第25話 AIを活用した手術

 現在(2025年10月30日)は日本脳神経外科学会第84回学術総会の真っ最中。


 脳外科だけでなく色々な分野からの招待演者の講演もある。

 特に面白かったのが、本日行われた特別企画「革新的技術開発」における「消化器外科領域における手術支援AI、EUREKAユーリカの開発と社会実装」という発表だ。

 

 脳外科と消化器外科とでは手術をするにしても似たところと違っているところがある。

 が、いずれも参考になるところが大だ。


 で、今回の発表で驚かされたのは消化器外科の手術支援にAIを使っているところ。

 一般に消化器の臓器周囲には自律神経が張り巡らされている。

 臓器を剥離はくりする時には、臓器の外側かつ自律神経の網の内側にあたる部分、いわゆる Holy Plane(聖なる剥離層)と呼ばれるスペースで分けなくてはならない。

 剥離の際に内側に入りすぎてしまうと臓器を損傷するし、外側にいくと自律神経を損傷することになる。

 Holy Plane は薄い結合織で緩く繋がっているだけなので、その結合織を焼き切りながら剥離を進めると臓器も自律神経も守る事ができる。


 EUREKA は画面の中でこの結合織をブルー、自律神経をグリーンで色分けして表示する。

 もちろん画面を使用するのだから腹腔鏡手術やロボット支援手術を行う事が前提だ。


 で、演者の 小林こばやし なお 先生の話が終わった後、フロアからの質問があった。


「この画面で結合織や自律神経を色づけているのは術前に撮影したCTやMR画像を元にしている思うのですが、臓器が動いた時にどうやって追随させているのか、それを教えてもらえないでしょうか?」


 ん?

 それ、ちょっと違うんじゃないの。


 そう思っていたら小林先生から回答があった。


「いえ、これは術前画像を使っていません。その時のリアルタイムの動画をみてAIが何処に何があるのかを判断しているのです」


 そうそう、そのはず。


「あらかじめデータベースにある沢山の腹腔鏡手術の動画を静止画に分けておき、その1枚1枚の画像を専門家が見て、どれが結合織でどれが自律神経なのかをAIにピクセル単位で教え込みます。そうするとAIが学んで、生の動画をみたときにリアルタイムで判断しているんですよ」


 そうだろ、そうだろう。

 いわゆる教師あり学習って奴だ。

 それでAIが専門家の知識や判断をすっかり習得してしまったってことだな。


「AIってのはこう使え」という見本みたいなプレゼンテーションだった。


 今日1番の収穫だと思う。


 追加:結合織の部分で剥離する方法は脳神経外科手術で使われる鋭的シャープ剥離ディセクションにそっくりだった。今は亡き「神の手」福島孝徳ふくしま たかのり先生が40年以上前に脳神経外科にもたらした革命的な手術技法だけど、こんなところに生かされているとは! 結局、突き詰めていくとどんな手術手技も同じになるということなのだろうか。

 

 

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