第3話 月触の糸
このまま永遠に続くかと錯覚してしまうほどの静寂が広がる空。
オファニエルは翼を静かにはためかせ、眼下の森林を見下ろすように滞空していた。
あの悪魔の気配は依然としてなにも感じない。一体何を企んでいる?
交戦時に逃してしまったことを思い出し、自らの情け無さに思わず拳を握る。
奴の逃亡を許してしまうだけではなく、抹殺対象までも共に逃げられるとは。
両腕の切断されたペルゼビュートを前に、決して油断していたわけではない。
むしろより慎重に、あの女を自身の側に近づけることはしなかった。
自身と敵の力の射程を考慮し、“受け”の姿勢で奴に対峙した。
しかしそれこそ相手の思う壺だったのだ。
ただ我武者羅に突撃してきたように見えたペルゼビュートの“突如生えてきた”左腕から放たれた瘴気の波動によって視界が一瞬塞がれた。
その隙を見逃さず、ペルゼビュートは周囲に瘴気を撒き散らしながら逃走を選択した。
倒れ込んだ抹殺対象である人間――ロザクを抱えて、だ。
拡散された瘴気によって魔力感知による索敵能力が阻害され、追跡は困難であった。
生来、己の職務への責任感が人一倍――天使一倍強いオファニエルにとってこの失敗は許すまじ屈辱であり、拭いようのない自責の念に今にも押しつぶされてしまいそうだった。
「この私の咎は、奴等を抹殺することでしか消し去ることはできない」
こんなところで手を煩わされている場合ではない。オファニエルが遵守すべきは迅速な事態の解決。
既に交戦時の地点を中心に、半径二キロメートルの円状に【月蝕】の糸を張り巡らせている。最高硬度を保つことのできる限界距離だ。
この円の中からは、いくら高名で格上の悪魔であるペルゼビュートといえど、逃れることはできない。
元々この能力はそのために創られ、オファニエルに授けられた物なのだ。
彼女の厳格さと生真面目さを象徴するかのような、いかなる邪悪をも閉じ籠め拒絶する堅牢な檻。
無理矢理抜け出そうとすれば全身を糸に切り刻まれ、深傷を負い、それは場合によっては致命傷になり得る。
元々人間であるロザクも同様だ。
純粋な糸の切断能力により、無事に脱出することなど不可能。
いずれにせよ糸の檻の中から獲物が脱出しようとすれば、その時点で位置がオファニエルに知れることとなる。
その時はオファニエル自らが命を刈りとるに出向くだけのこと。
森林の内部では既に配下の『脳天使』達が標的の捜索を始めている。
奴等が発見されるのも時間の問題だ。
どう足掻こうが、もう詰んでいる。
しかしこれまでペルゼビュートを前に二度してやられているオファニエルに、一欠片の楽観も安堵も慢心もない。
奴はまがりなりにもあの『
人間の背負う業、その罪の象徴を体現する艶やかな七姉妹の悪魔達――『七業艶魔』。
――かつて天使の頂点である
序列一位【天鎖の宵姫】ルシフィア
――天使の
序列二位【桃源の煌姫】アシュルダ
――七業艶魔で最も自由奔放に、主義思想や損得勘定ではなく己の食欲を満たすため様々な勢力と衝突しながら各地を荒らし回る“暴食”の権化――
序列三位【望喰の冥姫】ペルゼビュート
――表舞台に滅多に姿を現すことなく、世界の裏側にて時折人間界へ厄災をもたらしながら懈怠の限りを尽す“怠惰”の権化――
序列四位【堕獄の災姫】ゴヴェルティ
――現代の人間の欲の源である“金”に価値を見出し、持ち前の狡猾さと冷酷さを備えた優秀な頭脳によって人間社会に溶け込みながら金を稼ぎ、その金で人間の欲望を高める“強欲”の権化――
序列五位【深慾の餮姫】マンモルゥーン
――ただひたすらこの世の万物の破壊と殺戮を目的にする最も凶悪で最も己の生き方に純真な“憤怒”の権化――
序列六位【煉破の封姫】サタナルゥ
――幼き残虐さによって自分以外の悪魔を妬み、自分に敵対する天使を妬み、自分より遥かに劣るはずの人間を妬み、世界の全てを妬んでいる“嫉妬”の権化――
序列七位【羨慕の狂姫】レヴィフィア
この悪魔達は天使の
だがそれは相手が万全の本調子ならばの話である。
理由は知らぬが、ペルゼビュートは最初瀕死の重傷を負っていた。
あと一息で息の根を止めることができるほどの死に体だった。
――殺せる。と、オファニエルは判断し戦闘を仕掛けた。
その判断は実際対面し交戦した今も変わっていない。
一つ懸念することがあるとすれば、先の戦闘で奴の左腕が即座に再生したことだ。
そこの事象対する仮説は、オファニエルの中に既にある。
あの神の甘味を食べた少年の影響によるものなのだろう。
あの再生の直前、ペルゼビュートは少年の心臓を喰らっていた。
おそらく肉体に残っている神の甘味の残滓のエネルギーにより、本来の速度を超える回復を実現できたのだろう。
だが心臓を喰ってあの程度だ。
腕は生えてきたが、奴の魔力は微量にしか回復していない。
仮に無限にも匹敵する再生能力を体得したと思われる少年の身体を何度貪り喰ったところで、そのままでは身体の再生や延命はできても、本調子に戻すことは叶わない――この短期間では。
ある程度の魔力の回復が起これば、オファニエルは感知できる。
そうすれば居場所は即座に割れる。そこを急襲し、完全な回復は阻止することができる。
『オファニエル様。標的を発見しました』
と、ここで部下の脳天使の一人からオファニエルの脳内へ伝達があった。
未だ森林の中から魔力の轟きも、糸への干渉も感じない。
奴等が動き出す前に部下の補足が間に合ったということか。
「ご苦労。敵は二人揃っているか?」
『いえ、それが……七業艶魔の姿が見えません。抹殺対象の男一人のみです』
「……」
少しオファニエルはこの事を怪訝に思う。
あの悪魔が、わざわざ連れて逃げた今後の大事な食料とも言えるあの少年と別行動を取るだろうか?
これは罠の可能性がある。
確証はないが、冷静に思考を巡らすとその可能性が非常に高いだろう。
しかしこれはまたとない好機でもある。
まずオファニエルに課せられた任務は神の甘味を食した抹殺対象の処分だ。
七業艶魔という怨敵は無視できる存在ではないが、敢えてリスクを冒しこの場で決着をつける必要もない。
あの少年の処分を終えてからでも、ペルゼビュートとの対峙は遅くない。
第一条件は、神の甘味に関する痕跡の抹消なのだから、先にそちらの憂いを断っておくことは悪手ではあるまい。
ここで疑い躊躇して、時間を浪費することこそ更なる恥の上塗りになるのではないのか。
私は私の任務を終える事を最善とするべきなのだ。
「――先に抹殺対象を私が処分する。脳天使達は引き続きあの悪魔の探索を続けろ」
オファニエルは天を翔けた。
◆◆◆
どんよりとした瘴気が立ち込める中、ロザクは“その時”が来るのを黙って待っていた。
ただ一人、適当な樹木に背を預けて、なんとか平静を保ちつつ当てもなく空を眺める。
この作戦は、はたして上手くいくのだろうか?
そんな不安がふと脳裏を過ぎり、腹の底や胸の奥がキリキリとが軋みながら激しく痛んだ。
歯を食いしばりその痛みを堪えていると、いつのまにか全身から脂汗が滲んでいる。突然の目眩や頭痛も後に続いた。
今すぐその場に倒れ込んでしまいたい欲求に駆られたが、意識を途切れさせまいと必死に己を奮い立たせる。
少しでも不安をかき消すためにと、ロザクはペルゼビュートの言葉を再度思い返す。
『もう時間がねぇ。居場所はじきには奴等にバレる。多少の小細工はしてみたが、かなりの数の脳天使が血眼であたし達を探してるはずだからな
『だからやるしかねぇ
『そう不安がることはねーよ
『お互いがちょびっと我慢すりゃあ済むことだ
『大まかな仕掛けはあたしに任せろ
『あ? 他に出来ることはねーかだと?
『あー……そーだなー……
『……笑ってろ
『嘲るように、脅すように、蔑むように
『なんでもいいから、お前の最高の笑顔を奴に見せつけてやれ
『それで十分だ。期待してるぜ? 人間――』
そんなことをあの少女は言っていた。
俺の出来ること、やるべきこと。
最初はいまいちピンとこなかったのだが、今になってその真意を理解した、させられた。
それはきっと“仮面”なのだ。
他者を欺くための仮面。自分を偽るための仮面。他者を騙すための仮面。自分を飾るための仮面。
今の俺にはどんな仮面が必要なのだろうか。
仮面を被ることはもう幾分か慣れている。誰しも多種多様な貌というものがあり、それを使い分けることが生きる上では肝要だ。
その貌を衆目に晒すことを避けるには、仮面を被ってしまう方が手っ取り早い。
人生において、これまでどれだけ仮面を無為に作り続けてきたのだろう。
そして俺の本当の貌とは、なんだろうか?
ここを生き延びれば、本当の貌のまま、自分らしく生きていくことのできる未来へ、辿り着けるのだろうか?
――そのためには、一先ずこの現実を乗り越えなくては。
ロザクは無理矢理口角を吊り上げ、なんとか笑みを浮かべてみる。
おそらく自分が今かなり不恰好な引き攣り笑いを浮かべているだろうと思うと、なんだか本当に笑ってしまいそうになった。
「――ハハッ! こんな状況で上手く笑えるかってんだよ。無茶言うよなアイツ」
「何を笑っている?」
「……!」
突然の敵の襲来に、ロザクの全身が雷に打たれたかのように硬直する。
引き攣り笑顔のまま表情筋が固まったことは不幸中の幸いだろうか。
目の前に音も無く現れたのは、懺天使オファニエル。
乗り越えるべき現実、打ち倒すべき存在だ。
敵は一人、問答無用でこちらに仕掛けてくるつもりはないようだ。
これで前提条件は達成。ここからがロザクにとっての正念場。
「待ちくたびれたぜ、天使」
ロザクは精一杯の虚勢を崩さずに軽口を叩いてみせる。
「あの悪魔はどこにいる? まさか貴様を置いて逃げたわけではあるまい?」
オファニエルにとって目の前のロザクは大した弊害ではないのだろう。無理が透けて見えるロザクの態度など意に返さず、あくまで警戒はペルゼビュートへと向けられている。
俺は随分舐められてるな――上等だ。
「アンタは俺のことを殺しにきたんだろ? まずは名乗れよな。天使とはいえ礼節は尽くすもんだろ?」
ロザクは笑みを浮かべたまま、あえて小馬鹿にしたようにオファニエルに吐き捨てるように言う。
「ちなみに俺はロザク・ネクタールだ。気軽にロザクールと呼んでくれていいぜ」
「……いいだろう。我が名はオファニエル。第三等級【懺天使】だ。第六等級【脳天使】達の指揮官を務めている」
律儀に自己紹介をこなしたオファニエルは、ここでパチンと指を鳴らした。
その瞬間、ロザクの身体に“無数の糸”が絡みついた。
「……!」
無論ロザクにはその糸を視認することはできない。
しかしこの全身を取り巻く重圧感と、指一本動かすことのできない束縛感。
生殺与奪の権利を握られているということが、感覚で理解できた。
「いきなり、かましてくれるじゃんか……!」
「くだらん時間稼ぎに付き合うつもりはない。まずは自由を奪わせてもらう」
オファニエルはロザクと一定の距離を保ったまま、周囲に広がる瘴気を鬱陶しそうに手で払う。
「奴のこの瘴気を浴び続けるのも不快だ。きっと健康にも良くないだろうしな」
「天使が健康なんて、気に、すんのかよ」
「人間や並の天使ならばこの瘴気ですら有害だ。まぁ、神の甘味を喰らった貴様には問題ないのだろうがな」
「人を、化け物みたいに、言ってくれるじゃねーか……」
「貴様はまだ自分が人間だと思っているのか?」
「あ?」
「無知は罪だ。神の甘味を喰らった貴様は神への反逆者、そして悪魔に魅せられた唾棄すべき汚らわしい異形の存在」
「……」
「貴様をこのまま解体して天界へ還す。せめて、その哀れな魂だけでも救済してやろう」
オファニエルはロザクの方へ掌を向け、徐々に力を込めながら憎々しげに虚空を握っていく。
そうするとその動きに合わせて、ロザクの全身に張り巡らされた糸の締めつけが強まっていき、肉に糸がゆっくりと食い込んでいく。
「ぐぅああああ……!」
「ペルゼビュートの居場所と思惑を吐け。そうすれば苦しませることなく処理してやる」
ペルゼビュートは冷酷に告げる。
「……ざけんなよ……! テメェらのしくじりで、人をこんな目に遭わせておいてよ!」
「……貴様と問答するつもりはない……吐け!」
「天使ってのは、人間に救いと叡智をもたらすもんじゃねーのかよ……! 俺はそう孤児院で教わったぜ……!」
「その通りだ。それが天使の使命。しかしそれは神を信じ殉じることのできる善良な人間には、だがな。それにこうは教えられなかったか?──神の教えに叛き罪を犯した人間に、天使は裁きの鉄槌を下すのだと!」
糸は徐々に肉を裂きながら食い込むほどの強さになっていく。ロザクの顔がどんどんと苦痛に歪んでいく。
腹の内側から色々と込み上げてきてしまい、強い吐き気を催すが、ギリギリのところでなんとか留める。
「……貴様はなぜそこまであの悪魔に恭順する? 奴への義理なんぞはないはずだ。この状況を打開するためとはいえ、あんな悪魔信用に足る存在とはとても思えないがな」
「……」
確かにそうだ。
こんな現実離れした状況に陥り、もう何が何だか解らなかったから、とりあえずいろんな要素を受け入れてみた。
何が良いとか、何が悪いとか。
そんなことは二の次だった。
ただ、自分が信じる、信じたいと、そう思えるものに突き動かされただけなのだ。
「所詮あの悪魔は私利私欲のために貴様を利用しているだけだ。ここから逃げて生き延びたとしても、貴様に待つのは、底知れぬ絶望だけだ」
「……」
「ここで自らの運命を受け入れるんだ。それが貴様にとってもっとも最善の選択だ」
「……うるせぇよ……!」
俺の人生の行く末は、俺がこの目で最期まで見届けるんだ!
それがどれだけ辛くても、救いがなくても、受け入れ難くても、それが俺の、俺だけの人生なんだから……!
「アイツは……あの悪魔は……! こんな俺のことを、こんな化け物みてーな俺のことを……ずっとな! 『人間』だって! 俺のことを『人間』だと、そう呼ぶんだよ!」
腹を蹴り飛ばされた。
頭を踏みつけられた。
心臓を抉りだされた。
腕をぶった斬られた。
それでも俺はアイツのことを怖いとは思わなかった。
それはきっと、アイツが俺のことを終始、気遣いなんかではなかったかもしれないけれど、それでも形だけでも、アイツは俺は人間と呼んでくれた。
ただそれだけのことで、俺は確かに救われたんだ。
信じたいと――そう思えたんだ。
だから。
だから俺は。
「だから俺は、アイツを選ぶぜ! 少なくとも、その選択に後悔なんてしない!」
「……」
「天使オファニエル! アンタに恨みはねーがアンタの“命”! 俺が生きるための糧として、ただそれだけのために!」
「――“いただく”ぜ!」
その言葉が合図だった。
ペルゼビュートとロザクが事前に取り決めていた、合図の言葉。
「――! 何っ!?」
オファニエルは即座に“異変”を察知した。いや、彼女が張り巡らせた糸がその微量な差異をオファニエルに伝えた。
「なんだこれは……!」
オファニエルの【月蝕】が感知したのは、この場に不在の、七業艶魔ペルゼビュートの魔力であった。
しかし不可解なのは、その魔力が複数の地点から同時に読み取れたということだ。
おかしい。一体何が起きている!?
「どうした? 急に険しい顔になったじゃねーか」
ロザクはここぞとばかりに、オファニエルを煽ってみせる。心底憎たらしいであろう不恰好な笑みをを浮かべて見せた。
それはこの天使から見れば、おそらくとてもブチ殺したくなるだろうなと、ロザクは少し満足感を抱いた。
「貴様!ペルゼビュートは一体何、を……!?」
ここで、オファニエルの言葉は途切れた。
言葉を紡ぐことができなくなったからだ。
まるで身体の各所が腐ったような損傷が、オファニエルの身を襲ったからだ。
「が、が! がっアアぁっ!? なんだ!? なんだ、こ、コレはっ!?」
「どうやら具合が悪くなったようだなオファニエル? 俺の動きを止めてる糸の力が、随分か弱くなってきたぜ!」
これを機と、ロザクは動いた。力任せに身体を縛りつける糸を力一杯振り解いた。多少肉は引き裂かれたが、身体は自由になり、自分の意思で動かすことはできる。
己の足で地を蹴り、俺の拳を力強く握りしめ振りかぶることができる!
「これで終わりだ! 俺が終わらせてやる!」
こちらへ向けて一直線に走り出したロザクを、オファニエルはなんとか視界に捉えることができた。
その交戦的な彼の瞳は、オファニエルの警戒心を跳ね上げさせた。
身体の節々に力がうまく入らない。
聖気のコントロールも乱れてしまっている。
こんな状態で、依然として得体の知れない奴の接近を許してはならない!
「……私を、舐めるなァ!」
オファニエルは、なんとか全身の力を振り絞り、自身の前方三メートルあたりに、複数の【月蝕】の糸を最高硬度で展開した。
そこから先は実に呆気ない幕切れだった。
直線的に此方へ突っ込んできたロザクは、オファニエルの糸に勢いよく飛び込むことになり、バラバラに解体される羽目になった。さながら無骨なサイコロステーキのように。
ロザクの両腕や両足は根本から切断され、腹は細かな肉片に細切れとなり、鮮血の血飛沫を撒き散らした。
その溢れ出る鮮血によって、オファニエルの視界は一瞬覆い隠され、途切れることになる。
――それが彼女の“致命的”な失敗となった。
眼前で解体されたロザクの崩れ落ちた血や肉片の一部とともに、あるものも一緒に、オファニエルの方へと飛散した。
それは肉片と呼ぶには輪郭が大きく、人影と表現するにはあまりに不恰好なソレだった。
視界に急に飛び込んできたソレと、オファニエルは目を合わさった。
「――よう、久しぶりだなぁ? 糞天使」
オファニエルの方へ向かって飛んできたそれは――ペルゼビュートの生首だった。
「!? 貴様ッ! ペルゼビュート!?」
ペルゼビュートの生首は、へばりつくようにオファニエルの喉元へ喰らいた。
「ガッ!?」
「このあたしがテメェに食らわせてやった【煩悩の灰汁】の味はどうだったよ? まぁテメェのその面を見れば、大体わかるけどなァ?」
「き、貴様アァッ!?」
「俗に食いもんは腐りかけが一番美味いと言われてるが、それは人間も天使も同じことだぜ」
オファニエルの喉元に食らいつき、ぶら下がりながら、ペルゼビュートはとびきりの笑顔を浮かべる。
「厄介な糸を超えて、やっとテメェの身体に触れられたぜ。そんじゃま、召し上がってやるか。テメェの全てを」
この世の全てに感謝をほんの少し込めて――命よ、いただきます。
そこからはただ、ペルゼビュートの断末魔とも呼べる呻き声が周囲に響き渡り、最終的にはそれが、この戦闘の幕引きになったのである。
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