エメラルド色の海。
優美
第1話
エメラルド色の海
優美
一平は兄と妹の3人兄弟で
父は建設業を営み、
母と兄は家業を手伝っている。
そして一平の中学校時代は
英語はさっぱり解らず大嫌いで
社会や音楽、そして数学も
好きではなく
家へ帰ってのテレビゲームが
唯一の楽しみで、学校へ行くのは
好きな女の子に会いに行く為だと
言っても過言では無かった。
部活も
一番活動が少ないだろうと
名前ばかりの水泳部に入っていて
その身体とマスクで
一応女の子の視線を集めてはいたが
高校などへ行く気などさらさらなく
中学を卒業すれば勉強など忘れ
社会に出て自由なりたいと思い
進学よりも社会勉強がしたいと
もっともな理由を付けて
それとなく父親に吹き込んでいた。
そして一平が
高校へ行くのかどうかで
両親と話し合いになった時
父が学歴などよりも
社会勉強する為に働きたい
と言う一平の考えに
一平の一度しかない
人生なのだから
一平の好きにさせてあげようと
母親を説得
兄や妹の後押しも有り
母親は一平の高校行きを
渋々と断念したのだった。
その後
中学校を卒業した一平は
兄の友人の紹介で小さな町の
古いアパートの二階に住み
バイクで5分程の所に有る
社員20名の鉄工所に
勤める事となった。
元々機械いじりの好きな一平は
上達も早くそこで溶接工として
6年程働き現在に至っている。
ある日、一平が午前中の仕事を終え
お昼休みにいつものように
職場の裏にあるいつもの食堂へ
入ろうとしたその時
同じ会社の仲良くしている先輩の
守久 寛史(37)が
後ろから小走りに近寄りポンポンと
軽く肩を叩き声を掛けてきた。
「よっ!一平!」
「あ!先輩!」
一平はいつもなら
弁当持参で食堂には行かず
会社で食事をしているはずの寛史に
驚きつつも立ち止まり笑顔で迎えた。
「チョッと話が有る。
食べながら話そう」
寛史は一平の肩に手を置き
頬を寄せるが前を向いたままだ。
そして、いつもと違って小声だし
声のトーンも低くい。
一平が寛史の顔を覗くと
眉間にしわを寄せ
なにやら深刻そうで明るくない。
一平は少し気にしつつも寛史に
肩を抱かれたまま食堂へ入ろうとするが
寛史は一歩足を踏み入れたまま
立ち止まる。
しかし、直ぐに空いていた一番奥の
二人用になっている席をみつけると
顎で一平を奥へと誘う。
向かい合わせに座り
注文し終えてウエイターが
居なくなると同時に
「一平……頼む……
今夜一晩、お前のアパートに
泊めさせてくれ」
そう言うと寛史は頭と両手を
テーブルに付けた。
「えっ!?」
結婚もしていて
子供もいる寛史先輩がどうして?
と、一平は驚きを隠せない。
「実は……今夜、家に帰れん。
頼むこの通りだ!」
寛史は頭を少し上げ
神妙に手を合わせると
上目遣いに一平を見ている。
今日は金曜日で
明日の土曜と日曜は連休だ。
今夜からテレビゲームなど
一人で好きな事をしていたい。
何とかして断りたいと思う一平だが
先輩である寛史の言葉を断れるはずも無く
しばらく間を置き引き受けてしまう。
「は、はい……」
「おお!サンキュー。
一平、おまえなら
引き受けてくれると思った!」
寛史はいつもの笑顔に戻り
嬉しそうにニコニコしている。
そして食事が届けられると
寛史は大急ぎで食事を終え
OKさえもらえれば用事はない。
と、立ち上がり
「今夜、なるべく早く行くからな。
頼んだぞ!」
一平の肩を軽くポンポンと叩き
呆れ顔の一平を後に残して
口を拭いながら軽い足取りで
食堂を出て行ってしまった。
「はぁ~……」
人に頼み事をされると
断る事が出来ない性格の一平は
大きくため息をつき
諦め顔で食事を済ませ
足取りも重く会社へと向かう。
しかし、この出会いが
今後の人生を大きく変える
ターニングポイントに成るとは
一平は夢にも思っていない。
そしてその夜
寛史を待ちながら一平はアパートで
いつもの様にテレビに向かい大好きな
ロープレに夢中になっていたその時
「お~い……一平……」
と、低く押し殺した声と同時に
ドアーを軽くコンコンと叩く音がした。
「はい!」
一平が駆け寄りドアーを半開きにすると
大きな旅行ケースを両手に
すまなさそうに寛史が立っている。
しかもいつもは
着ているところを見た事すら無い
立派な背広を着ている。
(先輩……背広なんか着ちゃって
どうしたんだろう?)
「遅くなってすまん」
寛史は拝む様な仕草をして
申し訳無さそうにしているが
その時、一平は
寛史の後ろに誰か居る気配を感じた。
(ん!?)
一平がドアーを大きく開け覗き込むと
栗毛色のセミショーカットで
小柄な若い女性が立っている。
「こんばんは、一平さん」
女性は寛史の後ろから
斜めに上半身を出し
笑顔で小声を掛けながら
小さく手を振っている。
(誰だ!?まさか先輩、浮気?
愛人じゃ~ないよね?)
一平は目鼻立ちが良くて
可愛いいし、スタイルもいい
モデルの様な女性を見て
寛史が浮気をしているのでは?
と、そんな予感がするが
口には出さず軽く会釈をする。
続く
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