第6話:生きていた那月。

「那月・・・なんで?・・・ま、まさかだけど・・・おまえ幽霊?」


「違う・・・幽霊なんかじゃないよ・・・私はまだ死んでないから」


拓人には那月が死んでないって言った意味が分からなかった。


「だって俺、おまえの葬儀立ち会ったぞ」

「もしかして実は死んだって思われてたけど、仮死状態で火葬場へ運ばれる

途中で棺桶から這い出したとか?」


「違うの・・・この世界の私はほんとに死んじゃったんだよ」


「待て待て・・・じゃ〜なんで那月が生きてここにいるんだよ、バカなこと

言うなよ」


「拓・・・これから私が話すことをよく聞けよ」

「おまえ人の話聞いてない時があるからな・・・ちゃんと聞けよ、拓」


「俺をロバみたいに言うな・・・ちゃんと聞くわ」


「あのね、突飛な話なんだけど、いい?この宇宙にはね平行世界ってのが

あるの、パラレルワールドとかって言うんだって・・・」

「で、別の次元にここと同じ世界が存在するんだよ・・・信じないぞって言うのは

まだ早いからな、拓」

「で、私はその平行世界のここと同じもうひとつの世界から来たの」


「せっかくの性春物語がいきなりSFかよ」

「俺はそんなことどうでもいいから那月さえ生きててくれたらいんだ」

「おまえが何人でもかまわない・・・その平行世界人でもいいんだ」

「那月に触れることができて抱きしめることさえできたら、それにまだエッチの

擬似練習だってさせてもらってないし・・・」


「人の話を自分のスケベ心でさえぎるな・・・最後まで聞けよ、拓」


「分かった・・・話せよ」


「実はね、向こうの世界では私が生きていて拓が死んでるの・・・」


「なにそれ?・・・こっちじゃ彼女が死んでいなくて?向こうじゃ彼氏が死んで

いないのか?」


「そうだよ・・・私と拓が付き合うってことになったあの夜、拓な腹が減ったって

言って冷蔵庫みたら何にも買い置きがなくて、しかたないからコンビニへカップ麺

を買いに言ったの・・・」

で、コンビニの前が下水工事してて、コンビニまで遠回りることが面倒だった拓は

工事現場のガードを乗り越えて近道しようと思って、足を滑らせて下水へ落っこちゃったの・・・でたった1メートルのなかった溝に頭から落ちて打ち所が悪くて

そのまま・・・拓の死体は次の朝、コンビニに来た客が見つけたの」


「え〜俺ってそんなかっこ悪い死に方したんだ・・・おえ〜勘弁しろよ」

「もっとさ・・・難病にかかって那月に看取られながら死んだってことにしてくれないかな?」


「死んじゃったら、どんな死に方したって一緒だよ」


「だけどさ・・・おまえ現場にいた訳じゃないんだろ・・・なんでそんなに詳しく

知ってんだよ」


「教えてもらったから・・・」


「教えてもらった?・・・へ〜そんな親切な人いたのか?」


「拓を亡くした私は悲しくて・・・これでも女だからな・・・泣く時だってある

んだからな・・・バカにするなよ」


「バカになんかしてないわ・・・ちゃんと那月のことエロい女だって思ってるよ」


「エロいってなに?」


「いつだってスカートからパンツ見せてるだろ・・・エロいって」


「いいよもう・・・ってどこまで話した?」


「俺が死んだってことを見てきたみたいに詳し〜く教えてくれた親切なヤツが

いたんだろ?」


「そうそういたの・・・すっごい人が・・・」


つづく。

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