第39話 滅びた町
「あら、冒険者だね!
ちょうどよかったよ。仕事を探してるんだろ?」
キリエたちは冒険者ギルドに着くなり受付にいた女性に話しかけられた。
「え、ええ。冒険者ですわ。
仕事は...内容によりますわね。」
「タバリンメロンの収穫だよ。
今が収穫時期なんだけどね。人手が足らなくてさ。」
「収穫ですの?
それはメロンの魔物の討伐ですの?」
キリエは繋いだ手をギュッと強く握りしめた。
「魔物??いやいや、そんなの聞いたことないね。
タバリンメロンは普通の果物だよ。
まあでも食獣植物って言ってね、小動物を食べたりはするね。
だけど人を襲ったりはしないし動き回ったりだってしない普通の植物だよ。」
「そうですの。
冒険者の仕事は果物の収穫なんてものもあるんですのね。」
「そうだねぇ。
冒険者なんて名前だけど実際は何でも屋みたいなもんだからね。
魔物が多いところは討伐やら護衛やらの仕事ばかりだけど、この町は雑用の仕事ばっかりだよ。
雑用は嫌なのかい?
お嬢ちゃんはずいぶんと育ちが良さそうだもんね。」
「そんなことないですわよ。
...でも長旅で疲れたので今日はもう休みたいんですわ。」
「そうかい。明日からでも引き受けてくれるなら助かるよ。
このギルドは冒険者の宿屋も兼ねてるからね。
ゆっくり休んできなよ。」
「そうなんですのね。
それじゃあここでお世話になることにしますわ。」
「こんな広い城みたいな場所がギルドなんだな。
その割には人はあの受付嬢しかいなさそうだし。
てか受付嬢って柄じゃなさそうだよな。」
受付にいる女性はお姉さんというよりも
「こんなに広いギルドなのにあなた1人しかいないんですの?」
「ああ、そうだよ。
ここはあたしと旦那の2人しか常駐してないんだ。
旦那は外仕事に出てるから、今はあたし1人さ。」
「そんなんでギルドとして成り立つんですのね。」
「まあなんとかね。
あたしと旦那は元々冒険者だったのさ。
今はギルドの構成員として働いてるけどね。
この町にはほとんど人がいないから2人で成り立つのさ。
嬢ちゃんみたいな冒険者はたまにしか来ないからギルドで受けた依頼はあたしが旦那がこなすことが多いんだけどね。」
「それギルドの意味あるのかよ!」
「それなら直接依頼を受けたほうがいいんじゃないですの?」
「ギルドからの給料と依頼の報酬どっちも貰えるから意外と割りがいいんだよ。
この町は廃れちまってるけどね。
地理的には結構重要みたいでさ。
他のどの街からも遠いところにあるからね。
嬢ちゃんみたいな旅をする冒険者の中継地点としてギルド側としては維持しておきたいんだとさ。」
「そうなんですのね。
そういえばどうしてこの町は廃れてるんですの?
大きさで言えば結構な町に見えましたのに。
魔物に襲われたように見えなかったですし。」
「そうだねぇ。
あたしも初めてここにきた時にはもうこんな感じだったからねぇ。
旦那から聞いた話だ。少し長くなるけどいいのかい?」
「ええ。気になりますわ。
それに今日はもうお休みの予定ですもの。」
キリエは受付の近くにあったテーブルの椅子に座った。
メロもキリエについて行き黙って隣に座る。
「もう30年以上前の話だけどね。
旦那はここの生まれでね。
旦那が子供だった頃の話さ。
この町はマセキメロンってのが有名だったらしいんだ。
なんでもメロンの中に魔石って呼ばれる魔力がこもった石ができるらしくてね。
それがエネルギーとして注目されてたんだってさ。
それでマセキメロンを育てる農民や研究者が集まってきてね。
人が集まれば商人も冒険者もいろいろ仕事が増えるからね。
どんどん大きな町になっていったらしいんだよ。
そんな中、冒険者たちの仕事で多かったのがメロナキウサギっていう魔物の討伐だったのさ。
あまり凶暴ではないんだけどね。
マセキメロンを盗もうとする害獣だからって依頼が出回ったのさ。
そうしてしばらくしたらメロナキウサギを狩り尽くしちゃったみたいでね。」
「それで、仕事がなくなって冒険者がいなくなったんですの?」
「そうだね。それもあったのかもしれないね。
でももっと大きな問題があってね。
突然マセキメロンから魔石が取れなくなっちゃったのさ。
研究者たちも色々調べたみたいだけどね。
どうやらマセキメロンはメロナキウサギを逆に捕食もしていたみたいでね。
捕食することでその魔力を凝縮させて魔石を作ってたみたいなんだよ。
それがわかった時には後の祭りさ。
メロナキウサギは絶滅させちまったからね。
残ったのはタバリンメロンと呼ばれるただの美味しいメロンだけだよ。」
「そうなんですのね。
それにしてもあまりにも廃れすぎじゃないですの?
タバリンメロンだけでもやってはいけなかったんですの?」
「そうだね。
その頃は活気はなくなったけど、なんとか町として維持はできてたらしいんだよ。
本当の悪夢はこれからさ。
当時この町の領主だった男がね。
全盛期の活気を取り戻すために色々画策したらしいんだよ。
行き着いたのが観光の町にすることでね。
魔石についての博物館だとか、メロンの城なんかも建てたのさ。
町中にもメロンのオブジェをいっぱい作ったりね。」
「確かにそんなようなもの町中でよく見かけましたわ。」
「あんなもん作っても誰も喜びやしないのにね。
それで観光地化するためだといって税金をかなり引き上げたらしいんだ。
だけど観光に来る人なんてほとんどいなくてね。
旅の中継地として来た冒険者がちょっと立ち寄るくらいらしくてね。
町はいらないものばかり作って、民は働いてもそのためにお金をほとんど取られる。
それでみんな逃げ出しちまったのさ。
旦那の家族もその頃にこの町を出たみたいだよ。
その後には廃れ切ったこの町から領主まで逃げ出しちまったみたいでね。
移住しなかった頑固者たちと魔石が取れなくてもタバリンメロンを愛する数少ない農民だけが残ってね。
今のこの町になったのさ。」
「そうなんですのね...
魔物に襲われたわけでもなく、むしろ魔物を絶滅させたことで町が滅びるなんて。」
「まあ、その後の領主のが悪い部分が大きいんだけどね。
どっちにしろ人によって滅ぼされたのさ。この町は。」
その後もキリエと受付のお姐さんは雑談を続けた。
メロは飽きて眠ってしまったため、部屋に案内してもらいキリエたちは部屋で休むことにした。
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