この作品には「今」がある。AIとリアル、白熱する画面越しの対決の行方。
- ★★★ Excellent!!!
引きこもりのハッカー、霧山真直。彼は復活した新興宗教の秘密に踏み込んでいく。かつて己が犯した「罪」に背中を押されるかのようにーー。
さて、現在は2025年の冬。巷では急速に広まっていくAIの話題で騒がしい。これは、そんな「今」だからこそ成立し、そして読むべき物語だ。この話のなかの出来事が、絵空事でもなく、または色褪せた技術でもなく受け取れる今だからこそ。
といっても、技術についてだけを語る作品でもない。死んだはずの教祖、天音アムレア。彼女はまるで昔そのものの姿を世間に晒し、救済を約束する。そして、かつて教団と深く関わった真直の「罪」を救うべく、モニターの画面越しに甘く囁く。真直の罪とは? このあたりの人間ドラマの造りが非常に巧妙で、人間にとって罪とはなにか、救いとはなにかを深く考えさせられる。そしてラストへ向かっての加速も、まさにサスペンスドラマを見ているようで手に汗握る。そんな全体の構成も見事としか言いようがない。
読了後、技術の進化と人間性の狭間で揺れ動く自分の心を深く噛み締めざるを得なかった。
機械が述べた言葉であろうと、人間が述べた言葉であろうと、そこになんらかの意味を人が見出せば、言葉は言葉としての価値をなす。
だが、それを判断するのも他ならぬ人間なのだ。
そしてやはり、今、この作品を読めて良かったと強く思う。