第42話 間違った道

タバリンの町に着いて数日がたった。

キリエたち、いやメロたちはメロンの収穫依頼を毎日こなしていた。


今日もキリエたちは冒険者ギルドで夫婦と共に晩御飯をご馳走になっていた。


「毎日毎日メロンの収穫ばっかりで疲れましたわ。

そろそろ町を出たいですわね。」


「あはは。そうかい。

2人が来てすごく助かってるって依頼主の農家さんは感謝してたよ。」


「2人が来てじゃなくてメロが来て、だろ。」

お姐さんの言葉をアクリョーは訂正した。


「タバリンを出たら次はどこに向かうんだい?

宛ては決まってるのかい?」


「ビーストベルトですわ。

まずはシカトラに向かってますわね。」


「ビーストベルトねぇ。

その途中でこの街に来たのかい。

どこから来たんだい?」


「ヒコウの町ですわ。

北へ行けばシカトラに着くと言われてここまで来たんですわ。」


それを聞いたお姐さんは驚いたような呆れたような顔をした。


「ヒコウからタバリンまだ来たのかい!?

そりゃあだいぶ寄り道してきたねぇ。

...あんた、ちょっと地図を持ってきてやんな。」


隣でパンを齧る旦那さんはやれやれといった表情でギルドの受付の方へ向かった。


「ヒコウの町からは森がずっと続いてるからねぇ。

迷いやすいのはわかるけど、このままじゃ不安だよ。

冒険者なら方向感覚も身につけないと旅なんてできやしないよ。」


お姐さんの説教を聞いていると旦那さんが地図を持って戻ってきた。


「ここがヒコウの町だろ?

それでここがシカトラ、北に行けば到着するはずさ。」

お姐さんが指差す道はたしかにヒコウの町の受付嬢に教わったものと同じだった。


「そんで今いるタバリンはここさ。

ここからまっすぐ東に森を抜けていけばシカトラには着くけどねぇ。」


お姐さんの指はシカトラからかなり西の森の中を指していた。

どうやらヒコウの町からかなり北西に逸れて歩いてきていたようだ。


「あの受付嬢が言ってたのは正しかったんだな。

途中にはトロワ村しかないっていってたけど違う村ばっかりだから適当言ってたんだと思ってたぜ。」


「森の中で方角なんてはっきりわからないですわよ。

空から地図と見比べられれば迷うはずがなかったですわ。」

キリエはアクリョーを睨んだ。


「俺のせいかよ!」


「まあそうだね。

空から見れりゃ広大な森でも流石に迷いはしないだろうさ。

でもそんなことはできないからねぇ。

コンパスを持ち歩くべきだよ。


こんな森の中の廃れた町に来るのはちゃんとコンパスを持ってるかコンパスも必要としない熟練の冒険者くらいだからね。

残念ながらうちにはコンパスは置いてないけどね。」


「この町からはまっすぐ東に行けばいいだけですわよね?

なら大丈夫ですわよ。」


「ヒコウとタバリンに比べたら少しは短いけど、それでも結構距離があるからね。

あんたたちじゃきっとまた迷子になるだけさ。

別の方法を考えた方がいいと思うよ。」


「別の方法ですの?

東に行く以外に何かあるんですの?

こんな四方が森に囲まれた町ですのに。」


「今メロンの収穫を手伝ってもらってるだろ?

もう2、3日したら仕入れのために商人が来る予定なのさ。

北の方の町で商売してるって話だったからその馬車に乗せてもらえないか交渉してみるのがいいと思うね。


北に行くのは遠回りだけど、キュウビ帝国まで入ればシカトラまでは町がいくつか連なってるからね。

ここから森を抜けるよりずっと楽に行けるはずさ。」


「そうなんですのね。

たしかに森を歩き続けるのはもう懲り懲りですわ。

馬車で行けるならそれを待ちたいですわね。」


「そうだろ?

だから出荷までのあと数日、もう少しだけメロンの収穫の方は頼んだよ。」


「わ、わかりましたわ。」

「なんやかんや丸め込まれただけなんじゃないのか?

お前が収穫の仕事から逃げようとするから。」


「シュウ、カク!」


キリエとアクリョーは若干腑に落ちてはいないが、商人が来るまでメロンの収穫依頼を続けることとなった。

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