男装舎人と女装宮女は、今日も忙しい

たまや

第1話

朝早くから廊下を走ってくる音がバタバタと聞こえてくる。こんな風に我が家の廊下を走ってくるのは、だいたい、一人ぐらいだろう。その音を聞きつけてさらに後ろから悲鳴も聞こえる。なんだかこれが恒例となってきているような気もするが、出仕の準備で忙しい。取り合えずそこの扉が開くまでは、無視だ。


 「つーきー!!」

 「やっぱりお前か?相も変わらず、なんで騒々しく登場するんだよ。」

 「いやいや。だって、一番に知らせたくてさ。月に!!」


 そんな会話をしていると更に登場するのは例のごとく婆やである。

 

 「藍様!!いい加減になさいませ!!何度言ったらわかるんですか?たとえ由緒ある家のご子息といえど女人の部屋に大声で朝から足を踏み入れては、いけません!!」

 「あ、婆やどの。大丈夫です。今は、女官ですから。」

 「はあ~。何をおしゃっているんですかー!お嬢様が許しても婆やは、認めません!!どのような格好をしていても、ついているものが付いているんですよ!!お分かりですか?毎回毎回!同じようなことを言わせないでくださいまし!!」

 「ぷぷぷ。ついてるもの…。あーははっははは。だよな。ぶら下がっているもんな。」

 「お嬢様!!なんて下品な。」

 「え?だって、婆やが…。ついてるって言うから。」


 腹を堪えながら、ばあやの顔を見上げるともう、爆発寸前の真っ赤な顔をしている。それに追い打ちをかけるかのように藍が煽る。

 

 「まあ。婆や様。頭に血が上りすぎたら血管が切れてしまいます。どうか落ち着いてくださいませ。」


 この現状の根源が何を言う?と言いたいがとりあえず事を治めねばと思い、藍に無言で謝罪するように圧をかける。藍は、平身低頭で謝罪のふりをするが、それがまた笑いを誘いそうだった。


 「こんな風に朝から乱入したことは、お詫びいたします。ですが早く言わなくてはと思いすぎまして…。どうかお許しくださいませ。」


 女官のいで立ちなので女官のままで話す藍がまた、おかしくて堪らなかった。


 「婆や殿、今からお客様が来ますわ。それもかなりのお方ですのよ。これが言わずにいられますか?なので、どうか…。」


 藍が言いかけの途中で、婆やが言葉を遮った。


 「お客様?とおっしゃいましたか?それもかなりのということは、賓客!!んんーもう!!それならなおさら、この婆やの所に来てくださいらなくては!!どうしてあなた様と言いお嬢様も私の苦労を無視するのかしら!!はあ~こうしてはおれませぬ。明月明月!!」


 婆やは、さっきの怒りを忘れて、とにかく自分の仕事に戻るため侍女の明月を呼んで部屋を後にした。そう、それも駆け足でだ。『おいおい。婆や。あれほど、藍に走るなと言っておきながら』とまたおかしくて吹き出しそうになった。

 

 「藍。賓客って?」

 「重慶さんだよ。しかも仁軌さんを伴ってくるらしい。仲達さんが喜んでた。もう、宮中入りしたからこっちに向かってるんじゃないかな?」

 「え?なんだって。仁軌さんも?」


 重慶とは北光国の末皇子である。末皇子という立場のため、まあまあ自由に過ごしている。権力に興味もなくふらふらと諸国漫遊してると豪語する変な奴だ。我が国西蘭へも、気が向いたらふらっとやってくる。数年前に国境でいざこざがあった時も自国へ帰らず過ごしていたぐらいだ。そして、仁軌さんは、もともと西蘭国の将軍だったが分けあって、今は北光国の将軍の職についている人だ。いわゆる外交官的な役割を買って出てくれていて我が国にとってはかなり大事な人物だ。そんな人を伴って来たとなれば、まあまあの出来事なのは、確かだろう。

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