第3話 ……三々?

「第三皇子は、一体どんな方なんだろう?」


 背伸びをしながら遠くを見つめるが、行列は中盤であり、第三皇子はまだ遠く、私からは見えない。私はまだ見ぬ第三皇子を街の噂話も踏まえて想像した。


 ……きっと、素敵な方に違いない。私の父のような威厳ある方ではないそうだけど、冬嵐のようななよなよした方ではないはずよ。


 思い浮かべていると、ふと幼いころよく遊んだ泣き虫の女の子を急に思い出す。


 ……三々? なぜ、今、彼女を思い出したのかしら? 確かに黒目黒髪だったけど、女の子だったわ。

 それに、もう、何年も会っていないわ。今、彼女はどこにいるのかしら? 幼いときも、儚げで美しかったから、大人になった今はとても美人に成長しているのでしょうね。


 懐かしさとともに、幼いころの友人を思い出したことを不思議に思って首を傾げていると、目前を通り過ぎる兵士たちの甲冑も高級なものに変わっていた。兵士の階級が上がったようで、先ほどまでは歩兵ばかりの行列から、騎馬もちらほらと見かけるようになった。しばらく三々との思い出にふけって考え込んでいたようで、ふと見上げると、黒馬に乗った第三皇子が近くまで来ていることに気が付いた。皇子に対して、周りの皆が一礼をとって膝をついているにもかかわらず、私はその顔をじっと見つめてしまう。


 ……なんて美しい方なんだろう。


 ぼうっと見入ってしまい、その美しさから目が離せずにいると、私の視線に気がついたのか第三皇子と目が合った。眉間に皺を寄せ私を見下ろしている。私はハッとして周りに合わせるように慌てて目を伏せて一礼した。何事もなかったように過ぎてくれと心で願いながら。

 目を瞑ったまま、第三皇子が過ぎていくのをじっと待った。馬の蹄の音は乱れることも途切れることなく、ゆっくりと流れていく。


 誰からも咎められることがなかったことに、私はホッとする。


 ……よかった。私、皇子を見つめてしまったから、叱られるかと思ったわ。

 それにしても、皇子と三々とは全然似ていなかったわ! 確かに儚げな美人ではあったけど、第三皇子はとてもしっかりした体つきで……。


 私はそこまで考えて頭を横に振った。

 第三皇子は、街で噂になるほど、とても美しい青年であった。あまりの美しさに、見惚れてしまったし、見物に来ていた女性たちが奇声を発しなかったことに驚くほど、容姿にも優れている。街中の行列ということで、鎧をつけていたが、その下にある筋肉も見事なものだろう。

 過ぎ去った後ろ姿を見送り、私は小さく息を吐いた。

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