第14話 魔女の娯楽

 扉を開けたのはミニスカメイドさんだった。街の屋敷の方にはロングスカートのメイドさんしかいなかったので、突然のミニスカメイドに僕は興奮していた。


 ミニスカメイドさんは、金色の髪を肩まで伸ばしている。顔は整っていてかわいい。この世界に来てから見た魔女関係の女はみんな顔が整っているがこれは魔力が関係しているのだろうか。


「僕の騎士が全然起きないんだけど」


「大丈夫です。本来この城には魔女の方しか来れないのですが、どうやら魔女に抱き着いていたことで一緒に転送されてしまったようです。そのため意識をなくしてもらっているだけですのでご心配には及びません」


 大丈夫なようだ。まるで死んだように固まってしまってるから少し焦ったのに。


「それではこちらに」


 メイドさんに連れられ僕は部屋を出る。


「この後はすぐに裁判に出るの」


「いえ。まずはこの城の主たる魔女にあってもらいます」



 一つの大きな扉の前に連れてこられた。この城はとても大きいのだが窓の外に景色が広がっていないのが難点だ。窓から外を見ようとしてもそこは闇に包まれているかのように黒く塗りつぶされている。


「お連れしました」


 部屋の中に一声かけて中に入っていく。中は執務室のようになっていて、そこに一人の女が座っている。深い青色のドレスを身にまとっている青髪の女だ。


「君はどの魔女なのかな」


「私は最古の魔女、アルハ・ラグース。よろしくね」


「僕はレゼ・ルクエ。こちらこそよろしく」


 今度の魔女はしっかりと握手をしてくれるようだった。促されアルハの前にある椅子に座る。僕たちの前には紅茶が置かれた。それを一気に飲み干してお代わりを要求する。


「それで、これからの予定は。僕は裁判にかけられるだよね」


「ええ。そうね」


「正直そこが分からない。君たちは新しい魔女を否定するつもりなのかい」


 優しそうな顔で微笑んでいるアルハに質問をする。僕は何も悪いことはしていないのになぜ裁判にかけられる必要があるんだ。


「そうね。あなたは確かに悪いことはしていないわ。正直に言えばこれは単なる娯楽に過ぎないわ。言い換えるならただの新人いじめ」


「娯楽?」


「そうよ。新しい子が来ると毎回やってるの。適当なとこに難癖をつけてね。だからあなたが悪いということはないから安心してもらっていいわ」


 実際の温度感が分からない限り安心はできないだろう。新人いじめとは言っているが、僕は本当にその新人になることはできるのだろうか。

 

「ちなみにこの裁判で実際に処分された人はいるの」


「もちろん。今まで何人かはダメで処分されていったわ」


 じゃあだめだ。安心なんてできない。集団リンチに合わないように気を付けなければいけない。


「あなたはどっち派」


「私は傍観。見て楽しむタイプなの」


 なるほど。それはずいぶん楽しそうなことだ。そっち側ならばだけど。


「裁判はどうやって進んでいくの」


「まずはこの後、全体で集まりながらあなたを審議にかけるわ。あなたの基本情報はすでに共有されているからその場ですぐに投票する。それが終わったらあなたの反論ね。誰かに弁護してもらうことも可能だけど、まずは自分の言葉でしゃべるべきよ」


 弁護か。それならミリアスにやってもらうか。というかあいつここではどうなってるんだ。騎士は入れないらしいが、一人でやっていけているのだろうか。


「それが終わればいったん休憩。その間は私の騎士を一人案内につけるから自由に他の魔女と会話をしてもらって構わないわ」


「最古の騎士、ユヒ・スザンです」


 ここまで案内してくれたメイドさんが名乗った。この子が案内をしてくれるようだ。


「それが終わったらもう一度みんなで集まって投票。最後にメインイベントの大乱闘があって終わり。この大乱闘で勝ち残ることができればあなたも晴れて魔女の一員よ」


 愉快な裁判だな。なんで最初から大乱闘が組み込まれているんだ。僕は、用意されていた紅茶を飲んで一息ついた。一旦落ち着いて考えれば中々に楽しそうなイベントに思えてきた。


「わかった。それで、裁判はもうやるのかい」


「準備はできているはずよ。それじゃあ行きましょうか」



 アルハの後について城の中を進む。僕は遂に裁判に挑むことになった。連れられてきた部屋はずいぶんと薄暗い場所だった。


「暗いな」


 ライトは使われずに、ろうそくの火であかりを取っている。雰囲気が出ていい感じだ。魔女たちの顔は見えない。僕のいるところよりも随分と高い台の上に座っているようで、暗さと距離も相まって顔を見ることができないのだ。


 只、その中で一人明確に誰なのかわかる人物はいた。ミリアスだ。


「おい、騎士は連れてきちゃいけないんじゃないのか」


「彼女は特別よ。一人でしゃべることはできないし、頭の中に直接しゃべりかけられたら気持ち悪いしね」


「…………」


「気持ち悪いとは心外です」


 そのやり取りにくすくすと笑い声が聞こえてくる。


「それじゃあ。これより魔女裁判を始めるわ」


 アルハの掛け声とともに魔女裁判が開廷された。僕の運命を決める場にこの世界に来てからずっと一緒だったフィディがいないことに僕は寂しさを覚えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る