第41話 上司

朝になるとキリエたちは冒険者ギルドの夫婦と朝食を食べた。


今日の店番は旦那がするらしく、お姐さんとともにタバリンメロンの収穫へ行くこととなった。


畑に着くとお姐さんは2人を置いて話をしにいった。

キリエとメロのことを紹介してくれているようだ。


しばらくするとお姐さんは肩にタオルをかけたお兄さんを連れて戻ってきた。


「君がキリエさんだね。

じゃあこっちの子が...」


「ええ。メロですわ。

私の言うことを聞くいいこなんですわよ。」


「そうか。この子が。

よろしくね。メロちゃん。」


キリエの後ろに隠れていたメロは前に出て、羽織っていた布のフードのような部分を外した。


「ヨロォシ...ク!」


「挨拶もできてえらいねぇ。」

「さらっとディスられたぞ。

キリエちゃんもいつもは挨拶ができるいい子なんですよ。」


キリエはアクリョーを睨んだ。


「よろしくお願いしますわね。

それで、仕事の方は何をすればいいんですの?」


「ああ。メロンを収穫して箱に詰めて隣の倉庫に運ぶところまでをお願いするよ。

収穫するメロンの見極めと作業のやり方についてはこれから教えるからね。」


農家のお兄さんはビニールハウスへとキリエたちを案内した。


「こんな感じのね、網目がしっかりして白色っぽくなってきているのが収穫できるメロンなんだよ。」


お兄さんは説明しながらハサミで蔦を切りメロンをいくつか収穫して箱に入れた。


「とりあえずこの箱が一杯になるまでやってみようか。

収穫する前にどのメロンにするか報告してね。

見極めは難しいからね。

他にもわからないことがあればなんでも聞いていいからね。」


キリエはメロンを物色し始めた。


「これはどうですの?」

「どれどれ...うーん。

ちょっと青すぎるかなぁ。

もう少し白くなってるやつを探してごらん。」


「じゃあこればどうですの!?」

「白くはなってるけど網目が全然だよね。

さっき僕が収穫したのと比べてみてよ。

甘めの密度が違うでしょ。」


「キリエは見る目がないからな。

これなんかどうだ?」

見かねたアクリョーがメロンを選定した。


「...これはどうですの?」


「さっきよりはだいぶいいね!

でもなぁ。近くの葉っぱが青々してるだろ?

果実に栄養がいって少し葉っぱが枯れてるくらいのがいいんだよ。」


キリエはアクリョーを見て鼻で笑った。


「なんでお前がドヤ顔なんだよ。

お前よりは見る目あるって言ってたじゃねぇか。」


キリエはしばらく周りを歩き回った。


「これ!これなんかどうですの!?」

「おお。良さそうだね。」


キリエは再びドヤ顔でアクリョーに顔を向けた。


「あ、でももうちょっとかなぁ。

お尻の方を見るとね、少しヒビ割れてるくらいにパンパンにならないとダメだね。」


「さっきからなんなんですの!

葉っぱとかお尻とか最初に聞いてないですわよ!

ちゃんと説明しなきゃわからないですわ!」


キリエは怒って奥の方に消えていった。


「...これ!これですわ!

葉っぱも枯れてるしヒビ割れてますわよ!」


どうやらちゃんと仕事はする気だったようだ。


「これは...

ダメだね。虫に喰われてるじゃないか。

まあ商品にはならないけどこのままにしておくものでもないからね。

とりあえず収穫の練習だけしようか。」


キリエは虫喰いメロンを収穫した。


「うーん...

やっぱり、収穫のサポートと倉庫への運搬だけを任せようかなぁ。」


お兄さんはキリエの才能の無さに失望してしまったようだ。


「コォレ!」


黙ってキリエに着いてきていたメロが突然叫んだ。


「メロちゃんも見てたら一緒に手伝いたくなったのかな?

どれどれ...

これは...最っ高だよ!

まさに今が完璧な収穫タイミングのメロンだ!」


「メロちゃん、ほら、このハサミを持ってごらん。

そうそう。収穫も上手だね。

...ほら!キリエさん!

突っ立ってないで箱をこっちに持ってきてよ!」


メロはお兄さんにハサミを返し、キリエが持ってきた箱に収穫したメロンを入れた。


「ア....チ。」

メロはまた別のところへ行ってしまった。


お兄さんはメロを追いかけた。

2人は楽しそうにメロンを収穫している。

そしてキリエは呼びつけられる。


「この子は天才だね!

やっぱり野性の勘とかなのかな?

専属で働いてもらいたいくらいだよ。

あ、キリエさん。ハサミ返して貰えるかい。」


お兄さんはキリエからハサミを奪い取るとそれをメロに手渡した。


メロは次々に収穫を進めすぐに箱が一杯になった。


「それじゃ倉庫に運ぶよ。」


お兄さんは箱を抱えて歩き出した。

2人もそれについていく。


「ここに箱を積んでいくんだ。

あっちに空の箱があるからね。

それを持ってまた収穫の繰り返しさ。


僕は向かいのハウスの方で収穫してるからね。

何かあったらすぐに来てね。

さっきのハウスはメロちゃんに任せるよ!

キリエさんもメロちゃんの指示に従ってしっかり頼むよ。」


お兄さんは向かいのハウスに消えていった。


「なんですの!あの人!

なんなんですの!あの態度!」


「ま、まあ。仕方ないよ。

メロンのことでメロに敵うわけないだろ。

適材適所ってやつさ。」


キリエたちはビニールハウスに戻った。


「コレ...シュカクゥ。」


「メロちゃん...。

ちょっと待ってくださいまし。

少し休憩にしますわよ。」


メロンの入った箱を持って歩き回らされたキリエはヘトヘトになっていた。


「もう休憩かよ。

やっとチュートリアルが終わったとこだろ。」


「口だけのあなたに言われたくないですわ。」


キリエが想像していたよりもメロンの収穫は過酷だった。


魔物討伐のように命の危険はないただの果物の収穫。

ヨウニーでイチゴ狩りを何度か経験していたキリエは軽作業だと舐めていたのだ。


「そういえばこの世界にビニールハウスなんてあるんだな。

思い返すとヨウニーの町でも結構見かけた気がするし。

ビニールなんてないと思ってたよ。」


「ビニール?なんですの?それ?」


「何って、ビニールハウスの、ここの屋根とかに使ってる透明のやつだよ。」


「ああ。グリーンハウスの屋根のことですの。

これはクリアーケンの皮ですわよ。」


「クリアーケン?なんだそれ?

皮ってことは魔物なのか?」


「海にいる8本足の巨大な魔物ですわ。

船を襲って丸呑みにするとも言われてますわね。

体は透明で前触れなく海から現れるんですわ。

その皮を洗って干したのがそれですわよ。

丈夫で水を弾く上に透明だから農業で使われるんですわ。」


「そんなやばい魔物の皮なのかよ!

海だしどうやって狩ってるんだ?

相当高価なんじゃないか?」


「そうでもないですわよ。

1匹から取れる量が多いですし。

繁殖期になると大量に浜辺に打ち上がるらしいですわ。」


「なんだよそれ。

そんな都合のいい便利生物なのかよ。」


「なんでもオスが腕を千切ってメスの体に植え付けて繁殖するんですって。

繁殖を続けたオスは最後には腕がなくなって海を漂って浜辺に打ち上げられるらしいですわ。」


「ずいぶんイカれた生き物だな。

腕が千切れるのも怖いし植え付けられるってのも怖いよ。

何よりそれが大量に打ち上げられるってことはそんだけ繁殖してるってのが恐ろしいな。」


「マァダ?」


仕事をサボって無駄話をするキリエたちにメロが声を掛けた。


キリエは休憩を終えメロの手伝いとしてメロンの収穫作業に戻った。



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