要注意新聞

柳居紘和

第1話

 ―ガコン。


 夜明け前の薄暗い時間にとあるアパートの郵便受けに新聞が配達された。その部屋で暮らしている男はまだ夢の中である。


 12時間後。

「痛ってぇ~、絆創膏どこだったかな?」

 男が外出先から帰宅してきた。野良犬に足を噛みつかれてしまったようで、少しだけ出血している。普段開けない棚の奥を漁り、男はやっと絆創膏を見つけだした。

「ったく、ついてねぇな。」

 絆創膏を貼った際に出たごみをごみ箱に捨てながら男はぼやく。

「あー、ゴミもいっぱいじゃねぇかよ。面倒くせぇ…。」

 男は家中のゴミ箱のゴミをまとめて、市指定のゴミ袋に詰めて袋の口を縛った。そして部屋の外に出るとアパート入口にあるゴミ捨て場へと運んだ。

「よーし、これですっきり…あれ?」

 男がふと郵便受けに目をやると、自分の部屋番号のものに新聞が投函されているのが見えた。ようやく男は新聞に気が付いたようだ。

「部屋間違えたのかな?…うーん。」

 実はこの男、新聞をとっていないのである。配達ミスかと思い正しい場所に投函し直そうとするが、どの部屋の住人がこの新聞をとっているかさっぱり見当がつかない。

「…何かしら役には立つだろ。」

 面倒になった男は新聞を持って帰ることにした。立派な窃盗であるが、配達ミスする方が悪いと言い訳をして新聞を引っこ抜いた。

「ん?」

 その新聞には『要注意新聞』と書かれていた。


「ふーむ…。」

 男は部屋に戻ると新聞を広げて読み始めた。普段は新聞なんか読まないのだが、変な新聞の名前に興味をひかれたからだ。

 新聞の一面は昨日未明に起こった殺人事件、二面は政治面、三面は感染症が流行している件についてである。今のところ特におかしなところはない。

「いたって普通の新ぶ…あれ?」

 数ページ捲ると突然何も印刷されていないページが現れた。否、何も印刷されていないわけではない。中央に数行だけ文章が印刷されている。


【今日の要注意アニマルは犬】


「なんだこれ?」

 占いの類だろうか。確かに男は今日犬に痛い目に遭わされているが。

「はは、占いにスペースとりすぎだろ。しかも当たってるし。」

 他におかしな場所はなかったので、男は新聞を閉じて普段使わない棚の奥に大切にしまった。古新聞は洗濯した靴に入れてもいいし、折り紙でゴミ箱を折ってみかんの皮を捨ててもいい。プレゼントのラッピングにだって使える便利な道具なのだ。














 新聞は翌日も届いた。

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