魔王変化!

「……カノンの機罡獣、蒼穹の覇龍鋼玉コウギョクは我が身を破壊した仇敵であるが、あやつはそんな下品な赤をしておらなんだ。それに、よく見れば細かい部分が昔と異なる。そして、何よりも貴様から感じるこの違和感の正体は……」


 ゴゴゴ……。緋色の髪をした女と幼女との間で緊迫した空気が流れる。「……やはりそうか。貴様、私と同じく、鋼玉であるな。その女の体を乗っ取ったか」


 ルシファリアの言葉に魔戦士達の中に動揺する者が出る。シェランドンもそうだ。紅玉と名乗った女が戦士であり、龍の使役者ではないのか。

 緋色髪の女は静かに語る。


「あたしの家は大和日ノ本やまとひのもとで代々龍を奉る巫女の家系でね。千年前、カノンから直々に瀕死になった鋼玉の世話を頼まれたのさ。でも鋼玉の傷は癒えることがないまま現在に至って、あんたらヴァイダムが好き勝手暴れ始めた。そんな時にカノンから招集がかかって、いくら止めても鋼玉は戦うと言ってきかない。そこであたしが一肌脱いで、鋼玉と同体化したのさ」


 龍が吼えた。ぐぐぐ、と魔戦士達は気圧されまいと踏ん張らねばならなかった。ギラザンガでさえ表情を変えた。


「だから今のあたしはすべてを焼き払う冥獄の烈焱れっか、紅玉というわけさ。言っておくけど、鋼玉はあんたみたいに逃げる女の子の体を無理やり奪い取るようなことはしてないからね」


「じゃ、じゃあお前は機罡獣なのか? それにしてもカノンの機罡獣てのは、使役者カルタがいなけりゃ力を発揮できないんじゃないのか」


 少なくともシェランドンはそう思っていた。天上世界を荒らしまわった魔王ハジュンだったが、天部達の必死の反撃に合って撃退された。だがその際、天界の稀少鉱石である機罡石を強奪し、本来ならば不可能であるはずの天界から地上世界へと逃げおおせたと聞く。これに対処するため地上へ派遣されたのがカノンであり、天界にわずかに残された機罡石から生まれたのが機罡獣。だから単体では力が足りず、それを補うためにカノンは使役者を選んで機罡戦隊を結成したのだ。


「あはは! あんたらを相手にするのに、わざわざ使役者なんて必要ないね。それからそこの堕天使はともかく、人を獣呼ばわりするんじゃないよ。あたしのことはとでもお呼び」


「ちっ、無愛想な朴念仁野郎の次は頭のぶっ飛んだ高飛車女か。ヤマモト人ってのはもう少し礼儀正しい民族だと聞いていたんだがな」


 紅玉の愁眉がぴくんと跳ねた。「……ヤマモトと言うんじゃないよ。ツヴァイハンダーの連中にしてもそうだけどね、大和日ノ本が難しければ日ノ本ヒノモトとお言い」


「だまれ」


 ルシファリアの目は怒りを煮え滾らせており、震える手には自身の得物である冥界の業物、白玉剣が握りしめられていた。「確かに私は龍とその使役者の前に不覚を取った。その屈辱は千年ぶりに目覚めた今でも忘れるはずもない。この世で機罡戦隊と再び相まみえたのならば、いの一番に龍とその使役者から抹殺してくれようとハジュンの御心に誓ったのじゃ」


「つくづくハジュンの呪縛に囚われた哀れな人形だね! 怒るな、愚痴をこぼすな、過去を顧みるな、将来の展望を見据えて人に善を成せって言葉を贈るよ」


「怒る時に怒らねば、魔王軍としてこの世で再び目覚めた甲斐がないわ」


 ルシファリアの言葉に紅玉がうっと苦しみ始めた。「こ、これは……」


 赤龍も同じで、見えざる力に抑え込まれている。先程まで見せていた優雅さは失われて、その身を床に墜落させて這いつくばっている。突然の異変に見舞われた機罡婦人の様子を困惑して見ていたシェランドンだったが、もしやと思って壇上へ視線を移した。


「ほほほ、我らが貴様らと戦うのに何の準備もしてないと思っていたのか。なめられたものだな」


 やはり、あいつの仕業か! 壇上では冥算星、天元術士テリヴルヒとヴァイクロンがその力を解放していた。脳ミソの化け物がギラギラと龍と赤毛女に向けて術式を放っており、動きを封じているのだ。

 魔王軍で唯一の第六段階保持者である魔戦士の仕事ぶりにルシファリアは至極満足な表情を浮かべた。


「まさに飛んで火にいる夏の虫とは貴様のことじゃ。カーバンクルに続いて、憎々しい龍までも同じ日に片付けられるとは、何と僥倖なことよな。さあ勇敢なる魔戦士ディアゲリエ達よ、遠慮はいらん。魔王変化ヴァイダムチェンジじゃ!」


 ゴー・ヴァイダム! 魔王軍の首魁の命令にその場にいた魔戦士達は声を揃えた。彼らが変化チェンジに用いる道具はそれぞれであるが、多くはブレスレット型の器具であり、それに向かって音声入力すると自動的に魔王軍の鎧が装着される。その容姿や性能は個々に宿した魔星に由来し、同じ姿をした者は一人としていない。


 ギラザンガは隆々とした体に特殊な装飾が施された象牙色の防具で身を包み、頭部のヘルメットは簡素な作りながら歴戦の武芸者を思わせる風格を漂わせていた。彼の二つ名を示す双剛剣は腰と背中に装着されており、太い前腕部に装着された頑強な籠手には様々な火器類が装備されているのが分かった。

 ジャニンドーの魔戦士達も同時に姿を変え、彼らのリーダーであるギルバンは黒を基調にした全身鎧に身を包んでおり、肩や腰回りに厚い装甲があるが、動きを阻害するような余計な装飾は徹底して排除されており、その姿はまるで端正な獣のようである。グリンセルは着ている服の紫はそのままに肩、胸部、腰回りがそのまま鎧に変化しており、頭部のツインテールさえも武器になりそうな兜を装着している。アロウィンは東方製の鎧の上から法衣を着込み、頭には兜の代わりに白い頭巾をかぶり、背中には種々の武器を入れた籠を背負っていた。

 ギャルガの装備が最も奇想天外であり、身の丈三メートルはあろう二足歩行型の魔力マナモビルを召喚している。見るからにぶ厚い機械的な脚部は逆間接仕様となっていて、両側に装着された巨大なドリルに挟まれる細い胴体部につながっていた。そしてそこに露出された小さな操縦席にちょこんとギャルガが座っているのである。


 他の者も一様に変身を終えると各個に武器を構え、魔王軍首魁の命令を待った。


 中にはせっかくの美女をこのまま滅殺してしまうのを勿体ないと思う者もいたが、ルシファリアの機嫌を損ねては大変だ。

 ハジュンは魔戦士に力を与えるが、ルシファリアが訴えればこれを即座に奪うこともできる。ヴァイダムは組織としてはおおらかな気風であるが、魔王と御子の裁量一つで信賞必罰が決するので魔戦士達も必死だ。


「総員、射撃用意! 目標正面の赤蚯蚓ミミズ醜女しこめ。撃てっ」


 号令一下、魔戦士達が一斉に火を噴いた。

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