記憶の隅で君が走る2
「佐々木さんって、なんか普通の子と違うよね」
「そうですか?」
「うん、不思議な感じがする。君といると過去がよみがえってくるような懐かしい気分になるよ」
高級車は大学を離れて世田谷方面と向かっている。
ナビが取り付けてあるけど、使っていないところを見ると、地理は詳しいのかもしれない。
黄色い花束の香りが狭い車内に充満していて、ちくりと何かが胸を刺した。
「先生にとって過去はいいものじゃなかったんですよね?」
「うーん、そんな事ないよ。なんか懐かしい気分になるというか、うまく説明できないけど、決して悪い感じじゃない」
「そうですか」
涙はもうすっかりおさまっていた。
だけど、脳裏には先ほどの“明穂”というフレーズが何度もリフレインする。
「先生の奥さんはどんな人ですか? 聞きたい」
「うーん、妻は世界で二番目に好きな人なんだ」
「二番目?」
「いつか一番目になる瞬間を僕はずっと待ちわびているんだ」
「……うん」
「いつだろうな」
悲しさがせり上がってくる。
それは私が悲しいわけじゃなくて、隣にいる千里の悲しさが移ってきた気がした。
「結婚するなら二番目に好きな人と結婚しろとかよく本で見るけどね、僕はどうだろうなと思う」
「うまくいってないんですか?」
「今日大切な話があると言われたからきっと僕は振られるんだろう」
かすかに泣きそうな顔をして、千里はそう言った。
驚くべき事実にびっくりして、思わず顔を見ると、車に乗って初めて千里は私の顔を見た。
助手席のシートにもたれていた身体をとっさに起こしたものだから、千里がその反応に苦笑する。
「そうなんだ。結婚記念日に振られてしまうまぬけな男なんだ、僕は」
「そんな事……」
「花を買うときにね、彼女の好きな花の一つ僕は知らなかった事に気付いたんだよね。大事にすることは簡単だけど恋をするのはとても難しい」
困り切ったような表情は、初めて見るものだった。
吉村も、千里も、みんな切ない表情をする。
置いて行かれた人は、こうも縛られるのだろうか。
やはり置いていく方よりも、置いて行かれる方が、よっぽど辛い。
「多分、心はもうないんだ」
「え? ない?」
「そう、きっと全部捧げたんだ。一番目の人に」
私が泣いていたはずなのに、いつの間にか逆転していた。
千里は泣いてはなかったけど、泣きそうな顔をしていた。
「ごめんね、またこんなつまらない話をして。教授失格だな、僕」
「いえ、私が聞きたかったので」
「ごめん。カウンセリングされてしまったな」
朗らかに笑った彼は、私を自宅近くで降ろすと、車を出した。
「幸せになるために頑張ってみる」と、そう告げて。
四月の終わりかけの気候は穏やかで、私の身体を癒した。
心だけはなぜかちくりちくりと、覚えのない痛みを残していく。
春の風が長い髪をさらっていった。
ふと、今日が千里の誕生日だったことを思い出した。
誕生日に籍を入れたのか。
なんだ、幸せな夫婦じゃないか。
それなのに振られちゃうのなら、本当にまぬけな男と言わざるをえない。
春風千里(しゅんぷうせんり)。
春の風は仕舞い込んだ過去を連れてきました。
家に帰ると、お母さんと妹の亜子が二人でハンバーグをこねていて、それを見てほんのわずかホッとする。
「ただいまー」
「あ、おかえり、お姉ちゃん」
にこにこと笑う亜子は本当に可愛らしい。
私の家族はこの人たちだ。
言い聞かせながら、自分の部屋に入った。
携帯を見ると、陸上サークルの先輩から着信が一件。
なんだろ。
そして、運命が追いかけてくる瞬間を、私は見た。
電話を折り返し掛けてみる。
少しして繋がった電話から、「もしもし?」と軽快な声が聞こえてきた。
「佐々木です。お疲れ様ですー。なんかありました?」
『あぁー、あのさ。吉村さんって知ってる? オリンピック代表だった人。今隣高でコーチしてる人なんだけど』
「……吉村、さん」
心臓がドキドキする。
なんでこうもみんなして私の心をかき乱すんだろう。
『あ、知ってる? その人がさっき練習してた色白の女の子って君らのサークルじゃないか?ってしつこくてさ。多分美亜ちゃんの事かなーと思って』
「あ、はい。今日練習してました」
『知り合いじゃないなら適当にあしらっておくけど』
「……あ、えーっと」
どうしよう。
今更吉村に会ってどうするんだろう。
でも、話してみたい。くだらない事でいい。
私たちの田舎は今どうなってるのか。同級生はみんな元気なのか。吉村はオリンピックに出てみてどんな気持ちだったのか。
聞きたい事がたくさんある。
「あの、その人、今近くにいますか?」
『うんいるよー。すごい必死な目でこっち見てる。結構怖いけど。ナンパ? ストーカー?』
「あぁー、いや昔の知り合いなんです。ちょっと変わってもらっていいですか?」
『はいはーい。じゃあ美亜ちゃん。またね』
先輩に挨拶をして、それから深呼吸する。
……吉村。
千里を除くと一番仲のいい男友達だった。
“明穂”って呼んでくれたんだ。当たり前だけど、十八年間生きてきて初めてだったんだ。
『……もしもし?』
「あ、はい」
『いきなりすまない。一度会って話したいんだけど今から無理かな?』
「……大学近くの喫茶店でどうですか?」
『じゃあそれで。三十分後に来れるかな』
「うん。じゃああとで」
お互いぎこちない会話。
電話を切って、ふぅっと息を吐いた。
家に帰って来ちゃったけどまた学校の方まで行かなきゃ。
家からは3駅で着くから、そうたいした距離じゃないけど。
外を見ると、雨はもうすっかり止んでいた。
夕立だったらしい。
ジャージから私服に着替えて、もう一度大きく深呼吸をした。
今から吉村に会ってどうしたい?
そんなの特にない。会ってただ、話がしたい。
お母さんと亜子に、ちょっと出てくると告げて、電車に飛び乗った。
学校近くには一軒しかカフェがなくて、大型店舗のそこはうちの大学の生徒でいっぱいだ。
そこに入って辺りを見渡すと、入口の方を向いて座っている吉村が手を挙げた。
近付いて行って、向かいの席に座る。
「その、呼び出して悪かったな」
「ううん」
変な感じだ。
吉村ははっきりと明穂と気付いたわけではないだろう。
もし明穂じゃなかったら、いきなり電話で呼び付けて、しつこいナンパ男になっちゃうのに……。
それほど明穂だと言う自信があるのかな。
「とりあえずコーヒーでも頼むか?」
「あ、うん。えっと、私はキャラメルフラペチーノで」
「洒落たもん頼むなー。お前」
がはがはと笑う吉村の口の悪さは相変わらずで、変わらない部分にホッと息を吐く。
コーヒーって苦手なんだよね。
千里にはコーヒーを飲まされたけど、甘い飲み物の方が好きなんだ。
吉村は私の分の飲み物を頼んでくれて、ふぅーっと大きく息を吐いた。
「言っとくけどナンパではないからな」
「ふふ。分かってるよ」
「だから、お前タメ口はやめろって」
「……聞きたい事あるんでしょ?」
じっと目を見つめると、動揺したように吉村が目を泳がせた。
ちょっと意地悪だったかな。
実は幼稚園からずっと一緒だった吉村には、気を使うだなんて事がなかった。千里の次に一緒にいた人だったかもしれない。
部活も一緒だったし、クラスもいつもなぜか一緒で、私たちは今考えてみると一番の友達だったような気がする。
だって今にして思えば、乱暴な態度も、たくさんされた意地悪も、友達でこそだった。
「あの、さ」
言いあぐねている吉村からの言葉は、とても言いにくそうだった。
だって、私が明穂だなんてそう簡単に受けいれられるものじゃないだろう。
死後の世界なんて誰もが分からないはずなのに、すぐに生まれ変わるなんて絶対にありえないってみんな思っている。
だけど自分がこんな特異な経験をして思う。
絶対にありえない事なんて存在しない。
「吉村。あの日、優勝した……?」
「……は」
吐息のような吉村の返事は、驚きに満ちていた。
それだけで理解したのか、吉村の瞳に涙がじわりじわりと浮かんでいく。透明の膜が瞳を綺麗に覆っていく。
その様子をまるで奇跡を見るように、じっと目を凝らして見た。
「吉村。久しぶり」
「…………まじかよ」
吉村は今度は涙を流す事も厭わなかった。
大の男がぼろぼろと惜しげもなく涙を流すものだから、カフェのお客さんたちが不思議そうに見てくる。
吉村の切れ長の瞳から大粒の涙が零れ落ちて、テーブルにぼたぼたと音を立てて弾けた。
「うっ、おまっ、まじ泣かすなって」
吉村が泣いているところを初めて見た。
妙に切なくなって、私まで涙が出てきて、一緒に泣いた。
「なんでお前まで泣いてんだよ。馬鹿じゃねぇか」
「うるさいし。吉村が泣くから悪いんでしょ」
「お前が泣くせいで、店員が飲み物持ってくるタイミング分かんなくて困ってんだろうが」
「はぁ? 男が泣いてんのが珍しくて困ってんだってば」
「あぁー?」
二人で言い合いをしてから、顔を見合わせて少し停止する。
そして、大きく笑った。
まるで十八年前に戻ったかのようにさえ思う。とても嬉しかった。
吉村とまたこうして笑いあえている事が。
「お前、まじで水野明穂なわけ?」
「うん、そうみたい」
「一体どういう原理。いまだに半信半疑なんだけど。あ、新手の詐欺とかじゃねぇよな?」
「なんで詐欺すんのよ」
「いや信じらんねぇだろ、普通。でも、喋り方も走り方も明穂だよな」
「……うん。明穂だよ。死んだ日に生まれ変わったんだ。赤ちゃんに」
「はぁ!? 待て待て待て」
訳が分からないと頭を抱えられて、説明するのにとても長い時間がかかった。
そりゃそうだろう。
話したところで信じられるはずがない話を、吉村は真剣に聞いてくれた。
「お前、まじでおかしいぞ。てか、それで本出せる」
「でもどうせ信じてくれないよ」
「まぁーなー。家族とかには会ったのか?」
「ううん、会ってない」
「なんで」
「うーん。私、死んじゃったからさ。死んじゃったのに明穂ですって、違う家族の下に生まれてきた姿で会いに行くなんてできないよ」
にこりと笑って言う。
吉村は苦虫をかみつぶしたような顔をしてぎゅっとおしぼりを握った。
「俺は、それでも、お前に会えて良かったよ」
「…………ありがとう……っ」
顔を両手で隠して肩を震わせた私の頭にゆっくりと手が乗る。
遠慮がちに乗せられた手は、不器用に私の頭を撫でていく。
日に焼けた吉村の手が私の髪に触れるたびに、悲しみが溶けていく。
「……お前さ、千里には、その、会ったのか?」
何かを迷うように、戸惑うように、差し出された言葉。
泣き濡れた顔をハッとあげて、吉村を見た。
精悍な顔立ちが申し訳なさそうな顔をしている。
まるでその名前が禁句であるかのように、ひっそりと語られた。
「千里に、会ったよ」
「会った!?」
「うん。大学が一緒だから。それでゼミも一緒だったの」
「ゼミが一緒? ……そっか」
大して驚きもしなかった吉村に首を傾げていると、彼はほんのわずからしくない笑みを顔に浮かべた。それは困ったような感じだった。
「俺、知ってんだよ。そこの大学に千里がいる事も、今教授してる事も」
「知ってるの? なんで」
「先週も、先々週も千里と飲みに行った。こっちで俺ら偶然再会して、それから飲み友達なんだ」
「友達!? うそおおお!」
今度はこっちがびっくりする番だった。
だって、千里と吉村は決して仲が良くはなかった。
私は千里と仲良しだったし、吉村とは喧嘩ばかりだったけど、今から思えば仲が良かっただろう。
幼稚園の時から三人ともずっと一緒だったけど、決して二人は歩み寄る事はなかった。
吉村は大人しい千里なんて男じゃないと毛嫌いしていたし、千里は千里で、乱暴者で私に意地悪ばかりする吉村の事が嫌いだったんだ。
だから、まさかあの二人が毎週のように飲みに行く友達だなんて信じられない。
吉村を見ると、苦笑しながら私を見ていた。 驚きすぎて涙は引っ込んだ。
「千里には、言ったのか? 明穂だって」
「ううん、言ってない。結婚、してるしさ。言っちゃって家庭壊れちゃったら困るし」
「随分自意識過剰なんだな。あいつが今でもお前の事を一番に思っているかどうかなんて分かんねぇだろ?」
「……そうかもね」
本当にそうかもしれない。
千里は、奥さんは二番で、私が一番だと言ったけれど。
でもそれは、私が死んでしまったから。
だから、きっと追いつくことがないだけで。
実質今生きている世界で千里の一番は奥さんだ。
それを認めてしまうといつもなぜか胸がちくりと痛む。
私にはそんな風に思う資格なんてないのにさ。
「……あいつと飲みに行くけど、奥さんとの仲は悪くねぇと思うよ。話に聞く限り、あいつは奥さんを大事にしてるし、奥さんもあいつの事をよく理解してる」
「うん。……そっか」
「でも、正直お前が亡くなった直後はあいつひどかったよ」
「え?」
「千里、お前の後を追うんじゃねぇかと思った」
吉村の言葉が胸に突き刺さる。
ぎゅうっと音を立てて心臓が震えた。
ざわざわとした店内。
若い男女で溢れているそこは、どこも楽しい話題に溢れている。
私と吉村だけ切り離されたみたいに、張り詰めた雰囲気に満ちていた。
「俺、お前のお通夜とお葬式。行ったんだよ。俺の母ちゃんも父ちゃんも一緒に」
「……うん」
吉村の家族とは仲が良かった。
吉村は米屋だったこともあり、お父さんの理容店と同じ商店街で、私たちが生まれる前から商売仲間だった。
きっと、吉村のお母さんは泣いてくれただろうな。
私たちが中学生に上がっただけで泣いていた人だもの。
「千里の野郎、家族でもないくせに親族席に座って、お前の家族と一緒に頭下げてやんの」
「……っ、……うん」
嗚咽が急にせり上がってきた。
その情景を想像しただけでダメだった。
「お前の家族よりも誰よりも憔悴しきった顔してさ。顔真っ白で、涙だけずーっと出てて。学校の女子たちがそんな千里の顔見て泣いてさ。和志が千里のスーツを握りしめて涙こらえてて」
「……うん」
「お前は随分愛されてたよ」
初めて聞く自分の死後。
それはとても悲しみに満ちていて、愛されていて良かったと単純に思えるようなものじゃなかった。
吉村は私の知らない千里を知っている。
それがひどくうらやましく思えた。
一番知っているのは確実に私だったのに、そんな事実は遥か昔の話だ。
「その何日か後さ、陸上部の部室に残ってたお前の荷物を家まで届けに行ったんだ」
「そうなんだ」
「うん。そしたら、千里がお前の家の前で座り込んでた」
「家の前で?」
「何してんのって聞いたら、明穂帰ってくるかもしれないから待ってるって言うからさっ、俺、……俺、もう死んだよって言ってやったんだ」
「そんなの千里だって十分知ってるのにさ」と吉村が涙をこらえて話す。
ここまで話してもらってようやく気付いた。
吉村は千里がどれほど私を好きだったか伝えようとしてくれているんだね。
「そしたら千里。……死にたいって言って泣いた。嫌いな俺の前で泣きやがったんだ。あいつ」
「……もういいよ、吉村」
「あの馬鹿野郎。一人だけ辛いみたいな顔しやがってよ」
「…………」
「……まぁ、それがあいつに会った最後で、次に再会したのが二年前ここでだ。あいつ学校には来なかったからな」
吉村の語る過去は、私にはとても辛いものだった。
耳を塞ぎたくなるほどの勢いで、襲いかかってくる感情は、とてつもない切なさだった。
千里。
私の事でそんなにも苦しまなくたって良かったのに。
私はいつも千里の前を歩いていたから。
視界の開けた世界はどうだったかな……。
本を読んで、私のそばにいる事が好きだった千里。そんな千里のために、私はなんだってしてやりたかった。それこそ道端に落ちている石ころや雑草の一つさえ、取り払ってあげたかった。
だけど、隣で息をする事さえ叶わなくなってしまった。
私がいなくなって、世界はあなたにどんな景色を見せたのだろうか。
「ここで再会したの?」
「おう。このカフェでな。俺は高校の生徒らと、千里も生徒を数人連れてたな」
「へぇー、そうなんだ。それから友達に?」
「まぁあのド田舎からいくら東京に出てきてる奴が多いって言ってもよ、偶然再会する可能性って皆無に近いだろ。だから俺たちが仲良くなるのは早かったよ」
「こうやって千里や吉村とまた出会うとは思ってもみなかったよ」
「奇遇だな。俺もだ」
吉村は変わらない太陽のような笑みを見せて、私を励ました。
千里と吉村と明穂。
三人を東京という遠い場所で引き合わせて、一体何がしたいのだろうと思っていたけれど。
今は、純粋にもう一度出会えて良かった。
「そういや質問に答えてなかったな」
「ん? 質問って何だっけ」
「したよ、優勝。県大会で優勝してやった」
流しつくした涙がまたせり上がってきて、私は口元を震わせてもう一度泣いた。
生を受けてから、何度もあの大会で倒れた瞬間を夢に見た。
美亜として生まれ変わってから、何度も。
もはやそれは、フラッシュバックのように。
駆けつけてくる千里に、救急車を呼ぶ吉村。
騒然としたその場で、吉村は走れたのだろうかと、そればかりが気になっていた。
「俺はなぁ、千里の野郎と違って繊細じゃないもんでね。まぁ、正直あの時はお前が倒れただけで、死ぬとは思ってなかったんだけどな」
「……でも良かったよ」
私が笑うと、吉村も笑った。
少し会話を交わして時間を見ると、カフェに入ってからもう二時間も経過していた。
「長い時間悪かったな」
「ううん、こちらこそ。あ、それと」
「ああ、千里にはもちろん内緒にしておくから」
「ごめんね。お願いします」
「デリケートな問題だし、いくら俺でも勝手には言わねぇよ」
やはり大人になった吉村は乱暴に伝票をひったくると、二人分の会計を済ませてくれた。
私がどれだけ言っても払わせてはくれずに、その日は解散になった。
最後に吉村は言う。
「今日、俺が最初に言った事忘れろよ」
「最初って……。ああ、初恋ってやつだ」
「だからぁ、忘れろってば」
「どうしよっかなー」
吉村に軽く肩にパンチをされた。
昔を思い出して楽しくなった。
吉村とふざけながら別れた帰り道。
車道脇に並ぶ綺麗な花壇を眺めていると、後部座席にあった花束を思い出した。
綺麗にラッピングされた黄色い花束。
千里はどんな思いで買ったのだろう。
どんな花が好きだろうかと、あげたらどんな顔で喜ぶだろうかと、考えながら選んだのだろうか。
そう思いながら、慣れない花屋に入ったのだろうか。
そうであるならば。
そうであるならば、私は………。
歩みを止める。
どうしても次の一歩を踏み出すことができずに、しばらくの間立ち尽くした。
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