第19話 悪魔に変えられたもの
ルカがカレン、ソラ、クレイスの前でそう言ってから数日後。
ルカ、カレン、ソラの三人はとある廃墟の敷地内を歩いていた。
「えっとここは?」
「ここは確か大型の室内プールがあるレジャー施設だったと思うわ。今は見ての通り廃墟でしかないけどね。」
「なるほどそれで敷地がかなり広いんですね。」
カレンとソラが周りを警戒しつつ雑談をしていろんなものが散乱している通路を歩いていると…
「いや~ここが無事な時ならお嬢様たちのかわいらしい水着姿を見てみたかったですよ!」
「ルカ、あんたまたそんなこと言ってふざけてる暇があるなら周りを警戒しなさい!周りを!」
ルカが緊張感のない声でそんなことをのたまったのでさっそくカレンがルカのほっぺたを片手で掴んで注意し、すぐにはなす。
「ふえっ!ごべんなさい…と言ってもカレンお嬢様…私けっこう本気なんですが…ソラお嬢様~カレンお嬢様に軽くあしらわれてしまいました~」
「あはは…まあここ危険区域ですし、カレンさんの言う通り気を引き締めていきましょう。」
ルカは一応反省はしたらしいがちょっとだけカレンの言い分が不満だったらしく、ソラに助けを求める。
ルカに向かってソラは困ったような表情でそう返して少し離れてしまったカレンの後を追う。
「あっソラお嬢様まで~わっわかりました。ってお二人とも待ってくださいよ~!」
それを慌てて追いかけるルカ。
そんなこんなでしばらく通路を進んで行くと三人は開けた場所に出た。
「問題の場所はここね。」
カレンは地図を確認し、目的の場所かどうかを確認すると立ち止まった。
そこは大型の室内型の大きなプールに当たる区画だった。
「うわっここってプールですか?大きいですね。」
今は壁に大きな穴が空いていたり、瓦礫が散乱していたり、床がひび割れていたりしていたがソラはこんなに大きなプールを見たのは始めてだったので驚きと少しの嬉しさが混ざった声をあげる。
「そうねここが地図で言う大型プールの区画そして今回のターゲットのすみかになっている場所よ。ソラ、ルカ戦闘の準備をしておいてちょうだい。」
「はい!」
「わかりました!」
カレンが二人の気を引き締めるようにそう呼び掛けると、ソラも大きなプールとの出会いを頭から追い出すように返事をし、入ってから気を緩めっぱなしだったルカが切り替えるように背中に背負ったモップへと手をかける。
「さて『メラ』」
「あいよ。作戦スタートってところか。」
二人の様子を見たカレンは自身の剣の柄に手をやりメラに呼び掛け、抜き放ち燃える刃で薄暗いプール内を照らす。
するとプールの奥の方で大きな影が動くと同時、耳をつんざくような咆哮が響いてくる。
三人は思わず耳を塞いでしまうがその咆哮が終わると同時に動き出す。
「出たわね。魔製変異体!ったくなんでこんなのがここにいんのよ!」
「普通いるのってもう少し市街地から離れた場所なんですけどね。」
「あれってワニですか!?」
「そうよ!あれは悪魔に憑依された生き物が突然変異を起こしたものなんだけど、まあ変異体の元になった動物がワニってことよ。」
「お嬢様方来ます!」
ルカがそう反応し、二人が大きく横へと飛ぶと次の瞬間、二人がいた場所に大きな塊が着弾し轟音…
そこにあったのは瓦礫を咀嚼した巨大なワニの頭だった。
「危ないじゃない!このっ!」
「『ユキ』!」
「ふふっ任せて。」
「『アイススピア』!行って!」
「『切り裂きなさいスイ』」
「了解しました。メイド長。」
回避行動をとった三人は体勢をたてなおすと 巨大なワニの首筋に向かって炎の斬撃、大きな氷の槍、モップから召喚されたスイによる水の斬撃をそれぞれ叩き込む。
巨大なワニの変異体はグアアアッという怒ったような咆哮を上げ、手足をバタつかせ周りのものを壊しながらもがき苦しむ。
「よし!手応えはあったわね!」
カレンがその手応えに拳をグッと握ると二人を見て笑顔を浮かべ、追撃を仕掛けようとするが…
「一回下がるのがよろしいかと。お二人とも失礼。」
「ちょっと!」
「うぷっ」
起き上がったワニを見たルカは走り出そうとしたカレンの腰を抱き、それからソラを手早く回収、二人には訳がわからなかったが、ルカは全力でプールへの入り口の先、更衣室へと続く廊下に飛び込み回避行動を取る。
ルカが着地し、抱いていた二人を放すと…
後ろの扉の向こう、つまりはプールの区画が轟音と真っ黒な衝撃波とでもいうものに支配される。
入り口から砕けた瓦礫が飛んできて三人の目の前に落ちてくる。
「うわっなんなのあいつ。いやでも助かったわルカありがとう。」
「どういたしまして。ですが…まずいですねこれでは近づけません。あの変異体、近接は無理だと判断したのか遠距離に戦い方を変えてきました。」
「近づけない、つまり私たちの射程圏外ということですか?」
「そうですね。私とソラお嬢様の攻撃は届くでしょうけど、カレンお嬢様は少し射程が足りないかもですね。二人でちょっとずつ削っていくしかないでしょうか?」
「そうですね。ここからちょっと出て攻撃しつつ…」
「待って!ルカあいつの攻撃ってどこから出てた?」
ルカとソラがあのワニをどうするかの相談をしていると何かを思いついたようにカレンが口を開く。
「えっと予備動作しか見てませんから確かなことは言えませんけど、おそらく口から何かを吐いたんだと思います。カレンお嬢様それがどうかしたんですか?」
聞かれたルカが状況を思い出しつつ、答えるとカレンは満足そうに頷き、自身ありげにそう言った。
「ふふっ私良いこと思いついたわ。」
「良いことですか?」
「ええそうよ。二人とも短めの作戦会議よ。」
そう言ってカレンは好戦的な笑みをその顔に張り付けると二人に向かってそう言った。
ワニの変異体は口を開けたまま制止していた。
このブレスは背中の鱗の一部が進化してできたエネルギータンクに貯めたエネルギーを口から放出するというものだった。
いかんせん一回撃てば、エネルギーの装填に悪魔を喰らう必要があるコスパの悪いものだった。
なのでワニは口を閉じ、手ごたえのないことを感じた瞬間動き出した。
まずはプールの壁が大きく壊れた場所から外へ出るとその辺にいる黒い影のような見た目の下級悪魔に噛みつき飲み込み、噛みつき飲み込みを繰り返した。
次こそ自身の首筋を傷つけた虫けらどもを始末するために。
数分後、カレンたちの作戦会議終了とワニのエネルギーの装填完了はほぼ同時だった。
「あいつも何かしてきたみたいだけど作戦通り行くわよ。」
「はい!」
「了解しました!」
カレンの合図に二人が応えると同時にワニもこちらへと猛然と走ってくる。かなり速いが…
カレンたちは手筈通りにことを進める。
「ルカ!」
「スイ!作戦の通り行きましょう。」
「了解ですメイド長!」
カレンがそう呼び掛けるとルカとスイがまだ使えるプールのポンプから出し続けていた水を操り、目の前へ着地したワニの口元に水のリングを何個も生み出す。
ワニは少し警戒したがこの位置までこれたなら逃げられる前に撃つそれしかないそう考えた。
エネルギーを喉奥まで移動させ発射準備を整えあとは吐き出すだけそんなタイミングで…
「今!」
「スイ」
「ユキ」
カレンの合図に二人が合わせる。
スイは水のリングをぎゅっとせばめ、ワニの口を縛ると同時に冷気の風がワニの口元を撫でる。
それだけだった…それだけだが勝敗はここに決した。
ワニは噛む力は強いが逆に開く力が弱い。
簡単に言えばとっさに押さえつけられてしまったワニの口はすぐには開かなかった。
その結果吐き出しかけたエネルギーが行き場を失い、口の中で暴発したのだ。
ワニはあまりの痛みとダメージにひっくり返った。
「作戦成功!ワニって開くの得意じゃないのよ!さあ今がチャンスよ!私に…」
カレンは二人に向かって続きなさいそう言おうとした。
だがカレンの言葉は蒼く輝く一閃と真っ二つにされたワニの体、そしてその時立った鳥肌によって止められた。
「さてお前らは生き残るかな。」
硬直する三人の耳に男の声でそんな言葉が届いた。
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