大いなる挫折と自己弁護の物語

 僕がまだ中学生だった頃の話だ。


 当時は僕も普通に女子と関わってたし、学年全体で男女問わずに仲よかったから女友達も結構いて、しょっちゅう男女混合で遊びに出かけたりもしてて。

 そうしているうちに特に仲良かった女子グループの一人とちょっといい感じになった。

 特別好みってわけじゃなかったけど、大人しくて可愛い子で。あまり自分から積極的に話すタイプじゃなかったけど、こっちが冗談を言えばよくわらってくれて。

 話してるうちになんかちょっといいなって思うようになったんだ。向こうも満更じゃなかったと思う。

 お互い意識していることは察してて、そのうちいい雰囲気になって、告白して、OKもらって、付き合って。


 初めての恋人だったからな。

 そりゃあ大事にしたさ。


 少ない小遣いをやりくりして、ちょっとしたプレゼントを用意したり、デートプランを練ったり。

 服装とか髪型とか見た目にも気を付けてたし、変化に気付いて褒めるとか、好意をしっかり言葉で伝えるとか、なんかそういうよく言われるようなことはガラにもなく色々頑張ったさ。


 放課後は一緒に帰って、休みの日には時々デートして。

 手を繋いで。ハグして。キスして。


 上手くいってると思ってた。上手くやれてると思ってたんだ。

 だけど、終わりがやってきた。


 付き合って半年ぐらいたった頃だ。

 彼女から突然別れを切り出された。

 僕は驚いたよ。

 なんせ前日にも普通にデートしてて、悪くない雰囲気で過ごしてたんだから。


 突然別れたいなんて言われて驚いた僕は彼女に理由を尋ねたさ。

 

『付き合って半年も経つのに手を出してこないのは私のことどうでもいいと思ってるからでしょ?』


 そんなことを言われた。

 ビックリだ。


 彼女はそういうことに積極的なタイプじゃなかったし、下ネタとかも露骨に嫌がる人だったからな。

 そんな風に考えてるなんて思いもしなかった。

 実際そういうことがしたいなんて素振りは一度も見せたことなかったしな。

 基本受け身で向こうからアプローチをかけてくることなんてなかったんだよ。


 そういうことがしたいなら言って欲しかった。

 そう言ったらこう返されたよ。


『それぐらい察して欲しい』


 僕はエスパーじゃないんだぞ?


 そもそも当時は僕も彼女も中学生だ。

 バイトもろくに出来ない年齢じゃ万が一のときに責任もとれん。

 相手を大事に思えばこそ慎重になるべきだろ。

 どこそこ中学の誰それが彼女を妊娠させて大変でー、なんて話は少ないながらも無いわけじゃなかったしな。


 僕だってそりゃあヤリたかったさ。

 思春期真っ盛りだぜ? ヤリたいに決まってるだろ。

 でも彼女のことが好きだからこそヤリたいのを我慢してた。


 そう伝えたらなんて言ったと思う?


『ちゃんと行動で示してくれないとわかんないよ』


 あれには心底から驚いたね。

 秒で矛盾してるじゃん。

 彼女への気持ちが一気に冷めたわ。


 そんで冷めたあとにこれまでのことを思い返してみると気付いちまったんだ。


 頑張ってたの、僕だけだったなって。


 告白も、デートに誘うのも、初めて手を繋いだときも、ハグも、キスも、全部僕からだ。

 彼女は何もしなかった。何も。

 デートでどこ行きたい、何したい、って聞いてもこっちにお任せで、そのくせこっちが用意したプランが気に入らなければ露骨に気乗りしないって態度をとって。

 でも絶対に嫌だとは言わないんだよ。


 当時は控えめなところも可愛い、とか寝ぼけたこと考えてたけど、アレって結局こっちが察して彼女の望みの通りにするのを待ってたんだよな。


 なんかもう、バカバカしくなってそのまま別れ話を受け入れたよ。

 気持ちが冷めた以上、彼女の無茶苦茶な理論に付き合う必要なんてないしな。


 それで別れてはいおしまいって感じだったら僕もここまで拗れなかったんだけど。


 僕と彼女はクラスが違ったけど、僕らが付き合ってたことは同じ学年の奴なら誰でも知ってて、別れたって話もすぐに知れ渡った。

 そしたらまぁ、なんで別れたのかとか色んな奴が聞きに来るわけだ。


 僕としては彼女とは別れたけど彼女の言う事に納得してたわけじゃないからな。

 ぶっちゃけこれって僕悪くないよなって思ってた。

 だから第三者の意見ってやつを聞いてみたくて、なるべく主観を交えないようにして付き合ってた間のことと突然別れ話された経緯を話していったんだ。


 男友達は大抵僕に同情的だったよ。


『ヤッときゃよかったのに、勿体ない』


 とは言われたけどな。


 でも女友達の反応は違った。


『それはアンタが悪い』

『フラれて当たり前じゃない』

『女の子は察して欲しい生き物なのよ』

『男ならきちんと好意を態度で示さないと』


 そんな風に口々に言われて、言わなかった奴も概ね同意って感じで頷いてるんだ。

 ビックリしたね。

 彼女に別れを告げられたとき以上に驚いた。


 男女平等なんて言葉を産まれたときから刷り込まれて、それを暢気に信じ込んでた僕には衝撃的な考えだったんだ。


 だってそうだろ?

 自分は何もしなくても察して欲しい、でもこちらは察することなく相手に態度で示して欲しい、なんて矛盾してる。

 そんなのは都合のいい奴隷か召使じゃないか。


 つまり連中は男を自分の都合のいい道具にしたいだけなんだよ。


 そう思ったら周囲の女友達が話の通じない化け物みたいにしか見えなくなった。

 気持ち悪くて気持ち悪くて。


 でも言われっ放しもムカつくから色々反論してみた。

 それ矛盾してないかとか、男にばっかり求めすぎてないかとか。

 そしたらこう言われたよ。


『そんなんだからフラれるのよ』

『器が小さい』


 あっ、こいつらこっちの言い分をそもそも聞く気がないんだなって理解した。


 そっからだな、僕が女を避ける様になったのは。

 だって関わる意味ないだろ?

 こっちの理解できない考えの持ち主で、こっちの言い分を理解しようとすらしないんだぞ。

 関わるだけ時間のムダ。不快になるだけで終了だ。


 だから僕は女と関わりたくない。

 嫌悪でも憎悪でも蔑視でもなく、理解できない存在に対する忌避感。

 僕が女に抱くのはそれだけだ。

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