて俺に言ってきた。
「……ううん。何でもない」
それっきり俺達は、特に話をする事もなく、俺は面会時間が終わると病院から出て行った。
もうとっくに暗くなっていた外を俺は、歩く。道を歩いている途中で俺は、脳裏に静香の顔がチラついていた。あの何処か儚い表情の静香……あの顔が、どうも引っかかる。
そして、どうしてだろう? 何故か胸騒ぎがする……。この得体のしれない感情は、なぜ?
「お医者さんだって、異常ないって言ってたのに俺が心配してどうすんだ……」
ここ最近の静香は、確かに少し具合が悪く見える。けどだからって、考えすぎな気がする。
そうだ。小学生の時も静香が、風邪でなかなか学校に来れなかった時、あの時だって普通に元気になったじゃないか。最近そうでもないから忘れていたが、アイツは元々体が弱かった。心配する事でもないはずだ。
──そう、思っていると……だった。
「果たして、そうかな? 若造」
──ん? 今、誰かの声が聞こえたような……。
振り返ってみても誰もいない。……当然だ。ここは、人通りの少ない住宅街なのだ。当然といえば、そうだ。
「空耳か……」
そう思って俺は、行ってしまおうとした。だが──。
「……ここじゃ。若造」
謎の声が、再び俺の耳に入ってくる。もう一度辺りを見渡してみる──が、周囲には一匹の犬が向こうにいるだけ。
「なんだぁ。犬か……」
通り過ぎてしまおうとした次の瞬間、俺の背筋に寒気が走る。
「……って、犬!?」
恐怖心で体が震え始めた俺は、向こうで一切の首輪もしていない犬に怯えた。すると、その犬は、こっちに近づいてきて、恐れ慄く俺に告げてきた。
「……久しぶりだな。若造や」
「……しっ、静香んとこのクソ犬!? ……って、そう言えばお前、喋れるんだったな!」
犬が、普通に俺のそばへ歩いてくるのに俺は、体を震えさせていた。
すると、クソ犬(かき氷)の方も喋り出す。
「そう言うお前の方も犬が嫌いっていう事をすっかり忘れてたぞ」
「……んな事は、良いから! それよりお前……なんだよ? それはどうかなって……何が言いたいんだよ?」
気になっていた事を俺が聞くとかき氷は、告げた。
「……そのまんまの意味だぬ」
「……は?」
なんだよ。それ……コイツ、一体何を言って……。
すると、かき氷は更に俺に告げた。
「……静香には、もう時間がないんだぬ」
「……!?」
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