第43話 冒険者たち

キリエたちが朝食の片付けをしていると冒険者ギルドに珍しく人がやってきた。


「こんにちはー!

依頼の報告に来ましたー!」


腰に剣を携えた青年はキョロキョロとギルド内を見渡した。

そしてキリエの元へ歩いてきた。


「受付の方ですか?

依頼報告の手続きお願いします!」


「私じゃないですわよ。

あちらのお姉様に話しなさいな。」

キリエはギルドのお姐さんの方を見る。


「またまたー?

どう見たって冒険者じゃないですか。

あ、営業前だから受け付けないってことですか?

早く来過ぎましたからね。

少し待つことにしますね。」


「いやだから。」

キリエは呆れて説明も面倒になった。


「どうしたんだい?

おや、もしかして商人の護衛依頼の子かい?」

ギルドのお姐さんがキリエたちの元へやってきた。


「はい。あなたも護衛依頼でここに来たんですか?」

「いいや、あたしはギルドのもんさ。

依頼の報告なら受け付けるよ。」


「は、はぁ。じゃあお願いします。」

お姐さんと青年は受付へと歩いて行った。


「やっぱ受付嬢はどこも可愛い女の子ってのが一般的なのかな。」


「私が可愛すぎたから受付嬢だと思ったんですのね。

それなら無理もないですわ。」

「1番弱そうで冒険者っぽくなかったからだろ。」


2人が話していると青年は依頼報告を終えたようでギルドを出て行った。


「あれ?追わなくていいのかい?

さっきの子は護衛依頼の往復を受けてるからね。

商人の馬車に乗りたいなら着いていって交渉するといいよ。」


「メロ!行きますわよ!」

キリエはぽやぽやしていたメロの手を引っ張りギルドを出た。


「ちょっと!待ってくださいまし!」


青年が振り返ると鋭い目つきをした女性が追いかけてきていた。

思わず走り出してしまった。


「ちょ、なんで逃げるんですの!」

「お前が怖いからだろ。」


戦い慣れていそうな青年とお嬢様の距離はどんどん広がっていく。


「仕方ないですわね。

駆ける者よ。その歩みを止めたまえ!

アイスバーン!」


キリエの前の地面が氷が侵食していく。

青年の影や青年の足まで凍りついてしまった。


「うわぁっ!」

足を止められた青年は盛大に転んでしまった。

地面に転がる青年にキリエたちは追いついた。


「な、なんですかっ!?

さっきはその、失礼しましたけど、ここまですることですか!?」

「流石にやりすぎだろ。」


「うるさいですわね。

あなたが逃げるから悪いんですわ。

私はあなたに、いえ、あなたの依頼人に用があるんですわ。

そこまで案内しなさい。」


キリエは氷を溶かし青年を解放した。


「ダイ、ジョ、ブ?」

メロは倒れている青年の頭を布越しでなでた。


「ああ。大丈夫だよ。ありがとね。」


青年は起き上がりメロに微笑みかける。

中腰をやめると険しい表情になりキリエを見つめた。


「あなたも冒険者のようですがどういったご用件ですか?

護衛依頼なら僕たちが受けているんです。

依頼の強奪なんて、ましてや町で他の冒険者を襲うなんて規約違反ですよ。

ギルドに戻りましょうか?」


「だからあなたが話も聞かずに逃げるからですわよ!?

それに依頼の強奪なんて考えてないですわ。

何度も言わせないでくださいまし。

依頼主の商人さんに話があるんですわ。」


「それが人に物を頼む態度ですか?」


「おい、キリエ。とりあえず謝っとけよ。

どう見たって悪いのはお前だぜ。

このままじゃ話が進まないだろ。

それに冒険者の資格剥奪なんてなったらまた500万だぞ。」


「わ、悪かったですわよ。

...これでいいでしょう?

馬車に一緒に乗せてもらえないか商人さんに交渉したいだけですわ。」


「そのために冒険者に魔法を放ったと?」


「す、スケートをしようと地面を凍らせたらたまたま近くにあなたがいただけですわ!」

「それは無理があるだろ。」


青年は怒りを通り越して呆れているようだ。


「ゴォメンナ、サイ。」


「はぁ...

子供に謝らせるなんて恥ずかしくないんですか?

...まあ、この子に免じて許しますよ。

僕は大人なんでね。」


「そーだそーだ!恥を知れ!

メロさんを見習ってキリエも社会性を身につけろ!」


「な...」

キリエは心を沈め、歩き出した青年に黙ってついて行った。


_______

「カイル!戻ったか。

...その嬢ちゃんたちはなんだ?」


「ああ。僕らの依頼主に用があるらしい。

商人たちはどこだ?」


「あそこで話してるよ。」

青年と話す大男が指を差した。


「だ、そうだ。」

青年が振り返ってそう言った。


「案内ご苦労様ですわ。」

キリエたちは商人の元へ向かった。


商人は農家のお兄さんと話をしていた。


「あれ?メロちゃん。

今日はお仕事は頼んでないよ?

もしかしてうちで専属で働きたくなったのかい?」


「今日はそちらの商人さんに話があってきたんですわ。

メロはうちの子ですわ。渡さないですわよ。」


「そうですか。

今取引中なので少し待っていてください。」


キリエたちは商人と農家の取引が終わるのを待った。


「して、お嬢さん方。

私に何か御用ですかな?」


「ごきげんよう。

冒険者をしているキリエと申しますわ。

商人さんの馬車に乗せていただきたく馳せ参じましたわ。」


「ほう。冒険者でしたか。

ですが護衛の依頼なら間に合っておりますよ?」


「仕事が欲しいわけではないですわ。

移動手段として乗せていただきたいんですわ。」


「そうですか。

馬車は4台で来てますが仕入れたメロンで埋まる予定ですからね...

1台は護衛の冒険者さんが乗ってますのでそちらなら可能では有りますがね。」


「ぜひそれでお願いしますわ。」


「まあタダとは行きませんよ。

そうですね...

では荷物の積み卸しをしていただくというのでどうでしょうか?」


「わかりましたわ。

メロンを運ぶのは得意ですわ。」

「それしかできないだけだろ。」


商人と話をつけるとキリエたちは青年の元へと戻った。


「こちらの馬車に乗せていただくことになりましたわ。

よろしくお願いしますわね。」


「おお。嬢ちゃんたちみたいな可愛い子なら大歓迎だぜ。」


「グレノ。さっきも言っただろ。

中身は相当アレだ。あまり関わらないほうがいい。」

青年は歓迎する大男に何かを耳打ちした。


「キリエさん!話は聞いたよ!

これから荷積みをするからよろしく頼むよ!」

農家のお兄さんがキリエに向かって手を振っている。


キリエはメロン荷積みを手伝った。

馬車3台に積めるだけメロンを積み終える頃、ギルドのお姐さんもやってきた。


お姐さんに見送られ、キリエたちはカイルと呼ばれる青年たちと共にタバリンの町を後にした。

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