遅刻から始まる最初の約束
――それから3日後の朝。じりりりり……と鳴りやまない目覚まし時計を叩きながら私は、早朝ベッドから起き上がる。
「あー……」
目がパッチリ開かない。頭も何処か痛い……。それもそのはず。昨日の夜、眠れなかったのだ。今日は、初めて誰かと遊ぶ日。それを期待し過ぎて布団の上でワクワクしていたら……全然寝付けなくなってしまって……仕方なしにスマホで眠る方法を色々調べたり、実践してみるも……うまく行かず……とうとう夜中の2時を超え、その勢いで目を閉じてジーっとするも、眠る事ができず朝を迎えた。
起き上がってからまだ10秒ほどしか経っていないのにも関わらず、既に3回はあくびをしている。
流石に眠い。今日は、しっかり寝て明日に備えようと思っていたのに……これは完全にやらかしてしまった……。
洗面器の前に立って自分の顔を見てみた時の衝撃は、忘れられない。
「……うわぁ。酷いクマ」
何とかこのクマが目立たないようにしないと……。そう思って私は、早速洗顔を始めた。
朝食を取り、身支度を終えると次に私は、自分の部屋の鏡の前に座った。普段、化粧なんてほとんどしないけど、今日は少しだけしてみる事にした。これで、ちょっとばかりは隠せたかな? 鏡の前で何度も確認する。
今日は、本当に隙あらばあくびしてしまうので、化粧をしようにもあくびのせいで少しズレてしまう。何とか修正を重ねて化粧と髪の毛が出来上がった頃には、もう出発の時間になっている。
「いけない……!」
ゴムで髪の毛を両サイド結び終えて直後、大急ぎで家を出て駅まで向かう。今日は、午前中から牛久くんとお出かけなのだ。初めて遊びに誘ってくれた人を待たせるわけにはいかない。
何とか、ギリギリ時間には間に合った。
「良かった……。乗れた」
そう思って早速電車の中でスマホのカメラで自分の顔を確認。
「……よしっ」
あの最悪のコンディションからここまで……何とかできた。後は、この電車でいつもの駅で降りるだけ。
そう思いながら私は、椅子に座る。今日は、自分でもびっくりする位気合が入っていた。ワクワクする気持ちを胸に電車の椅子に座り、ガタンゴトンと揺られる事30分……。
「……
私の耳にも聞えてくるこのアナウンス。……あれ? 私、今何処にいるんだっけ? 確か……朝起きて準備して……あーそうだ。今は、もう到着して一緒に商店街を……。
と、脳内に謎の幻想が見えた頃、私の理性が急にこの幻想を否定する。
「――はっ!」
目が覚めると、そこは既に私が降りる予定だった駅。電車の扉は既に開いている!
「やばい……! いつの間にか寝てた! すいません!」
すぐに駆け出すも、時すでに遅し……。
「ドアが閉まります。ご注意ください」
というアナウンスと共にぷしゅ~っと蒸気が噴き出るような音を立てて、ドアが閉められてしまった。
「あ……」
私の思考が、凍り付く。しばらく放心状態となって、通路の真ん中に私は、立っていた。
ふと、スマホの画面を見てみる。
――10時。
ぴったり、集合時間だ。
「あ……あ」
放心状態の私に追い打ちをかけるように電車のアナウンスが、喋り始める。
「この電車は、奥吉より先は、急行列車となります。各駅には停車いたしませんのでご注意ください」
私は、すぐにスマホを開いてこの電車が次に止まるであろう駅を調べる。出てきたのは、奥吉から4駅先の
ここから電車で戻るとなると……最短でも電車で10分。電車を待つので10分。つまり、ほぼ30分はかかってしまう計算である。
――遅刻確定……。
「……終わった」
私の初めてのお友達との約束は、遅刻スタートとなった……。
森吉から奥吉へ戻り、電車に揺られる事10分……。30分の遅刻を経て私は、ようやく牛久君の元へ到着する事ができた。
「……ごめんなさい」
しかし、牛久くんは決して怒ったりはしない。いつもの調子で「大丈夫~」と言っているだけであった。
それでも申し訳なさでいっぱいだった私は、何度も頭を下げた。すると――。
「……大丈夫だよ。前だって……」
と、突然牛久くんが、変な事を言い始めたので、私は固まってしまった。
「はい?」
前って……?
すると、牛久くんは慌てて口を塞ぎ、告げた。
「……あー、いやごめんなさい! 間違って言っただけです! さて、行きましょうか!」
牛久くんは、そう言うとすぐに先頭に立って私を町まで案内してくれた。奥吉駅から徒歩で5分もかからない位の距離に商店街は、あった。普段は、学校がある時にしかこの辺りに来ないので、いつもの学生で賑わっている様子が思い出されるが……この日は、違っていた。
夏休みで学生がいない商店街は、少し静かで……地元に住んでいる大人達が買い物をしている様子があった。
「……ここ、静かなんですね」
私が、そう言うと牛久くんは、少し微笑みながら言ってくれた。
「……はい。学生街ですから……夏休みとかになるとお客さんも一気に減っちゃうんです」
新鮮な光景だったが、しかしこれはこれでありだと思った。
そのまま、私達は商店街を真っ直ぐ歩いて行く。すると、道の途中で牛久くんが私に尋ねてきた。
「……喉乾いてません?」
「あ……はい」
そう言えば、今日は朝ご飯を食べて以降、何も飲んでいなかった。徐々に太陽も昇って来て、暑さも増していく中、私は牛久くんに連れられて、商店街の一角にある喫茶店に連れて行かれた。階段を上ってお店の中に入ってみる。
「うわぁ……」
とてもお洒落な雰囲気の喫茶店に私は、少し驚いていた。少しすると、店員のお姉さんが、声をかけに来てくれて、私達を席まで案内してくれた。とても静かなゆったりした空間に私は、癒されながら店員さんのくれたお水を一口飲みながらメニュー表を眺めた。
……メニューに書いてあるものが、どれも美味しそうに見えてしまう。朝ご飯を食べたばかりと言えど、スイーツに目が行ってしまうのは……どうしてだろうか?
と、あれこれ考えていると、向かいに座っていた牛久くんが、言ってきた。
「……色々迷っているなら、いちごミルクがおすすめですよ」
「え……? いちごミルク……ですか?」
喫茶店だからてっきりエスプレッソとか言い始めるのかなと思っていたら、違った。むしろ、もっと可愛い感じの飲み物だった事に意外性を感じながらも私は、店員さんにいちごミルクを注文する事にした。
すると――
「あっ、すいません。俺もいちごミルクで」
牛久くんも同じものを注文。私達は、2学期の学校の事を色々話しながらいちごミルクが届くのを待った。
まぁ、話と言ってもほとんど牛久くんが、一方的に話をしていたのだけれど……こういう時、友達のいない私には、うまく会話を広げられるような話題がないため、仕方なかった……。
しばらくして、注文したいちごミルクが届いた。私は、早速ストローで下に溜まっているいちごをかき混ぜた後に飲んでみる事にした。
「……美味しい!」
いちごの酸味とミルクの濃厚な甘みがうまく溶け合っていて、今まで飲んだいちごミルクの中でもトップクラスに美味しかった。
牛久くんも満足そうだ。
「……良かった。……俺もさ、よくここ来るんだよね。まぁ、この辺住んでるし……小さい頃から紗兎と一緒によくここのいちごミルクを飲みに来ててさ……」
――あ……。
その時ふと、牛久君の口から京極さんの名前が出てきた時、私の脳裏である疑問が生まれた。
いや、生まれたというよりも……これまでずっと感じていた疑問なのだが……私は、勇気を振り絞って聞いてみる事にした。
「……そういえば、牛久くんって……彼女とかっていないんですか?」
今までずっと気になっていたのだ。いつも京極さんと一緒にいて、2人はもしかして付き合っているのではないか? と……。もしそうなら、今日のこれも牛久くんからしたら……浮気になるのではないかって……。
そう思ったのだが……しかし、牛久くんはきっぱりと告げた。
「いないよ……」
それを聞いて私は、少し安心した。
――良かった。2人は、付き合ってなんかいないんだ……。
……って、あれ? いや、確かに付き合っていたら大問題で、それなら私は、ここで失礼する感じになっていたけど、でも……どうして私は、牛久くんが京極さんと付き合っていない事に安心感を覚えたのだろう……。
「……どうしたの?」
すると、そんな風にボーっと考えている私に牛久くんが心配そうに尋ねてきた。私は、慌ててストローに口をつけていちごミルクを飲むのだった。
「……だっ、大丈夫れす!」
そして、その場を何とか誤魔化したのだが……。
――やっぱり、なんだったんだろう……。さっきの気持ち……。私の心には、ポツンと1つ疑問が残るだけだった……。
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