ロイ 第7章④:力の証明

 翌朝、チームTRANSCENDAの作戦室。

 ロイはテーブルに集まったメンバーたちを、一人一人じっくりと見つめる。


「昨夜、俺とトリアはセレスティアの力の習得に励んでいた。そして、彼女の力が俺の特殊能力『KING OF SPEEDキング・オブ・スピード』の覚醒を引き起こした」


 ロイの落ち着いた声音が、静寂を切り裂く。


「この能力は、ジャンカルロに対抗する強力な切り札となる。俺は、トリアを交渉に連れて行こうと思っている」


 シルヴェスターが眉間に深いしわを刻んだ。


「無謀だ、トリアを巻き込むなど。力の制御を誤れば、取り返しがつかない事態を招く。トリアを危険にさらすわけにはいかん」


 ユージーンも厳しい口調で同調した。


「僕も同感だ。不確定要素を前線に出すリスクは大きすぎる。後方支援に専念させるべきだ」


 次々と上がる反対の声に、トリアはゆっくりと立ち上がった。


「私、できます!」


 その声には、昨日の失敗を乗り越えた強さが宿っていた。


「昨日の私は未熟でした。力を制御できず、皆さんにご心配とご迷惑をおかけしました。でも、今日は違います。チームのため、そしてロイのために、必ず力を制御してみせます」


 決意に満ちたトリアの堂々たる態度に、ロイは一瞬驚いた。

 だが、すぐに柔らかな笑みへと変わる。


「よく言った。なら、その覚悟、俺たちに見せてくれ」


 そして皆に向き直った。


「俺たちの力が実戦に耐えうるものかどうか、皆の眼で確かめてほしい。実戦を想定した模擬戦をやろう」


 ニコラスが立ち上がった。

「ということは、俺の出番だな。胸を貸してやるぜ」


 シルヴェスターも口を開いた。

「言っておくが、私はまだお前たちの力を信用してはおらん。半端な覚悟で私にかなうものではないと思え」


---


 訓練場に、四人の緊迫した呼吸だけが響く。

 シルヴェスターとニコラスが放つ威圧感が、周囲の空気を震わせていた。


「甘い考えは、この場で打ち砕いてやる」


 シルヴェスターの声が鋭く空気を切り裂く。


「一瞬でも迷いを見せれば、即座に戦力外だ。覚悟はできているな?」


 ニコラスの冷徹な笑みが、より一層緊張感を高める。


 トリアは深く息を吸い込んだ。

 瞳を閉じ、全身の力を解き放つように両手を広げる。


「ロイ、私はあなたを支えると決めたの! この力を、あなたのために使う!」


 彼女の周りに、かすかな光の粒子が舞い始めた。

 それは次第に強さを増し、まるで生命を持つかのようにロイの周囲へと広がっていく。


 青白い閃光が訓練場を包み込み、STORMBRINGERが轟音と共に出現した。


「バトルスーツモード、起動!」


 ロイの叫びと共にSTORMBRINGERが形を変え、光の渦となって彼の体を覆い尽くす。

 装着が完了した瞬間、バトルスーツに刻まれた青いラインが鋭く輝きを放った。


「……ほう?」

 シルヴェスターが眼を細める。


 開始の合図と共に、ニコラスの姿が掻き消えた。

 音さえも残さない超高速の突進。

 だが、強化されたロイの感覚は、その動きを完璧に捉えていた。


 迫り来る拳を、ロイは左腕で受け流す。

 金属音と火花が散る激突。

 バトルスーツの装甲が軋むような衝撃に、訓練場が揺れた。


VELOCITY STRIKEヴェロシティ・ストライク!」

 ロイの反撃が閃光となって放たれる。

 拳は残像を残しながら、まるで機関銃のようにニコラスに襲い掛かった。


「なっ……!」


 さすがのニコラスも、純粋な速度では及ばない。

 彼が後方に跳躍した瞬間、ロイは背後からの気配を感じ取る。


「死角からの奇襲か!」


 シルヴェスターの影が、ロイの死角に滑り込んでいた。

 だが次の瞬間、青い輝きが訓練場を埋め尽くす。


NITRO BURSTニトロ・バースト!」

 全身に巡らせたエネルギーを一点に集中させ、ロイは渾身の一撃を放った。

 衝撃波が空気の壁を作り出し、シルヴェスターの攻撃を封じる。

 同時にトリアが展開した光の結界が、ロイの隙を埋めて完璧な防御を果たした。


「よくやった、トリア!」


 ロイの感謝に、トリアの頬が紅潮する。


「まだまだいけます!」


---


 やがて合図とともに激しい模擬戦が終わり、場に静寂が戻る。

 ユージーンが腕を組みながら、感心したように呟いた。


「予想以上だな。完璧な連携とは言えないまでも、これならば十分戦力になるだろう」


 シルヴェスターも一筋の汗を拭いながら、トリアに向き直った。


「よく頑張った、お前の力は大したものだ。だが、決して無理はするな。お前の命が何より大切なのだから」


 トリアは凛としたたたずまいで頷く。

 ロイは彼女の肩に手を置き、温かな笑顔を向けた。


「これからは、俺の隣で戦ってくれ」


 トリアはロイの手の温もりに高鳴る胸を抑えながら、凜とした声で答えた。


「はい!」


 その一言に込められた決意は、もはや昨日までの彼女のものではなかった。

 新たな戦士としての覚悟が、その瞳に宿っていた。

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