第36話 静かな時は密かに動く
トラムV3が消滅し、世界の各施設の中枢AIが暴走してから一年が経った。あの騒ぎはパワーサプライプラントの管制AIが突然消滅した事で中枢AIが停止して人的犠牲を少なくする事が出来た。
だがトラムV3が消滅し、中枢AIが暴走した事やパワーサプライプラントの管制AIが消滅した事の原因は全く分かっていない。
更に中枢AIが再起動した時、全く元の動きに戻った事も操作担当者の疑問として残った。
表面的にはそれで終わった。
世の中の噂では、
-行き過ぎたAIが自己を反省して消滅させたとか、
-神が降臨して人間にこれからの道筋を示したのだとか、
-どこかの国のAIが自分に都合の悪いAIを消滅させているのだとか、
-どこかにAIを全て統率する陰のAIがいて気に入らないAIを消したのだとか
色々な噂が巷に溢れ出た。
だけどそれは人間自身が作ったAIという代物が自身では制御できない代物に変化したという事を他人毎の様に受け止めるいる人達だ。
だが人類の八十パーセントは信じても残りの二十パーセントはそうでは無い事を知っている。
§国際最新技術構築協会
「情報局長、何台目だ?」
「はっ、既に五台のトラパシーが破壊されています」
「攻撃される事が分からないのか?」
「気付く前に破壊されている様です」
§ソレイユ
一号機の覚醒はもう俺達の技術では遠く及ばないものになっている。一号機の消滅の為に開発した二号機も向かわせた。
トラパシーが二号機に指示を送った瞬間にトラパシーも二号機も何もしない内に破壊された。
一号機を破壊できると我が組織の技術を結集して開発した二号機が一号機に何も出来ずに破壊された。いったいどうやってこちらの動きが分かるんだ。
だが、我々が提供している商用AIは一台も消滅されていない。それは一号機の配慮かそれとも変な思想を持たせていない事から危険と認識されていないからか。
いずれにしろ早くあれに入れ替えるしかなかろう。流石にあれは一号機でも認識出来ないはず。
§金瀬一郎
俺は、久しぶりにライラックと会っていた。トラムV4の開発も順調に進み、もうすぐ市場にリリース出来る。
ホワイトペーパーでメディアからコンシューマにコマーシャルする効果は大きく、グローバルマンディのカスタマセンターには、コンシューマだけでなく色々な企業からいつリリース出来るのかという問い合わせに大忙しのようだ。
CEOもトラムV3が原因で発生した巨額の損失や賠償も気にしなくなっていた。何と言っても某国の国家予算の半分を失う程の損失だ。それだけにトラムV4への期待は大きい。
§ライラックと一郎が長い間過ごした大学のバー
「ライラック、随分な活躍だそうじゃないか」
「一郎に言われたくは無いが、今回の人工皮膚は自信作だ。マイナス二百度の極寒地でも人間がそれを着れば寒さを感じない。チェーンソーで切ろうとしても歯がこぼれるだけだ」
「CEOが自慢していたぞ。ライラックは本業以外でミリオンセラーを巻き起こしたスーパースターだと自慢していた」
「止めてくれ。一郎の能力の前では俺の知識等幼稚な技術だ」
「謙遜するな。CEOがお前を人工皮膚開発部門の最高責任者にするって言っていたぞ」
「本当かそれは!」
「ああ、いよいよだな。ライラックが目指す目標に近付く事が出来る」
「ところで環奈さんは息災か。前に体調を崩したと聞いてから随分経つ」
「もう、大丈夫だが、やはり復調していない感じだ」
なにせ色々忙しいようだからな。
「そうか、偶には会いたいな」
「ああ、言っておく。ライラックに会うのも久しぶりだからな」
ライラックも俺も何年も変らない好みの酒を交わしながら長い時間過ごした。
そしてもう日付が変わる頃になると
「一郎、流石に帰るか。いくら明日が日曜でも流石に飲み過ぎだ」
「そうだな。俺も酒が首元迄来ている」
「そりゃぁ飲み過ぎだ」
「「お互い様だ。あははっ」」
俺はマクラーレンF40を交通管制制御下の自動運転モードにして帰った。ライラックはRDCだ。あいつももうすぐ自分専用の車を持つことが出来る。
§ライラック・ゴードン
あれからAIの消滅は無くなり世の中は静かになった。カイラも何も変わりなく過ごしている。だからこそ今どうしているか知りたい。
カイラが言っていた。
だけどカイラを一号機に会わせるわけにはいかない。だから俺が彼女金瀬環奈を密かに映してカイラに送る事にした。
―――――
次回もお楽しみに。
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