ブチ折れ死亡フラグ、寝ていろ恋愛フラグ

浦田 阿多留@最強吸血鬼1月25日発売!

プロローグ

 死んだ。そして転生した。

 あまりにも突然の話で俺もなにがなんだかわかっていない。だが、俺の頭の中には確かに前世と言える記憶があって、そして今の俺の姿は前世の自分のものとは全く違っていた。


「お、俺、ライガ・ウィステリアになってる……!?」


 割れた鏡の破片の中で、強面の男が驚愕の表情を浮かべる。

 その男の名はライガ。ライガ・ウィステリア。

 俺──藤森頼ふじもりらいが生前やりこんでいたギャルゲRPG『エレメント・ファンタジー:エンゲージ』に登場する雑魚敵キャラだ。


 金髪のトゲトゲヘアー、刃のようにとがった鈍色の双眸。百八十センチの大柄な体と母親譲りの褐色の肌。ワイルドなイケメンと言える彼は、容姿に関しては恵まれている。

 しかし、彼はそれ以外のものは持ち合わせていなかった。

 


 まず性格。一言で言ってクソだ。ゲーム内では主人公やヒロインにちょっかいをかけて、挙句の果てには殺そうとまでした。

 肥大した承認欲求と力への渇望が取り返しのつかない程に彼を歪ませていた。

 口癖は「ぶっ殺す」。


 次に家。ウィステリア家は貴族の家系だ。だが、ライガは妾の子だった。しかも、その妾はあろうことか別の庶民の男とも関係を持っていた。その男との間に生まれたのがライガだ。

 そんな彼がウィステリア家に愛されるはずもなく。ライガは幼少期から虐げられて生きてきた。五歳の時に母親が病死してからは虐待はますます激しくなり、ライガは毎晩のように涙を流していた。


 最後に才能。彼はそれすらも持ち合わせていなかった。

 

 エレメント──『エレメント・ファンタジー』の根幹に位置する重要な属性要素。炎、水、土、風、光、闇の六つが存在し、この世界の人々はその中のどれか一つの属性を持って生まれる。

 ライガが持っていたのは闇のエレメントだった。ウィステリア家が誇る風のエレメントではなかった。当然の話だ。ライガにはウィステリア家の血が流れていないのだから。

 さらに言えば、妾と不倫相手は両方庶民でエレメントを扱う才能もなく、ライガもそれは同じだった。

 強くなれないライガは兄弟たちからいじめられ、自分の才能のなさを恨んだ。



 そんな哀れな生い立ちがあって、ライガはゲーム開始時点で家だけでなく世界すべてを憎むようになってしまった。その結果、世界を救おうとする勇者の主人公を憎み、大きな才能を持つヒロインたちに嫌がらせをしてきた。


 まあ同情の余地は少し……いや、かなりあるのかもしれないが……正直、プレイヤー目線でいえばライガは面倒なお邪魔虫でしかなかった。

 

 戦闘では闇エレメントでのデバフで嫌がらせ特化だし、ストーリーでも胸糞悪い行為ばかりしていた。何周もストーリーをやっていた自分からしたら「はよ死なんかなコイツ」「もうちょいで死ぬぞコイツ」「はい死んだーwwwざまあwww」とプレイするたびに思うキャラだった。



「……そうだよ、ライガって途中で死ぬんだよな……」


 忘れていた現実を思い出して、俺はがっくりと項垂れた。

 ライガは物語の途中で死ぬ。魔王軍に唆されて命を代価に莫大な力を得るアイテムを使って。



 つまりあれだ。今の俺には死亡フラグが立っているというわけだ。


 そう考えると、いつまでも驚いていちゃいられない。前世では二十歳までしか生きられなかったのに、今世では十六歳で死ぬとか冗談じゃない。

 死亡フラグなんてぶち折って、俺はこのエレメント・ファンタジー──通称エレファン──の世界を生き抜いてやる!


 そのためにはまず、強くなること。幸いなことに今のライガは記憶にある姿よりだいぶ幼い。見た感じ十歳くらいだ。今からゲーム開始時まで鍛えれば、中ボスくらい倒せるようになるんじゃないだろうか。


 加えて、ゲームの主要キャラには関わらないこと。主人公やヒロインは当然のこと、王国に潜入している魔族とも接触しないように気を付ける。


 あとは……人助けでもしておこうか。善行を積んだらもしかしたらいいことが起きるかもしれないし。


 やれることは全部やるぞ! 特訓開始だ──! 

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