第38話 タバリンの町

「こいつが何者かは置いておくとしてもだ。

どう見たって魔物だぜ?

このままじゃ一緒には行けないだろ。」


すぐ近くには町がある。

これからそこに入ろうというのに魔物を連れてはいけないというアクリョーの発言はもっともだった。


メロの見た目はシルエットだけ見れば普通の幼い女の子。

いや、一部の発育は普通とは言えないがそれでも人間として映るだろう。


白に近い薄緑の長い髪。

それも大人しくしていれば人のそれと何ら変わりはない。


オレンジ色の肌にエメラルドグリーンの瞳。

光のあたり具合にもよるが人間らしいと言えばらしく見える。


だが顔以外のほとんどの部分は若葉色や緑色といった、いかにも植物という色をしている。

実際手足は伸縮可能なようで、人間らしい形をとっているだけの蔦でしかないようだ。


「そうですわね...

流石にこのまま町へは入れないですわね。」


キリエは少し考え込み、カバンの中を漁り出した。

カバンから野営用の雨除けとして使っていた布を取り出すとメロに被せた。


「メロちゃん。

しばらくの間これを着てるんですのよ。

人前で腕を伸ばしたり、髪を動かしたりするのもだめですわよ?

わかりましたの?」


「ワ...カタ!」


雨合羽を着た子どものような、顔だけ出したてるてる坊主のような格好をさせられたメロは元気に返事をした。


「ほんとに大丈夫か?

魔物には見えないかもしれないけど、

お嬢様が浮浪児を引き連れてるようにしか見えなくて怪しくないか?」


「大丈夫ですわよ。

それならそれで魔物に襲われていた子どもを保護したことにでもしますわ。」


アクリョーは不安を拭いきれないが考えても仕方がないのでとりあえずは様子を見ることにした。


「それじゃあ早く町に行きますわよ。

きっとメロちゃんに似合う服も見つかりますわ。」


「そうだな。あれだけ大きな町だ。

子ども用の服ぐらい売ってるだろうな。」


キリエは布越しにメロの手を取って歩き出した。


メロと出会った廃墟を後にし、森を進んでいるといくつか似たような廃墟を通り過ぎた。


次第に廃墟と廃墟の間隔が狭くなってきていた。


「放棄された家が多いですわね。」


「なんか不安になってきたな。」


さらに歩みを進めるとだんだんと植物の割合が減り建物以外にも地面に石畳のような部分が見えるようになってきた。


「ここはもう町の中ですの...?

森と町の境が...というよりも人の気配が全然ないですわね。」


「もうすでに魔物に滅ぼされちまってるんじゃないか?」


「それにしては建物がそのまま残りすぎですわよ。」


魔物に滅ぼされた町をキリエはよく知っていた。

それに比べるとこの町は植物の侵食は多いものの建物はほとんど壊れていなかった。


家や道路の舗装だけでなく、銅像やメロンか何かのオブジェまで壊れた様子はなく至る所に散見された。


「不気味ですわね。」


「人の営みだけが綺麗に抜け落ちた感じだな。

何か流行病で人間が全滅したとか。

植物の魔物が人に寄生してみんな養分にされちまったとか...」


キリエは握ってきた手を離し肩をすくめた。


「...コワァ...イ?」


「そ、そんなことないですわ。

そんな話あるわけないですわよ。」


キリエは心配するメロを抱きしめた。


再び町の中心へ向かってキリエたちが歩いていると前方にフラフラと歩く人影が見えてきた。


近づいてみると精気を吸い取られ出涸らしになった樹木のような老人だった。


「ご、ごきげんよう。」


「ふぁんふぁ!ふぉぇふぁあふぉお!」

キリエの挨拶に対し老人は奇声を発してきた。


「お、おい!

ほんとに人間じゃないんじゃないか!?

何かに寄生されてるかもしれないぞ!」


キリエはメロを庇うように抱き付いた。

老人はポケットから何かを取り出した。


カポッ

「入れ歯をいれてなかったわい。

こんな町に来るとは、冒険者さんかな?」

「紛らわしいジジイだな!」


「ええ。そうですわ。

ここは大きな町ですのね。

でもその割には人があまりいないようですわね。」


「そうじゃろう。

このタバリンの町は昔は大ふぃあふあふぃぇ...」


老人は口から溢れた入れ歯を拾い再び装着した。


「まあ、あれじゃ。

この先に城みたいな大きな建物があるんじゃ。

今はそこが冒険者ギルドになってるからそこにふぃふふぉふぃい。」


老人は入れ歯を拾うとポケットにしまいそのままふらふらと歩き出した。


「とりあえずギルドに行ってみるか。」


キリエたちは冒険者ギルドに向かって歩き出した。

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