4 まっくらまっしろ
心もちはまるで恋しているぐらいウキウキだったけれど、満腹かといえばそうでもない。
腹八分目がいいっていうけれど、さてどうしたものか……。
オオカミは無意識にちょっとふくらんだ腹をなでる。
ん?
そこでようやく異変に気づいた。
毛がみじかくなってる……?
腹をみると、体毛が茶色になり白い模様がある――しかも、かがんだ姿勢になったことで、視界にぺろんと二本のなにかがたれてきた……耳?
え、なんだなんだ?
オオカミは自分の頬をさわってみる。
毛もなければ、つるつる、むしろひんやり。
なんだこの感触……果実? まるでりんごや桃をさわっているみたいだ。
これじゃまるで、アルチンボルドのルドルフ二世じゃないか――え、そんなオマージュ聞いてない!?
オオカミは思わずたちあがる。
すると、言ってなかったけどオオカミが自分の身体でいちばんお気に入りの長くてクールなしっぽが、茶色のふんわりした先端だけ筆みたいに白いやつに変わっていた……これって、キツネ?
ってことは……耳はうさぎ、腹は……鹿――?
で、顔がフルーツやらなにやら……もしかして、食べたものがそのままボディに影響している――?
そう思えば、恋しているみたいな気分がとまらないのは、たくさんの鯉のせいかもしれないね……?
「――ところで、知ってるかい、この森はふしぎの森なんだ。今夜は、奥にいけばいくほど、ちょっと変わったことが起こる。その代わり食べものには困らないよ」
ふと、スンとしたクマを思いだした。
ちょっと変わったことって、これ? 食べたものをへんなふうに吸収してしまうってこと……? ちょっとどころか、おおいに変じゃん。クマくんの価値観だよ、ちょっと変なの! もしや、クマくんにかつがれた?
冷静に思いかえすと、クマの目のまわりの黒いふちどりはたぬきみたいだったし、鼻はイチゴ(それも熟している赤)――そして、しっぽはオオカミとおなじでキツネだった。
クマくん、キツネとたぬきをぺろりしたな! お湯をかけないほうの!
しかも野菜はイチゴだけ? 雑食なくせに、オレさまよりか偏食じゃないか!
しかし、まさかのしっぽがおそろいになってしまうとは……お先まっくら、ならぬ、尾先まっしろ――。
ん――?
すると、こころ乱れるオオカミの視界のすみで、豊かな実りがゆれた。
見れば、すぐそばに水の引いた田んぼがあり、たくさんの稲穂がこうべをたれていて、おいでおいでをするように風にゆれていた。
コメぇ――!!
オオカミは瞬間なにも考えられなくなり、跳びつくようにして稲穂ごと生米をがりがりむしゃむしゃ喰らいはじめた。
んまーい! 締めはやっぱりコメだよね、日本のオオカミならやっぱりコメ、どんぶりのドンは貪欲のドン!? シャリシャリ食感の銀シャリですって、やめられないとまらない――。
なにがどうなるか考えるよりもさきに、オオカミは稲穂をぜんぶ食べ尽くしたのだった。本能のままに。
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