第40話 偽ライラックを連れ去る
俺は、いつもの様に午後八時に会社を出るとマクラーレンF40で自分のアパートメントに向かった。勿論マニュアル走行だ。
運転しているとF40防御システムが
『後ろから付いて来る車が有ります』
俺は後部カメラを見ると普通のRDCに見えるが交通管制による自動走行ではないRDCが付いて来ている。自動走行ならこちらの速度に合わせて一定の間隔を保つはずだ。
『近付いてきました』
「止められるか」
『はい』
「やってくれ」
車の後ろに付いている二つの穴からプシュッと音がした。その瞬間、付いて来たRDCが回転しながら急停車した。
降りて来た男二人が手に持っているのは…、不味い小型ロケットランチャーだ。何であんなも物を。
「あれを破壊できるか」
『はい』
後部に付いている穴から連射で弾丸が発射された。その瞬間、男が背中に担いでいたロケットランチャーが爆発し、RDCと二人の男が吹き飛んだ。
『ミッションコンプリート』
「ご苦労」
俺はスピードを上げて車を走らせた。ソレイユはここまでするのか。もう前に会った時の彼じゃない。単なる殺人者だ。
部屋に戻ると
「環奈、帰宅中に襲われた」
「えっ?」
「でも、撃退した。
「どうやって?」
「ライラックのアパートメントを訪ねる。俺一人と言ってね。環奈は隠れて付いて来てくれ。
彼がドアを開けたらカイラがいる。彼女は破壊する。ライラックは足止めというか気絶だけさせたいが出来るか?」
「出来ます」
「それでは今度の日曜日に実行しよう」
「はい」
§国際最新技術構築協会
「理事長」
「どうした?」
「金瀬一郎の確保に失敗しました」
「なに?彼は一人で運転したんじゃないのか。一号機が一緒だったのか?」
「いえ、彼は一人です。ただRDCに似せて走らせていたのですが、タイヤを打ち抜かれて停止してしまったので、小型ロケットランチャーを使って車だけ破壊しようとしましたが、発射する瞬間にロケットが爆発しました」
「何だと。回収はしてあるだろうな?」
「はい、後続の者達に回収させました」
「そうか」
どうやってロケットを破壊で来たんだ。報告では彼の方から攻撃を仕掛けた行動はみせていない。
あれが勝手に爆発するはずもない。破壊されたのはロボットだ。別に壊れても問題ない。しかし、中々手に入らないな金瀬一郎は。
その週は土曜日の勤務が終わる迄何も起こらなかった。会社にいる間に俺はライラックに
『ライラック、今度の日曜日だがお前の家に訪ねて良いか?』
『なんだいきなり?』
『なに、上手いワインが手に入ったんでな。俺一人で飲んでしまうより親友のライラックと一緒に味わおうって訳だ』
『それは嬉しいな。恋人を呼んで料理を作って待っている』
『それは嬉しい限りだ。では日曜日に』
『おう』
§ライラック・ゴードンのクローン
どういう風の吹き回しだ。今迄俺を呼びつけていたか外で会ったのに。まあいい。彼を確保するチャンスかも知れない。カイラに協力して貰うか。
日曜日、俺は環奈と一緒にマクラーレンF40に乗ってライラックのアパートに向かった。
「一郎さん。トラパシーが付いて来ています。どうしますか?」
「どうにか出来るのか?」
「はい、排除します。車を脇道に移動させてそこで止めて下さい」
「分かった」
俺は環奈に言われた通りに脇道に逸れると直ぐに車を停めた。
「一郎さんはこのままで」
環奈が一人で降りて行った。曲がり角を車が入って来ると環奈が右手を上げて車の方に向けると、えっ?RDCが停止した。どうなっているんだ?環奈が何食わぬ顔で戻って来ると
「一郎さん、出かけましょう」
「どうやったんだ」
「ふふっ、これです」
環奈は小さな箱を見せた。前に教えてくれた単一指向性強電磁波発生装置だ。
「これでトラパシーのメイン中枢を破壊しました。相手は監視用ロボットです。気にする事はありません」
環奈は初めて会った時より明らかに変わって来ている。どこまで変化いや覚醒か、していくんだろうか。
俺はライラックのアパートメントの地下駐車場に着くと環奈と一緒に降りた。エレベータで彼の部屋がある階まで上がると彼の部屋に行く前に
「環奈、少しの間、ドアの外でカメラから見えない位置に立っていてくれ。開けたら直ぐに入って先ずカイラを破壊してくれ。あれは人造人間だ。その後、ライラックの動きを止める」
「分かりました」
俺は環奈をカメラが捉えられない位置に立たせると彼の部屋のドアの前でインターフォンを押した。
「カイラ、一郎が来た。入れた所で直ぐに捕まえるぞ」
「分かったわ」
ライラックがドアを開けたところで、俺は驚いた様子を見せて部屋に入らずに時間を稼いだ。
「ライラック、来た…。カイラ・マルフィック。死んだんじゃないのか!」
「一郎、事情を話すから上がってくれ」
俺は驚いた振りと何も知らない振りをして
「…分かった」
と言って俺は大きくドアを開けた所で手で合図した。
環奈は信じられない動きで俺とドアの前に来ると一瞬でカイラの頭が真っ黒になり、その皮膚が崩れた。そして中から銀色の顔の形が現れたと同時に倒れた。
「一号機」
ライラックが言うや否や環奈は、脊髄の部分に強烈な一打を浴びせた。ライラックの首がガクンと垂れ下がった。
「簡単でしたね」
俺には環奈の動きが全く見えなかった。あまりにも早い。人間が出来る動作ではない。
「あの、一郎さん?」
「あっ、すまない。環奈の動きが早すぎて驚いていたんだ」
「ふふっ、私の動きは人間の十倍以上です。目で捉えるのは無理です」
「そ、そうか。所で環奈。ライラックだけ連れ出せるか?」
「簡単ですけど、カイラはどうします?」
「これには用がない。直ぐに
「分かりました」
環奈はライラックを片手で持ち上げて肩に乗せると
「行きましょうか」
「う、うん」
俺の妻って怖いな。
「ふふっ、一郎さんの前では一人のかよわい女の子です」
地下駐車場まで誰とも合わずに来れた。後は後日、これをグローバルマンディのあそこに持って行って保管するだけだ。
§国際最新技術構築協会
「理事長、緊急事態です」
「緊急事態?」
「はい、一号機に付けていたトラパシーが破壊されました」
「それがどうした?」
「それと…。カイラ・マルフィックが破壊されました。そしてライラック・ゴードンのクローンが殺されて持ち去られました」
「何だとう!誰だ犯人は?」
「カイラが送って来た最後の映像に金瀬一郎と一号機が映っていました」
この前金瀬一郎を強引に確保しようとしてあいつらの犯行を呼び起こしてしまったか。まさかこんなに簡単にやらせるとはな。
もしライラックのクローンが金瀬一郎の手で詳細に解剖され研究対象になったら我が組織の致命的な損失になる。もう待っていられないか。
―――――
次回もお楽しみに。
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