第34話 誘惑
(綺麗な星空だな。)
真っ暗な森の中、焚き火の灯り以外には何も邪魔するものがない。
夜空に浮かぶ星を眺めアクリョーは夜を過ごしていた。
キリエが眠る間いつも1人で見張りをしている。
そんなアクリョーの楽しみの1つが天体観測なのだ。
(星座とか勉強してればもっと楽しめたのかな。
...いや、異世界だもんな同じわけないよな。)
この世界には太陽が1つしかない。
月も1つだ。
生前はこんなにもまじまじと夜空を見ていたことなんてない。
それでも夜空に浮かぶ綺麗な月とそれを囲む小さな星々を見ていると、自分の身に起きたことなど忘れて元の世界にいるんじゃないかと錯覚してしまう。
ガサガサガサ
少し遠くで何かが動く音がした。
アクリョーは自分が見張りをしていたことを思い出した。
ガサガサガサガサ
「おい、キリエ。
起きろ。何かいそうだぞ。」
「ん〜ぅ...?」
キリエはうっすらと右目だけ開けてアクリョーを睨む。
「草むらに何かいるんだって!
寝ぼけてないで起きろ!」
「今ちょうど眠りにつき始めたところですのよ...」
不機嫌そうなキリエは目を擦りながら小声で文句を言った。
ガサガサガサガサ
草むらからゆっくりと何かが出てきた。
大きな角とそれに見合わぬ小さな体。
その瞳はこちらをじっと見つめているが、敵意は感じられなかった。
「キューン。」
「鹿か?あれも魔物なのか?
見た目も鳴き声も可愛らしいな。」
「鹿ですの?」
起き上がったキリエは暗闇にいる何かをじっと見つめた。
起きたばかりのキリエの目にはまだ暗闇の中がよく見えていなかった。
「キューン。キューン。」
遠くの鹿が鳴きながらゆっくりとこちらに近づいてくる。
「可愛いな。人懐っこいのかな。
餌でもくれると思ってるんじゃないか?」
アクリョーはすっかり鹿の虜になってしまった。
「あれは...ディアゴスティーニですわね。」
「なんだその名前!どっかで聞き覚えあるな。」
「人を見かけるとなでて貰おうと可愛らしく近寄ってくるんですわ。」
「可愛すぎだろ!
そんな癒し生物この世界にいたんだな。」
「その可愛さに魅了され手を差し出すと...」
「なんだ?舐めてくるのか?
それとも自分からなでられに頭を押し付けるとか?」
「スバッと鋭利な角で腕を切り落としてくるんですわ。」
「こっわ!急に展開が怖すぎだろ。」
「そしてそれに驚いていると今度は足や腕、体の端から少しずつ切り落とされバラバラにされるんですわ。」
「猟奇的すぎだろ!
恐怖の分割定期便ってか!?
いや、恐怖とかのレベルじゃねぇよ!イかれすぎだろ!」
「中には途中で飽きて殺しきらずに去っていく個体もいるみたいですわね。」
「いっそ殺してくれよ!
てか楽しむためだけにやってたのかよ!
やばい生き物しかいないじゃねぇかよこの世界!」
キリエが説明しているうちにディアゴスティーニはすぐそこまでやって来ていた。
「キューン。」
「やばいぞ!すぐそこだ!どうすんだよ!」
「対処方法は簡単ですわ...
サンダーボルト!」
バリバリバリ シュー
「最初の魅力的な誘いを全力で拒絶する。
これがディアゴスティーニの倒し方ですわ。」
キリエは強烈な稲妻を浴びせディアゴスティーニを倒した。
明日の朝食のために死体をそのまま冷凍させると、キリエは再び眠りについた。
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