第21話 空腹の商人

 カレンたちが抗っている頃、とある大通り。

「まったく…あいつらは面倒事に巻き込まれないと気が済まないのかよ。何の準備もなしに化物を引くとかどうかしてるぜ。」

 クレイスが呆れ半分、心配半分でそう呟く。

 クレイスは精霊の分身体を送って加勢するつもりだったがたまたま隣にいたメグに通信を聞かれてしまったのがまずかった。

 どうしても助けに行くと聞かないメグが無理をしないようについてきていた。

「んっクレイス遅い。」

「それでこっちはもうほとんど治ってると。まあ、メグの出自を考えれば納得なんだが…まだ一応休んでた方が良いと思うんだけどな。」

 クレイスは前を進んでいるメグが行く手を阻む倒壊した建物でできた山の上から声をかけてくるのに登りながら少し呆れたように呟く。

「んっなんか言った?」

「いいや、なんでもない。」

 小さく呟いただけなのでメグには届いていないため聞き返してくるが、もともと聞かせるつもりもなかったので適当にごまかしておく。

「そう。んっクレイスあっちに人が倒れてる。」

「マジか!すぐ行く!」

 メグの納得したような返事の後にそんな報告があがってきたのでクレイスは急いで残りの距離を登りきるとそこには確かに倒れている男の姿があった。

「んっ大丈夫?」

「おい大丈夫か?」

「たっ食べ物…水…」

 二人が駆け寄って声をかけるとお腹の音だろうか、グーという音と共に男がそんなことを呻く。

「えっとメグお前。携帯食料持ってなかったか?」

「んっ持ってる。あげる。」

「ほら水だ。」

 メグはどこからか棒状の携帯食料を、クレイスは持っていた荷物の中から水筒を取り出すと倒れている男に渡す。

「いただきます!」

 男はそう言ってメグの手から携帯食料を、クレイスの手からは水筒をそれぞれひったくると携帯食料の包み紙を剥ぎ取り、小麦色のスティックにかじりつき咀嚼し、それから口の中のものを水で流し込む。

「ふうっいや~助かりましたよ。もう少しでお腹と背中が完全にくっついちまうとこでした。」

 それから自身を助けてくれただろう二人に向かって頭をかきながらそう話しかけてくる。

「お前はこんなところでなにしてんだよ?」

「あっしですか?あっしはルイド、しがない商人をやってまして。最近は儲けが少なくて食い物にありつけず、倒れていたというわけです。」

 クレイスの質問にルイドと名乗った男は自分の背にある大きめのリュックサック、たぶんその中に商品を入れているのだろうそれをクレイスとメグの目の前に持ってきて自己紹介をしてくる。

「んっそれかわいい。」

 次に反応したのはメグだった。

 ルイド、正確には彼の着ているブサイクなネコのキャラクターがプリントされた半袖のtシャツに対してだが。

「これですかい?気に入ったのなら一着差し上げましょうか?」

「いいの?」

 自分の服を指差されたルイドは、そう目の前の少女に提案してみると、嬉しそうな返事が返ってくる。

「どうぞ。食べ物のお礼ということで。色は白と黒の2色しかないんですが。どっちにします?」

 ルイドは食べ物のお礼と前置きをした上で、自身のリュクから2着のtシャツを取り出しメグへと欲しい色について聞く。

「んっじゃあ黒っ!」

「黒。ほいどうぞ受け取ってくださいよ。」

 メグが勢い良く黒っと宣言するので、その反応に少し頬を緩めつつルイドはtシャツを素早く畳んで渡す。

「んっありがとう。」

「そちらの方も一つどうです?」

 ルイドはメグのお礼に手をぷらぷらと振って返すと自分を助けてくれたもう一人、クレイスにも声をかける。

「お礼はしなくていい。俺ら急いでるんだ。大丈夫そうなら行くからな。じゃあな。ほらメグも行くぞ!」

 するとクレイスはそう言って残骸の山を急ぎ足で下って行こうとするが…

「『暗闇』に挑むために倒すべき補食の悪魔の領地の地図、銀のナイフ、魔製変異体の情報。なんてもんが揃ってますが…どうです?」

「お前なんて言った…チッお前なにを知ってる!?」

「んっ!『ラティナ』『シル』起きて!」

 不意にルイドが口に出した単語にクレイスだけでなくメグも一瞬硬直し、それからクレイスは懐から植物の種を、メグは自身の双剣に素早く手をかける。

「はいっ起きましたわ!お姉さまが起こしてくれるなんて!はあ…」

「メグっなにがあったの!?」

 メグの言葉にシルはなぜだか嬉しそうに、ラティナは警戒感を強めてそれぞれ応えた。

「やだな~お二人さん。そんなに警戒しないでくださいよ。あっしは商人、情報は武器なんでちょっとばかし危ない橋を渡ってみることもあるってだけです。さてどうします?もう少しあっしの話を聞いていきませんか?」

 臨戦体勢に入る二人を見て両手をあげ、敵意がないことを示すとルイドはそれが商談における顔なのか、それともただ面白がっているのか、

 クレイスとメグには見分けがつかなかったが、彼は二人に向けて不敵な笑顔でそう口にした。

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