第27話 蒼き炎の精霊

 ミルが大きな賭けに勝ちさっそく黎明に修復のため連れていかれた後、ザックとサーヤは小屋の中に置いてあるテーブルで静かに向き合って座っていた。

「それで僕と話したいことって?」

 そんな中、沈黙を破ったのはヒロだった。

「話したいことというか聞きたいというのが正しいな。俺はお前の境遇を知っている。お前は精霊の抑止力として生まれた精霊だ。つまり裏切り者を断罪するために生まれた精霊であり、精霊が恐怖し…それゆえに遠ざける。そんなお前が人間と精霊側に味方する理由が聞きたい。それとこれは個人的な興味でしかないから返答によって俺が態度を変えることはない。そこは安心してくれ。」

「ザックあなた!」

「サーヤ。僕は大丈夫。こういう質問をしてくれる人は珍しい。それに疑問を持つ気持ちはわかるんだ。なら僕はそれに答えたい。」

 ザックの遠慮ない質問にサーヤはムッとして反論しようとするのをヒロが宥めつつ、答える意思表示をした。

「ヒロがそう言うなら。」

 サーヤもヒロにそう言われては自分のムッとした気持ちを引っ込めるしかなかった。

「ありがとう。さてその質問だけど僕としてはもちろん精霊たちにはいろいろ酷いことをされたり言われたりして傷ついてないわけじゃないけどね。それでも僕が人間と精霊に力を貸すのはその気持ちを飲み込んででも願いを聞いてあげたい子がいるからかな。それに今関わりのある精霊は僕の力のことを知っても普通に接してくれるしね。そこも大きいとは思うよ。」

 ヒロは特に考える素振りも言い淀むこともせずにザックに対してそう答えた。

 精霊には酷いことをされたが、メラやユキが精霊とはいえ酷いことをしてきた精霊とは別精霊なのだ。

 なので精霊だからといってヒロには最初から嫌う選択肢はなかったし、関わった結果嫌う理由もなかった。

 まあ…半分以上の理由はサーヤが彼と彼女の契約者を気に入っているからなのだが。

「ちょっとヒロ!なんか恥ずかしいんだけど!その特に願いを聞いてあげたい子とかの部分が!」

 ヒロの答えを横で聞いていたサーヤはそれが嬉し恥ずかしで文句を言って自分の座っている椅子に立て掛けてあるヒロの宿った剣をペチペチと叩いているがそのニヤケ顔で照れ隠しなのがバレバレだった。

「ふっそうか。なるほどな。サーヤお前は良い精霊と出会ったよ。」

 そんなサーヤの様子に笑み浮かべながらついそんな感想を抱いてしまうザック。

「なに言ってるの!そんなの当たり前でしょ!って呼び捨て!まあ私も呼び捨てにしてるからいいけど。」

 呟いてしまったのがいけなかったか、サーヤに拾われて少し怒られてしまった。

「当たり前か。ありがとうヒロ。おかげで良いものが見れた。」

「いやいや、僕は当たり前のことをそのまま話しただけさ。」

 聞きたいことと見たいものを見ることの出来たザックは満足そうにヒロへとお礼を言うと、彼はなんてことないようにそう返してくる。

「ふああ~っここはどこなのだ?なんだか気持ち良く寝れた気がするのだ。」

「なんだ起きたのかガブ?」

 そんな話が一段落を見せたところであくびと共にかわいらしい声が聞こえてきた。

 その声の主にザックが壁に立て掛けられていた剣へと声をかける。

 その剣はサーヤたちに苦い思い出を残した蒼い炎を纏っていた剣だった。

 別に今はザックと敵対しているわけではないのだが、サーヤは背中に冷や汗をかいた。

「おおっ!おはようなのだザック!そしてそこにいる悪魔のお姉さんと精霊のお兄さんも初めましてなのだ。」

 そんなサーヤを他所に蒼い炎を纏っていたその剣は元気良くサーヤとヒロに挨拶をしてくれるがサーヤはその予想外の出来事に反応できなかった。

 サーヤとは違いヒロは動いた。

「おはようそして初めまして僕はヒロ。君は僕が怖くない?」

「怖い?どうしてなのだ?確かにちょっと嫌な感覚がするけど、ガブはお姉さんとヒロがザックと戦っているところを見ていたから怖くないのだ。友達をあんな風に庇える人は優しいに決まっているのだ。」

 剣の主、正体は精霊なのだが…ヒロがその精霊に挨拶と共にそれとなく探りを入れてみると…

 想定外な明るくて危険でもない、すごく純粋な返答が飛んでくる。

「その…ありがとう。そう言ってもらえるのはすごく嬉しいよ。」

「えっとその感じだと私のことも怖くないのよね。」

 剣の精霊ガブの純粋さに戸惑いつつもヒロは言われたことに対してのお礼を伝えた。

 一方サーヤは遅れた反応分を取り返そうとした結果、怖がっているのは自分だというのにヒロに釣られてそんなことを聞いてしまう。

 サーヤが怖がられていないのかも確認したかったのでは?と言われればそうなのだが。

「お姉さんのことも怖くないのだ。」

「そっそれなら良かったわ。えっと私はサーヤ。その…よろしくねガブ。」

「サーヤ!よろしくなのだ!」

 サーヤの気持ちを知ってか知らずか明るい声で怖くないと伝えてくるガブにサーヤの怖がる気持ちはどこかへと行ってしまった。

 言葉につまりながらもサーヤもガブへの自己紹介を終える。

「ところでザック、ここはどこなのだ?自然がいっぱいで気持ちが良いのだ!」

「植物園だ。そこのサーヤが拠点にしているな。」

 そう言ってガブの疑問にザックがサーヤのことを指差して答える。

「おおっ!つまりガブをここに連れて来てくれたのはサーヤなのか!?」

「いや連れてきたの俺なんだが…」

「でもザックがここへ来たのはたぶんサーヤに会うためなのだ。だからガブをここに連れてきてくれたのはサーヤだと思うのだ。だからサーヤありがとうなのだ。」

 ザックのツッコミにガブは高いテンションのまま、筋が通っているのかいないのかよくわからない反論を展開していた。

「その…どういたしまして。ここを拠点にしているのは私が気に入ったからなんだけど、ガブにも気に入ってもらえて良かったわ。」

 サーヤとしてはそんなに筋が通っていないのではと思わなくなかったが、それよりも自分が気に入っている場所が好きと言われたことと素直にお礼を伝えてもらえたことが嬉しかった。

「そうなのだ!ガブはここが気に入ったのだ!良く眠れるし気分がいいのだ!たぶんヒロだって気に入っているはずなのだ!」

「うん気に入っているよ。ここは自然に囲まれて気持ちがいいし、何より力の回復が早いしね。」

 ガブは続けてヒロにも意見を求めると彼はポロッと重要そうなことを言った。

「回復が早いってなんなのだ?」

 ガブも知らなかったようでヒロに聞いている。

 もちろんサーヤもなにそれ!?と聞きたかったがガブが先に聞いているので口から出そうになった疑問は一旦飲み込むことにしてヒロの話に耳を傾ける。

「うん精霊って自然に囲まれているところの方が力の回復が早いんだよ。まあ少しだけどね。」

「そうなのか!どおりで気分が良いわけなのだ!」

「ガブ…知らなかったのかよ。」

ガブがヒロの説明に元気良く相づちを打っていると横からザックが少し呆れたように言う。

 ザックが少し呆れたように言っているのはそのくらい精霊なら知っておけよということなのだろう。

「知らなかったのだ!」

「得意気に言うことじゃないな。」

「その…私も知らなかったんだけど。」

 知らなかったことをなぜか得意気に言ったガブとは違い、ちょこんと控えめに手を挙げておずおずと申告するサーヤだった。

「まあ僕も言ったことないしね。知らないのはしょうがないよ。」

「教えてくれても良かったのに。」

「ごめんごめん。」

「まあいいわ。許してあげる。」

「サーヤとヒロは仲良しなのだな!うんうん仲良しはいいことなのだ!」

「そうよ!私とヒロは仲良しなの!」

 サーヤがヒロへと文句を言い、それにヒロが軽い調子で謝るというたぶん日常的に起こっているだろう二人のやり取りを聞いたガブは嬉しそうにそんな感想を口にするとサーヤはすぐに自信満々にそう自慢した。

「おやおや、もうガブさんとも仲良くなったんですか。いいですね。私たちにも一体感が出てきたんじゃないですか?」

「なーにがっ!一体感ですか?私を脅して従わせてるのはどこの誰なんですかね?」

 そこにニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべた黎明とその後ろで悪態をつくミルが入ってくる。

「私ですかね。」

「はあ…そう返されると言ってる甲斐がありませんよまったく…それとお姉さん修理は完了しましたよ。」

 悪態を軽く流されてしまったミルはつまらなそうにため息をついて最後の抵抗として一言文句を付け加えた後、サーヤへと視線を移動させ、つまらなそうに仕事完了の報告を済ませてくる。

「直ったの?さすがね。その能力を私がコピーしてもたぶん修復できなかったわ。ありがとう。助かったわ。」

「お礼なんていいですよお姉さん。私は与えられた仕事をこなしてそれを報告しただけですから。じゃあ私は行きますね。」

 報告を聞いたサーヤはミルの仕事の速さに驚きつつも感謝を伝えるためにお礼を言ってはみるのだが…ミルは素直に受け取らずにそう言い残して足早にこの場を去って行った。

「うーんミルさんはもう少しでしょうか?」

「いや全然無理だろ。」

「あんな勧誘の仕方したら当然でしょ。それに私もミルに心を許したわけでもないし、そもそも私たちの協力関係も利害の一致ってだけでしょ?」

 黎明がミルの背中を見送りながら困ったようにそうこぼすとザックとサーヤから否定されてしまう。

 そもそもザックはサーヤに少しは協力してもいいなと思いつつもその実態は黎明に昔の恩を返せと言われて渋々手伝っているだけでしかないし、サーヤに至ってはソラたちを守れるという方向で黎明と利害が一致しているだけなのだ。

 なので当然と言えばそうなのだがこの二人は根本的にここを仲良し集団にする気がない。

「なんなのだ?みんなピリピリしてるのだ?」

「ガブ、君にはまだ難しいかな。」

 ガブが周りの様子に不思議そうにしているとヒロが優しくこの空気からガブを逃がす。

「はあ…ザックさん、サーヤさん。お二人共厳しい意見ですね。まあ…今のところはしょうがないので気長に考えることとします。」

 黎明は二人の否定に悲しくもないのに悲しい振りをしてそうこぼした。

 ここに集合したサーヤ、ヒロ、黎明、ザック、ガブ、ミルの6人が「○○○○○○○」と呼ばれることとなるのだがそれはまたもう少し後のお話。






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