番外編:運命の出会い2

「あいちゃーん。若林からメッセージ来ない」

「大学生って言ってたでしょ。多分授業中とかだよ。私たちだって授業中だし。本当は」

「うー。でも俺って待てない子みたい」

「知ってましたよ」


あいちゃんはズバッと言う子です。

そこがまた可愛いんです。そういうとこが好きだなと思います。


「でも藤和。お友達できて良かったね。それも名前まで若林さん」

「まぁ無理やり感はあるけど、年の差も一つだったし、さすがに五十歳の若林さんと出会ってもお友達は厳しいからね」

「ふふ。よく頑張ったね」

「あ。あいちゃん。今ラブホ行きたい病発症したんだけど」


あいちゃんが冷たい目でこっちを見てくる。

その視線にぶるりと背中が粟立つ。

そんな俺を見てさらに引いてくるあいちゃんが可愛くて、本当にもうなめまわしたいんです。


「あいちゃーん」

「はーい」

「エッチしたい」

「今日バイトです」

「えーやだやだ。むりむり」

「ちゅーだけ」


そう言って、あいちゃんは俺の近くまでやってくると、俺の唇にちゅっと音を残す。

それがもう可愛すぎてたまらない。

思わず小さな肩をぎゅっと抱きしめると、あいちゃんが大人しくなった。


「あいちゃん、どれくらい俺の事好きー?」

「うーん。お寿司以上かな」

「うわ、それって最上級じゃない? やばー」


食べ物に例えられるってどうなのって思わないでもないよ?

でもあいちゃんが結構真剣な顔をしているから、そこは突っ込まないのがルールなんです。

まぁ嬉しいしね。

ウニにもいくらにも勝ったって事だからね。


「藤和は? どれくらい好きですか?」

「え、気になる?」

「うん」


な、なんか、今日のマイエンジェルいつもの三割増しで可愛いんだけど!

なんで?

神様の贈り物?

それとも若林のおかげ?

若林メール返事着てないけど、後でありがとうってメール送っておこう。

 

「あいちゃん以外世界中で比べられるものなんてないよ。世界で一番。えへへ」


はっきりそう言うと、あいちゃんは照れちゃったのか、返事をくれないまま、俺の胸元に額を摺り寄せてくれる。

可愛いな。

ふわふわの髪を撫でる。

ほっぺにちゅっとキスをする。

あいちゃんは照れくさそうにはにかんで、俺の背中に腕を回してきた。


階段であいちゃんを膝の上に乗っけて抱っこしながら、俺ってやっぱり世界で一番の幸せ者だなぁとか思ったりする。

ポッケに入れていた携帯が振動して、それを取り出す。


メールを見ると若林からのようだ。


『俺はシフト制だからバラバラだけど今週だったら土曜日空いてますよ』


その返事に釘付けになる。


「あ、あいちゃん。どうしよう。若林土曜日空いてるって」

「おー良かったですね。初めてはファミレスでご飯するの?」

「うん、そこで若林はデザート食べる? いや結構腹いっぱいになっちゃったなの会話を繰り広げるっていう予定だけど、今から緊張する」

「ふふ、藤和なら大丈夫ですよ。私にも声掛けてきてくれたじゃないですか」


あいちゃんが俺の背中を撫でて、安心させるように言う。

ほんとに。


「マイエンジェルラブっ」

「あはは。それ一日に一回言わないと気が済まないの?」

「ごめんね、アメリカンなもんで」

「えー、アメリカン? 初耳」

「あ、ほんと? これ真咲藤和の常識ね。覚えてて」


冗談を言いつつ、あいちゃんを笑わせて遊んでいると、時間が経つのが早い。

好きだなぁと思う。


「好きだなぁ」


あいちゃんがぽつり。

きゅんとどこからか音が鳴る。


「なに? 以心伝心? 俺も同じこと思ってた」

「ほんとですか? 私はいつも思ってますよ」


きゅんきゅうん。

また音が鳴る。

どこからだ。これは。

今度若林に聞かなくては。


「土曜日、あいちゃんも来るでしょ?」

「え、二人の方がいいんじゃないですか? 男の友情みたいな」

「え、一人とか聞いてない! むりむりむり。待ち合わせ前に逃亡する確率高いよ!」

「そんなに緊張しなくても。でも一緒でもいいなら付いてくよ」

「うん、そうして」


一人じゃ何にもできない俺が、あいちゃんから巣立つ事はあるんだろうか。

ずっとこのまま仲良くできたらいいのに。

高校を卒業したらまたなにか状況は変わるんだろうけど、それでもあいちゃんだけは手放したくないと思う。


俺の世界のすべて。

小さなところで完結していた俺の世界に入ってきた光みたいな存在。


「あ、チャイム鳴った。藤和、次の授業は私出るから戻るね」

「うん。教室まで送るよ」


聞き分けのいい俺にびっくりしたのか、あいちゃんがじっと見てくる。

可哀想な俺。

こうしてやっぱり引き離される二人。(教室が違うだけです)


「俺ねぇ、あいちゃんの事大事にしたいんだ。だから、サボるのも今日で終わりっ」

「え? どういう心境の変化?」

「うーん、ちょっと大人になりました。十八歳秋」

「ふふ、そっか。大事にしてくれてありがとう」


あいちゃんが嬉しそうに心からお礼を言ってくれるのが分かったから、それに涙がじわりとにじんだ。

あいちゃんの言葉は心がこもっていて、いつだってとても優しい。


「でも俺を放っておいたら若林と浮気するからね!」

「うん。放っておかないよ」


あいちゃんが手を繋いでくれた。

ぷんぷん。

照れ隠しで怒って見せた俺からすっかり毒気が抜けていく。


「マイエンジェル。今日の放課後、バイトまでの時間休憩でどうですか?」

「忙しいからダメ。今度の日曜でいい?」

「その時は絶対お泊まりね!」


あいちゃんが笑う。

俺の天使は誰にもあげないよ。



【完】

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溺愛王子様 【完】 大石エリ @eri_koiwazurai

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