第44話 精霊ちゃん
キリエたちが町を出てから数十分が経った。
馬が大地を蹴り上げる音と車輪が回る音だけが響き続けている。
「あ、あの。
あなたも魔術師さんなんですか?
...あ、私はミルゼと言います!魔術師です!」
青年のパーティらしい女の子がキリエに話しかけてきた。
「いえ。魔術師ではないですわ。
精霊術師のキリエですわ。」
「精霊術師さんなんですね!
私初めてお会いしました!」
ミルゼは目を丸くキラキラさせてキリエを見つめる。
「精霊術師ですか。
やっぱりそうだと思いましたよ。
精霊術師はおかしな人が多いと聞きますからね。」
青年は正面を向いたまま独り言のように呟いた。
「カイル!なんて事言うんですか!
キリエさんはきっといい人ですよ。
精霊術師さんには選ばれた者しかなれないですし、上品そうな佇まいを見ればわかります。」
「ふふふ。いいんですのよ。
お子様の相手は慣れていますわ。」
「まだ根に持ってるのかよ。」
ミルゼはどうにか場の雰囲気を良くしようと話題を探した。
「と、ところで精霊術師さんは特別な魔法を使えると聞いたことがあります!
キリエさんも何か使えるんですか?」
「え、えぇっと...それはですね...」
「ミルゼやめてあげなさい。
僕が間違っていましたよ。
おかしな人だから精霊術師だなんて偏見はよくありませんでした。
精霊術師を自称するような人はおかしな人だからそんな噂が流れるのだとよくわかりました。」
「カイル!」
皮肉を言うカイルをミルゼは
「つ、使えますわよ!特別な魔法!
もうすでに使ってますわ!
魔法のセンスもないド素人の冒険者にはわからないでしょうけど。」
「キリエ!お前も乗るなよ。
同レベルでしか争いは起きないってのはほんとだな。」
アクリョーもキリエをなだめる。
「で、どうするつもりだ?
そんなもの使えないってのは事実だろ。」
「メロ!メロちゃん!
起きなさいまし。この人たちにわからせてあげなさいな。」
キリエの隣で眠っていたメロは急に起こされた。
「ン...ナァニ?」
「困ったらまた子どもに頼るんですね。
まさか小さい子どもに頼るのが精霊術とか言わないですよね?
その子が精霊ちゃんなんですかぁ?」
カイルはさらにキリエを煽る。
「いえ。魔物ですわ!」
キリエはメロが羽織っている布を取り上げた。
3人は驚き、そしてすぐに武器を構えた。
「落ち着きなさいな。
この子は私の特別な魔法で使役している安全な魔物ですわ。
ほら、メロ。挨拶してあげなさいまし。」
「自己顕示欲にメロを利用するな。
かわいそうに。」
「オハヨザマス。メロ、デス。
...ネム、イデス。」
メロは目を擦りながら自己紹介をした。
「メロちゃん。いい子ですわね。
起こしてごめんなさいね。
寝てていいですわよ。」
キリエは再び眠るメロに布をかけた。
「すごいですね!メロちゃん可愛いです!
精霊術師さんは魔物さんともお友達になれちゃうんですね!」
「こんな魔物聞いたこともないですけどね。
まあ魔物くらいしか仲間にできない、人付き合いが苦手な精霊術師だということはよくわかりましたよ。」
「こりゃ一本取られたな。
キリエはすぐ人と衝突するし、一緒にいる俺だって幽霊だしな。」
「自分の知識の無さに開き直るなんて可哀想な人ですわね。
きっと1人で冒険したこともないんですわね。」
カイルはミルゼにコツンと頭を叩かれた。
キリエもプイッと馬車の外を眺め始めた。
「ほんとにガキだな。
お前だってメロがなんていう魔物か知らないだろ。」
キリエはギュッと目を瞑り全てを拒絶したような表情をしている。
「そうやってすぐ拗ねるし。
...まあそれにしてもほんとにメロは何者なんだろうな。
ギルドの2人もこんな魔物知らないって言ってたしな。
案外ほんとに精霊だったりするのかな。」
キリエは全く聞いていないようだ。
カイルもミルゼに説教されているようだが同じく聞き流している。
アクリョーは独り言を続けた。
「...精霊か。
いや...マジでそうかもしれない気がしてきた!
俺が視えるのも触れるのもやっぱりおかしいしさ!
あの町じゃ元々マセキメロンがすごく大切にされてたらしいし、それで付喪神が宿ったとか...
いや、だとしてもハバキの箒みたいに自我までは持たないよな普通。
種類が違うか...
そういえば、付喪神は人に幸せをもたらすのとイタズラするのがいるって言うしな。
大切にされて生まれた幸せをもたらすものと邪険にされて生まれたイタズラするものがいるのか?
にしてもメロは悪って感じでもないよな...
魔石が取れなくなって見捨てられたマセキメロンと、それでもメロンとして愛されたタバリンメロン。
その2つから宿った清濁併せ持つ特殊な付喪神なのかもな!
それなら似たようなスピリチュアルな存在の俺に触れたりできるのも納得できるし!
キリエ!どう思うよ!?」
アクリョー世紀の大発見に興奮し、キリエに意見を求めた。
キリエとメロはそれはそれは幸せそうに眠っていた。
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