45 ストラトキャスター・シーサイド④

「来ます!」


 ロロンの声と同時に、後ろからサンドワームが大量に押し寄せてきた。

 数にして、一、二、三……すげえな、数えきれない。

 これは一旦、距離を開けた方が得策だ。


「馬車の速度上げれるか!?」

「これ以上って、レンさん狙えるんですか!?」


 ロロンのそんな問いに返事をする前に、サンドワームが近づいてきた。

 動けないファニをめがけて、一直線に来ている。

 自分のご主人様を探してることに気づいたのだろうか。勘の良い奴だ。


「させるかよ」


 間髪入れずにホルスターから弾を取り出し、俺はワームめがけて撃った。

 一、二、三、四……。

 六匹目の頭をぶち抜いたところで、再装填。

 七、八、九、十匹。


 ぶち抜くたび、馬車が奴らの血に塗れ、砂と混じったそれが、口に入る。

 あぁクソ、しんどいな。


「これが答えになるか!?」

「わ、わかりました! 振り落とされないでくださいよ!」


 速度を上げても命中率に問題はないとわかってもらえたらしい。

 ロロンは俺に行ったと同時に、馬車のスピードを爆発的に上げた。


 だがその瞬間、測ったようにサンドワームが馬車の前に這い出てきた。

 このままだと、激突する。


「レンさん!」

「わかった!」


 すかさずロロンの肩から右手を突き出し、目の前のワームを狙う。


「少し耳痛むぞ」


 ロロンにそう言って、すかさず、はじく魔法を発射した。

 音なんて、ワーム共の出す轟音で聞こえやしない。

 それでも衝撃が指に走る。

 それが数回。


 その瞬間、目の前が鮮血に染まった。

 血まみれのその先には、荒野の景色。


「突っ込め!」

「う、うわぁぁ!」


 ロロンは叫びながらも、しっかり馬車を加速させる。

 馬車が、ワームに開いた穴に突っ込んだ。

 肉を踏みしだくような不愉快な音と共に、顔にべちゃりと血が付着する。


 それと共に、着地をしたような衝撃に襲われる。

 目の前を見ると、先ほどいたワーム共はいない。

 どうやら、無事に貫通・・できたようだ。


「う、うえぇ、気持ち悪い……」

「クソ……一張羅が台無しだ」


 ロロンと一緒にそんな愚痴を呟きながら、後方に目を向ける。

 ……やっぱり、サンドワームの数は減っていない。

 むしろ増えていないか、あれ?


「ロロン、まだいけるか?」

「あ、当たり前です! 姐さんを守れるんなら、疲労で死んだってかまいません!」

「そりゃ、頼もしいこって……」


 ロロンにそう言いながらファニの方に目を向けてみると、そこには先ほどと変わらず、微動だにせず馬車の床に座っているファニがいた。

 最上級の探索魔法って話だった。あの様子じゃまだ、時間がかかりそうだ。


 ロロンはああ言ってはくれたが、彼女の様子を見るに、あまりその言葉を当てにはできそうになかった。

 彼女の顔には、疲労の色が目に見えて浮き出ていたのだ。


 これは言わずもがな、ロロンのスキルと魔法によるものだろう。

 彼女はサンドワームから逃れるために、大量の魔力で自身の愛馬シルビアに強化付与を行っている。

 この強化付与を行った愛馬は、とても馬とは思えない速度で走ることができるが、その速度の分、ロロンの魔力を消費することになる。


 サンドワームの速度はかなり速く、またその数も多い。

 その分ロロンが魔力を消費するペースは普段の比ではなく、となれば当然、あっという間に魔力切れを起こすことになる。


 ロロンが魔力切れを起こした場合、俺が踏ん張って、彼女ら二人を守るしかない。

 できるかできないかではなく、それをやるしかないのだ。


「は、はぁッ……まだまだ来ます! 行きま――」


 と、ロロンが言いかけたその瞬間。

 不意に、馬車の下から何か、音がした。

 なんだ、今のお――



 瞬間、衝撃。痛み。そして、上下の反転・・

 次の瞬間、目に広がったのは、空だった。

 

 

「……え?」


 俺とロロンの声が、重なった。

 浮遊感が、身体を襲った。

 そして、次の瞬間。


 自分たちの身体は、落下を始めた。


「うおぉ!?」

「そ、そんなぁ!」


 俺とロロンは、ようやく状況を理解した。

 下を――地面のほうを見ると、そこには横転して破壊された馬車と、巨大な口を開けた、サンドワーム。

 あの野郎、かちあげ・・・・やがったんだ。

 馬車ごと、俺たちを。


「クソ野郎!」


 俺はすぐさま、真下にいるサンドワームをはじく魔法で撃った。

 弾はワームの口の中にクリーンヒットし、断末魔を上げて地に伏した。

 ざまぁみろだ。

 

「あ、姐さん!」


 ロロンが、そんな悲痛な叫びをあげた。

 彼女が向いている方に目を向けると、俺のすぐ隣に、ファニが落っこちているのがわかった。


 目を閉じて、微動だにしていない。

 クソ、まだ魔法が終わっていないんだ。


「クッソ!」


 俺は思わず、ファニを引き寄せて、抱きかかえた。

 すかさず、俺を下側にして、地面に激突した時の衝撃が、少しでも衝撃が俺に回るようにする。


 けれど……クソ、この高さじゃ、焼け石に水だ。

 ダメだ、落ち――



「見つけた」

 


 そんな声が、自分の胸の中から聞こえた。

 何かと思って、声がしたほうを見てみる。

 すると、そこには、目を開けて、こちらを見ているファニの姿があった。

 見つけたって、つまり……。

 

「レン、ロロン」


 すると、彼女は不敵に笑って、続けた。


「落下はなんとかできるから、今はこっちに集中して」

「なんとかって……いや、わかった」


 俺は喉元まで出かかった疑問にふたをして、ファニの言葉に従うことにした。

 彼女が何とかできると言っているのだ。どうせこのままだと死ぬだけなら、それを信じるしかないだろう。


「弾を込めて、レン。一発でいい」


 彼女にそう言われ、すかさず俺は、ホルスターから一発、弾を右手に込めた。


「よし」


 ファニはそれを確認すると、俺の手を掴んで、とある方向に伸ばした。


「あっちだ。最大出力で撃って」

「了解」


 俺は、ファニの言葉に従って。

 全部の魔力を使い切るつもりで、はじく魔法を、その方向に放った。

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