私……どうして……
幼い頃の夢を見ていた。……あれは、私が公園でいじめを受けていた時の事だ。男子達が、私に意地悪をし……女子達は、端っこでクスクス笑っている。
泣き出す以外になかった私の元に現れたのが……義経だった。
「約束する……! お前が困った時には、必ず俺が……迎えに行く……傍にいるから!」
そう……言っていた気がする。
*
――翌日、静香の様子を確認しに朝早く彼女の家へ向かった俺を出迎えたのは、昨日のあの……変な口調の静香だった。
「……何よ? アタシの顔見て不満そうに……」
「あぁ……いや……やっぱ夢じゃなかったか……って……」
昨日から静香の様子がおかしくなってしまった。俺達は今日、病院に行く事を約束したのだが……。
もしかしたら、一晩経てば……この謎のツンデレ現象も収まると思っていたが……そうもいかなかったみたいだ。
「やれやれ……」
「ちょっと! 何よ! その反応は……」
「いや、別に……。それより、行くぞ」
俺は、そう言って静香を連れて病院へ行こうとした。しかし、向かおうとした次の瞬間に静香は、妙な事を口走った。
「……病院に行っても治らないわよ……」
「え……?」
どういう事だ? 思わず、聞き返してしまったが……。
「静香……?」
振り返ると、静香はニッコリ笑って告げてきた。
「……それよりも義経! 今日は、何月の何日か……教えなさいよ!」
「え? あ……は? 今日も? お前……ここ最近、ボケ過ぎだぞ。今日は、夏休み2日目! 7月26日だ! さぁ、行くぞ……。今のお前と話をしていると……なんか、落ち着かないし……とっとと、直してもらおうぜ」
「……」
静香は、無言のまま仕方なさそうに俺の後をついて来た……。
俺達はすぐに病院へ向かった。夏の病院は、人が多くて……とても混雑しており、順番が回ってくるまでにかなり時間はかかった。ようやく、自分達の番が来たと思い、俺はお医者さんに色々話をしてみるが……熱はないし、体に異常は見られない。精神的にも全く異常なしと言う事で、俺達は帰されてしまった。
結局、何も手がかりが掴めないまま……俺達は、病院からの帰り道をダラダラ歩く事にした。
「熱い……」
午前中の太陽は、特にギラギラ照らしてきていて、外を歩くだけでも辛い。
しかし……結局、何も掴めなかったとなると、やはりあの……謎の本が原因なのか? いや、でもそんな……本開いただけで人間の性格が180度変わるだなんて……そんなメルヘンな話あるわけないか……。
そうこう思いながら俺は、静香と一緒に町を歩いていると、彼女は突然立ち止まって、俺の名前を呼んできた。
「……義経!」
「ん?」
暑さで、完全に参っていた俺が、アイツの方を振り返って見ると、そこには何処かを指さす無邪気な少女みたいな雰囲気の静香がいた。
アイツが、指さしている方向……そこには、自販機とベンチがあった。
「……義経、休憩!」
「言われんでも分かってるよ……。俺だって喉からからだし……」
そうして、俺が早速ポケットからお金を取り出してジュースを1つ買おうとする。すると、その刹那――!
「えいっ!」
物凄いスピードで俺よりも先にオレンジジュースのボタンを静香が押してきた。ジュースは、見事に落ちて来て自販機に入っていたはずの120円は、そのまま吸われて行ってしまった……。
「お、おい……」
「ん? どったの? 義経?」
キョトンとした様子でこっちを見つめてくる静香に対して俺は、イライラを感じながらももう一度、自販機にお金を入れた。今度こそコーラを1つ買おうとした次の瞬間――!
「とぅ!」
電光石火のスピードで静香が、パイナップルジュースの缶のボタンを押してしまった……。
「おい……!」
すると、今度はオレンジジュースの缶を開けて飲みながらこっちを見ている静香の姿があった。彼女は、相変わらずキョトンとした様子でこっちを見ている。
――この女ぁ……!
そう思い、睨みつける。しばらく彼女を睨みつけた俺は、一呼吸おいてからゆっくりと財布の入ったポケットに手を入れ――
「……おらぁぁぁ!」
――という掛け声と共に財布を抜き出し、自販機にコインをサッとを入れて、コーラのボタンを押そうとする。
――しかし……!
「やぁ!」
静香の手のが素早く、彼女の方が先にぶどうジュースのボタンを押してしまう。ゴロンっと、自販機の下で音がし、俺の視界にぶどうジュースが映る。しかし、この瞬間に俺は――。
「いやあぁぁ!」
次なるコインを財布から抜き取り、自販機に投入……! そして、コーラを注文しようとする。
――しかし……!
「それ!」
今度は、いちごミルクが落ちてくる。……悔しい思いを胸に俺が、もう一度財布からお金を取り出そうとする。だが……その時だった。
「は――!」
指先にコインの当たる感触がなくなった――。
「ない……。まさか、俺の……完全敗北……!?」
すると、缶を開ける音と共に静香がパイナップルジュースを飲みながら嬉しそうにどや顔をしてきた。
「えっ、へへへぇ!」
ガキみたいに腰に手を当てて「えっへんポーズ」をする彼女を見ていて、俺は一気にイライラが加速した。
「……ふざけるな! お前、俺が脱水症状でも起こしたらどうすんだ!」
すると、静香はびっくりした小動物のように告げた。
「……ひぅ。もう! 分かったわよ! 悪かったわよ。代わりにアタシのを1つ……」
と、彼女が何かを言いかけた次の瞬間に俺は、とある少女に声をかけられた。
「……あれ? 牛久くん? ……ですか?」
その声を聞いた瞬間に俺の耳は、幸せの絶頂を迎えた。ドキッと胸が弾み、俺はゆっくりとあの子の方を振り返った。すると、そこには――。
「……きょっ、京極さん!?」
彼女の姿があった。2日ぶりに会う京極さんの姿に……俺は、緊張した。彼女は、ごきげんようと手を振ってゆっくりとこちらへ近づいて来た。
それと同時に静香の方は、なんでだか知らないが、少し後ろへ後退しているような……。いや、なんでだよ? 同級生だろ?
すると、京極さんは告げてきた。
「……牛久くんに……舞立さんまで……久しぶりですね」
「えぇ……そうね」
静香の声が急に小さくなった。……どうしたんだろう……。
と、思っていると京極さんが俺に告げてきた。
「……お2人とも今日は、ここで……何を……」
「あぁ……その……ちょっと2人で出かけてて……その帰りというか……」
京極さんは、不思議そうに静香の手に持っている大量の缶ジュースを見ていた。それから、彼女は微笑みを浮かべて告げた。
「……それなら、私もここでジュースでも飲もうかな」
と言って、彼女は財布を取り出した。しかし、俺は――。
「……あぁ、良いですよ! 俺、出しますよ!」
「え? いえ、大丈夫です。自分で買いますから」
「いやいや、平気ですって……」
「そんな悪いですよ! 牛久くんに……」
京極さんは、なかなか俺のやろうとしている事に「良い」と返事は、返してくれない。俺と彼女は、自販機の前で次第にヒートアップしていき……そして……。
「……やめてよ。こんな所で……。こんないきなり、見たくないってば……」
「え? 静香?」
急に静香が、小声で妙な事を喋り始めたのを俺は、聞き逃さなかった。俺は、彼女に面と向かって告げた。
「……どうしたんだよ? さっきから……。やっぱり、何処か悪いのか? もう一回、病院行った方が……」
「そんな所行っても変わらないよ。元気になんてなれっこない。無駄なのよ……。全部」
「何言ってるんだ? 諦めるなよ! 俺も一緒に行ってやる! だから、そんな事言うなよ! きっと元気になるさ! 俺だって、お前が元気になる為なら……」
「嘘つかないでよ! バカ!」
「え……?」
静香……?
「何が……何が、傍にいるよ! 今更それが……信用できるわけ……できるわけ……ないじゃないの!」
「おい……静香……? どうしたんだ? お前、なんだか変だ。早く家帰った方が……」
「家なんて帰りたくない! 近寄らないでよバカ!」
「静香……?」
すると、静香は俺に背を向けて……行ってしまった。
「バカ……」
アイツは、物凄いスピードで缶ジュースを抱えたまま……何処かへ走って行ってしまった。その背中が……なんだか俺には、凄く遠くに感じた。なんだろう。もう、アイツが、戻ってこない気がして、凄く……寂しい気持ちだ。
あぁ……俺、アイツに……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます