第12話

めったに会社を休まない賀屋さんが1週間休んだ。お母さんのことでと言う話で、もっと前に休みたかったけれど、6月末の処理を確認してからと言うことで先延ばしにしていたらしい。

二宮部長が新しい本田本部長にそう説明している。

「なんだ、私が来たことへのあてつけか」

本田本部長の大声に、二宮部長が「いえ、前からの予定でして」と言った後、「言われていました、スキル表や週報についても、賀屋課長と相談しながらと思いますので、2週間ほど猶予いただけますか」

一層不機嫌になった、本田本部長が二宮部長を怒鳴り続け、二宮部長は「申し訳ありません」と頭を下げ続けている。

「いいか、きみは首だ。親会社から後任を呼ぶ。覚悟しておきなさい」

一応、その言葉で収まった。

もう仕事どころじゃないよ。でも、美馬さんは何もなかったように仕事を続けてる。これもすごいと言うべきか。


次は、美奈ちゃんの話。

朝一番に、社長が山バカを呼びつけて、大声の怒鳴り合いになったって。

本部長が足利さんから本田に代わる話を、社長に事前に話せずに進めたらしい。

「私は、別の人選を進めていたんだ。それが、人事からいきなり本田で決定の連絡だ。『香川社長も当然御了解済みのことと思っていました』と驚かれたよ。君は私の顔に泥を塗る気か」

「言ってませんでしたか。いやあ、すみません。私は香川社長ほどのんびりしていないものですから」

「なんだと。もう一度言ってみろ。私のどこがぐうたらなんだ」

「ぐうたらじゃなくて、のんびりと言ったんです」

そこに、バカ山、いや先山も加わって1時間位もめていたらしい。

「大企業ってのはあんなことばっかで、いつ仕事してるのかね」

「それが、あいつらの仕事なんだよ」

美和ちゃんと私の会話です。


神田さんの話だと、営業も山バカ本部長と玉木部長の間でいろいろあったって。

山バカの、日報や、報告方法や、大規模プロジェクト向け営業などの命令に玉木部長が「全員に本部長の御意向通り徹底させるのに2週間ばかり必要かと」とかをもごもご言い、山バカが大声で怒鳴り散らし、玉木部長がまた、もごもごと言うのが繰り返されたらしい。

「お前は役立たずだ、首だ、親会社からまともな部長を連れて来る。覚悟しておけ」山バカの言葉で一応終わったって。

みんな、こっそり集まって、この会社どうなるんだろう、親会社のやり方通りなら仕事にならないよ、なんか仕事楽しくないな、部長もあんな連中に代わるならもうこの会社辞めるしかないな、なんて言い合ってた。

次の月曜日、賀屋さんがもう4日ほど休むってことになって、本田本部長と二宮部長で、また怒鳴る、謝るが繰り返された。


そして金曜の朝、私はその日までに終わらせる仕事が遅れていたので8時過ぎには出社した。

いつも8時前には会社に来ると聞いていた本田本部長も席にいて新聞を読んでいる。二人だけか、いやだなあ、誰か来ないかなあと思いながら仕事してると、本田本部長のスマホの着信音が鳴る。

「はい、はい、直ぐ参ります」

お辞儀をしながらスマホにそう話し、私に向かって、「きみ」と言う。

「親会社の人事部長から呼び出しがあったので出かけるから」

そう言って小走りに出て行った。

しばらくすると、二宮部長が出社してきた。私を見つけて「本部長は」と聞く。

「さっき、親会社の人事部長から呼び出されたと言って出かけました」

「そうか、決まったか」と二宮部長。

次に、美馬さんが出社。

「本田さんは」

「さっき、親会社の人事部長から呼び出されたと言って出かけました」

「決まったのね」

何だこりゃ。何が決まったの。

美奈ちゃんからLINE。

「さっき、社長とバカ山が親会社から呼び出されて慌てて出て行った。「本田も同じだよ」

神田さんが入る。

「山バカも」

何が起こってるのだろう。

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